パステル
*パステル視点*
「ここは……」
周囲を見渡すと大きなベッドのようだ。見知った人達が寝ている。私は隣に寝ている天使の女の子の頭を撫でると徐々に心が落ち着いてくる。
(ここは主様の拠点。私は今ここに居て、ここで生きている……)
頭の中で考え1つ1つ自分の現状を確認する。今は仲間達に囲まれて幸せな時間を過ごしている。これは間違いない。私は大きくため息をつく。
皆の中心で寝ている男を見る。私は今この人に助けられてここにいる。皆を起こさないように寝ている男のもとまで行くと私は唇を合わせた。
私は生前、エルフの集落に住んでいた。その世界で生きるエルフとしては普通だ。人間と共に生きているエルフの方が少ない。ただ、私は1つだけ特異点があった。それは魔力が普通のエルフより遥かに多い点だ。
魔力が多くても全て使いこなすのは難しい。だが、精霊魔法だけは違った。膨大な魔力を持って精霊魔法を使うという事は、精霊の召喚を行使出来るという事だ。それはエルフを含めてどんな種族でも出来ないと言われている行為だ。
「○○、ごめんなさい」
母は私に謝ってくる。この魔力のせいで私は孤立していた。エルフは強すぎる力を恐れる。私自身はしっかりと魔力の制御を学び、行使する方法を身に付けている。それでも恐れて誰も近寄って来ない。
「いいえ、母様。謝って頂く事なんてありません。私は母様と一緒に居られるだけでいいのです」
力があったとしてもそれを使う機会なんて望まない。平和にのんびりと過ごせればいい、そう思っている。その辺りは他のエルフと全く変わらない。
ある日、私は長老の家へと呼び出された。今まで特に掟を破った事もないし、魔法を使って危険な事もしていない。わざわざ呼び出される様な理由がない。
「お前を呼んだのは、次のお役目にお前を推挙する為だ」
お役目、早い話が生贄だ。エルフの森は結界を作る為に高い魔力を要する。その魔力を作り出す為に、数百年に1度高い魔力を持つ者数人が魔力を全て使って結界の維持をする。
「お前1人居れば犠牲になる者がお前1人で済む」
身勝手な話だ。とは言え、私自身もこの結界の中で平穏に過ごしてきた。恩恵を受けていたのにいざ自分の番になったと拒否をする訳にはいかない。ここに住むエルフとしては当然の事だろう。
「解かり……ました。お役目、必ず果たしてみせます」
私はかろうじて声を出すと長老の家を後にした。
私は母にお役目として選ばれた事を伝えると泣かれた。自分の子供が選ばれてしまったのであれば親として泣くだろう。私だって子供がそうなったら悲しいと思う。ましてや生まれつきの魔力が原因となってしまったら、自分のせいだと我が身を呪ってしまうかも知れない。
「母様、私は皆の役に立てる事が嬉しいのです。だから私を誇りに思って下さい」
(そして私の事は早く忘れてください)
そこまで言えなかった。死んだとしても誰かに覚えていて欲しかった。それが例え遺された者には残酷な事だとしても。私は母様と残された時間をゆっくり過ごした。そしてお役目の日、私は魔力を使い果たして死んだ。
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ある日、主様が世界を観光しようと言い出した。それからしばらくして路銀を稼ぐ為に森への調査の依頼を受けた時の話だ。
「エルフの森ですか?」
主様に依頼の内容を聞くとエルフの森の調査を受けたと言われた。何でわざわざ調査をするのか解からなかった。
「ああ、最近エルフが猟師と衝突しているらしい。それが本当なら結界が壊れたって事だから調べて欲しいんだそうだ」
主様がそんな事を言ってくる。結界が壊れた事を調べて人間たちは何をしようとしているんだろうか。私たちは全員で歩いて森へ入っていくとタリスが声をあげる。
「エルフの反応が多数いるわ。皆警戒して」
エルフがいるらしい。私は顔を布で包みフードを被る。エルフは人間の社会に入った者を嫌う。必要以上に敵対させる事もないだろう。
「ここはエルフの森だ!立ち去れ!!」
若い男のエルフがどこからか叫ぶ。結界のあるエルフの森であればこんな真似はしない。結界が壊れたという話は確かなのだろう。
「エルフの長老と話がしたい」
主様はそんな事を言う。エルフの長老が人間と会うなんて話は聞いた事がない。何を考えているのだろうか。それを言った瞬間、矢が飛んできた。それをネクが素手で掴む。どうやら敵だと思われたらしい。
「リム、エルフは3人だ。捕縛する魔法はあるか?」
タリスが結界で私たちを守る。これで矢はこちらに当たる事はない。
「あるぞ?パステルに教えてもらった捕縛術じゃ!」
リムが胸を張りながら言う。まさかアレの事だろうか。同族のしかも男に使う事なんて、考えたくない。リムは詠唱を開始するとそれを放った。そして私たちは男たちが居た所に向かうと魔法の蔦で亀甲縛りにされた男が3人転がっていた。
私たちはそれを見なかったことにして3人を引きずりながら連れて行く。この程度の怪我は魔法で治せるから問題はない。主様は敵対してきた相手に対しては容赦がない。生きているだけでもマシだと思う。
そして集落へと辿り着いた私は驚いた。どうやら私が生前居た集落らしい。森から出たことがなかった為、気が付かなかった。
(という事は母様が居るかも知れない!)
