9話
剣をウィスプに振り下ろす。ウィスプは粒子になり消滅した。
「ふぅ……」
戦闘が終わり、息をつく。現在いるのは4階だ。あれから2日経ち代わり映えのない生活を続けている。
罠解除も問題なく使え今の所失敗はしていない。
新しい敵も装備も出ないルーチンワーク。それが続くのかと思った時それが出た。
(空を飛んでいる……人?)
大体60cmくらいだろうか。人型に昆虫のような羽根が生えている。
あれが噂のフェアリーという敵だろうか。
(魔法を使ってきて結構速い速度で動くんだっけか)
敵は1体しか見当たらない。これはチャンスだ。
ネクに目で合図をして同時に走り出す。一気に接敵し、斬りかかる。
しかし、剣は相手に当たらず空振りをした。
(早っ)
フェアリーはそのまま素早く横に移動しようとしていたが、その隙を見逃さずネクがハンマーで地面に叩き落す。
(ネクさんぱねーっす)
どうやらネクにとっては余裕だったらしい。落とされたフェアリーにすかさず剣でトドメを刺す。粒子に変わり消滅した。
奇襲成功である。箱を回収し、索敵開始する。
フェアリーは素早いので極力狙わないようにし、1体だけ出た時はネクに任せる。
俺はネクの動きを観察し、どうやったら当たるのか調べた。
しかし、フェアリーは思ったよりでかい。この手の妖精って2、30cmくらいじゃないのか?と疑問に思う。
その分動きが遅いのかと期待したが、飛ぶ時は羽根以外の力も利用しているようで素早い。
そうこうしている内に5階へと辿り着く。
(確か、この階にボスがいるんだっけか)
5階はボス部屋とその前の部屋に小規模の部屋が1つあるだけとの事。ボスに突っ込んで犠牲になった勇者からの情報である。
未だに1階層のボスは誰にも倒されていない。ボスはオーガという話だ。
オーガとは2~3mくらいの身長で肌の色が緑。筋肉質で凄い腕力らしい。体力が多く、かわし続けても中々倒れずジリ貧になるとか。
長期戦を想定しなければならず、緊張が続く為、相当苦しいらしい。
前の小部屋に楔を設置し、転移の羽を使って拠点に戻る。
アイテムボックスから念の為、未鑑定品を全て出して部屋に置く。
「ネク、ボスに挑んでみるか?」
ネクが頷く。何だかんだ言って戦闘のときは嬉々として戦う骨である。
「回復薬も気にせず使って頑張ってみような」
ネクがハンマーを上に掲げる。やる気は十分らしい。
「よし、行くか!!」
石を使い楔まで戻る。そしてボス部屋の扉を開けた。
ギギギギギィ
重い音を鳴らし、開いていく扉。部屋に入ると勝手に閉じていく。逃げる事は出来ないらしい。
部屋の中央には棍棒を持った巨大な体躯のモンスターが居る。
こちらの姿を確認すると雄たけびをあげながら突進してくる。
その速さは大したこと無いが、その迫力は凄い。近くに来ると棍棒を振ってくる。
(速いっ!!)
力任せで軌道を読みやすい攻撃だが、その速度は速い。
(だが、これくらいなら!!)
連日ネク先生を観察して戦い方を学んでいた。この程度の攻撃は難なくかわせる。
当のネクも全く問題にしておらず、かわしながら攻撃を仕掛けていく。
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長期戦。一言で言えば簡単だが、やる方からしてみればたまったものではない。
常に相手の攻撃をかわしながら、相手を切り刻む。常に緊張し戦い続ける。
慣れている者からしてもそう何度もやりたいものではないだろう。
「はぁ……はぁ……」
息が切れる。目が霞む。このまま寝てしまえたらどれだけ気持ち良いだろうか。
だが、今は戦闘中だ。そんな余裕は全く無い。
何度目だろうかオーガが棍棒を振りかぶり横から殴りにかかってくる。
「っつ!!」
油断、疲労言い訳をしようとすればいくらでも出てくる。俺は回避せず盾でガードをしてしまった。
オーガの筋力に勝てるはずも無くそのまま部屋の端飛ばされ壁に激突する。
「ぐぁ……」
声もろくに出ない。疲労のせいか、痛みのせいかは定かではない。後頭部をぶつけたせいか意識が朦朧とする。
霞んだ視界の中でネクが回避を捨て必死になって攻撃をし、自分に向かって来る様に攻撃を繰り返している光景が見えた。
だが、オーガはものともせずこちらに向かってくる。立ち上がろうとしても体が動かない。
遂には、目の前までオーガが迫り、棍棒を振り上げた。俺は目を閉じ生きる事を諦めた。
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「……」
目が覚める。体がだるい。これは疲労からだろうか。辺りを見回すとすぐ近くにネクが居た。
その頭蓋骨は見た目では感情が読めないはずなのに、俺を心配するような目でこちらを見ている。
上体を起こし、ネクの頭を撫でる。ツルツルだった。
人の頭蓋骨なんて触りたくもないはずなのに、そうしなければならないような気がした。
「負けてしまったな」
呟くと、ネクが頷く。肩を竦めてどうしようもない、というポーズをする。ネクも限界に来ていたのだろうか。
「とりあえず、今日は休もう。
対策を考えるのは明日だ」
そういうとネクが頷き。ベッドに横になる。相変わらず勝手にベッドに入ってくるもんだ。
そのまま目を閉じるとすぐに睡魔がやってきた。