エルフは数百年生きるので、時代から逆算しても生きていて不思議はない年齢だ。私が住んでいた家へすぐにでも行きたいが、あくまで今回は依頼の一環として来ている。
主様が3人のエルフを広場に置く。するとあの長老が複数のエルフと共にやってきた。
「結界が破壊された理由を知りたい。出来るのであれば修復もしようと思う」
主様はそんな事を言い出した。確かにトラブルを解消するには結界が回復するだけで終わる。恐らく一番お互いに面倒のない結果を求めたのだろう。以前の私であれば全魔力消費した結界も私たちのレベルであれば容易に張り直せる。
「お前ら人間にそんな……」
若いエルフが喋ろうとしたが、すぐにティアの威圧で黙る。便利なスキルだと思う。
「理由を話してくれ」
主様が再度尋ねる。さすがに威圧が発生した状態では話しにくいのだろう。全員が押し黙る。主様がティアに解除するように言うと、一気に空気は軽くなった。
「結界は破壊されてはおらん。ただの魔力不足じゃ」
長老がそう伝える。複数のエルフの犠牲をもってしても私の後の結界は張れなかったそうだ。これ以上犠牲にすると村としての存続が危ういので止めたらしい。情けない話だ。
「なら俺たちがその結界に魔力を補充しよう。案内してくれ」
主様はそういうと長老は1人のエルフに案内役を任せて立ち去った。やれるものならやってみるがいい、と全てを諦めた様なそんな表情だった。
私たちは案内され私が死んだ場所に向かう。そこは何百年経っても何も変わっていなかった。
「そこの湖に魔力を込めてください」
案内したエルフはそう言うと湖に向かって指を差す。
「主様、私がやらせて頂いてもよろしいでしょうか?」
私が自ら立候補する。あの頃と今がどれだけ違うのか確かめたい。主様は「いいぞ」と許可をくれる。私は湖に魔力を込めるとすぐに満タンになってしまった。
(こんなものだったのですか……)
自分が強くなった事よりもこの程度の事で私は死んだ、その事実がとても悔しく思えた。案内したエルフは驚き、私たちを置いて長老のもとへ走っていった。
「さて、俺たちの用事は終わったわけだが……パステル、何かやりたい事があるんじゃないか?」
どうやら主様にはお見通しらしい。あの集落で不審だったのだろうか。
「はい、ここはどうやら私が生前住んでいた集落らしいのです。もしかしたら知人が生きているかも知れません」
私がそう言うと主様は「それじゃ、集落へ行こうか」と言って集落へ向かって歩いていく。私たちはその後に続いた。
集落へ辿り着くと長老が居た。長老は主様に礼を言うとそのまま去っていく。最低限の礼儀しか持ち合わせていないようだ。私は逸るあまり急ぎ足で自宅へ向かう。そして自宅の扉を開けるとそこには誰も居なかった。
(母様……?)
私は探すように部屋をうろつく。元々大きな家ではないので2部屋しかない。すぐに全てを見回ってしまう。主様たちが追いついて来る。私に声をかけられないようだ。
私はすぐに隣の家に向かい、扉を叩く。すると若いエルフが出てきた。
「何か用か?」
「すみません、隣の家のエルフはどうなりましたか?」
相手が何を言おうと関係ない。私は早く母様の事を知りたい。
「隣の家の親子か……2人共とも結界の魔力提供で他界したよ」
私の後の多くの生贄の中に母様が居たらしい。
(会えると思ったのに……)
拳を握る。誰のせいでもない。この集落のエルフの掟の1つが守られただけだ。だが、やるせない怒りと悲しみが残る。
「その親子が埋葬された場所を教えていただけませんか?」
かろうじてそれだけ声を出す。
「ああ、解かった。あの親子の知り合いなら墓参りをして欲しい」
この男も変な事を言う。私たちエルフは魂がなくなった死体は樹木の栄養分でしかない。墓を参るという概念は存在しないはずだ。
男に案内され私たちは全員で埋葬された場所に行く。何の変哲もない木の隣だ。私は隠していた布を取り去ると手を合わせ故人を偲ぶ。前に主様の国の習慣だと教えてもらった。
男は私の顔を見ると驚いていたが、私には関係ない。もうこの集落に戻ってくる事もないだろう。
「主様、用件は終わりました。帰りましょう」
私たちはこの件が終了した事を報告する為森を後にした。
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エルフ専用スレ part2
114 名無しのエルフさん
やっぱり、罵倒と鞭が最高だと思うんです!!
115 名無しのエルフさん
即物的な・・・
体を傷付けるなんて愚の骨頂
放置が一番です
116 名無しのエルフさん
まだまだ甘いですね
ス
117 名無しのエルフさん
おや?どうしたんですか?
118 名無しのエルフさん
放送禁止用語でも書こうとしたとか
書き込み途中で止まるというのはその恐れがあります
119 名無しのエルフさん
大体予想は出来ますが、それは下品だと思います
なら2人の意見を混ぜてみたらどうでしょうか?
120 名無しのエルフさん
手足を縛られ、罵倒だけされる
触れようとしてくるけどすぐに引っ込める
その繰り返しです
121 名無しのエルフさん
それはいいですね
マスターに頼んでみます
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(やはり同士の意見は為になりますね。ちょっと私は即物的になっていたようです)
私はパソコンを閉じると高揚した気分で主様のもとへ頼みに行く。
(母様、私は今幸せです)
欲しくてもいくら望んでも手に入らなかった仲間、そして主が居る。これ以上の幸せはない。