骨とそんなお話
今回の話は人にとってはモヤモヤ感が残るかも知れません。苦手な方は飛ばしてください。
これは世界を観光していた時のある日の出来事である。
「これは扉か?」
俺たちは世界的に有名な遺跡を観光で見回っていると隠し扉を発見した。観光に使われるくらいだし、宝なんてないだろうと思っていた矢先の出来事である。
「これは……随分と長い間手が付けられていないようですね。恐らく主様の罠関係のスキルで発見したのではないかと」
パステルが冷静に分析をする。どうやらかなり古い物のようだ。
「ならやる事は1つよね?」
タリスが好奇心をむき出しにして聞いてくる。迷宮探索者として確かに1つしかない。
「この先を探索するぞ。皆気を引き締めてくれ」
今回は9人パーティなので、いつもより人数が多い。前衛は俺とネクとティア、最後尾にエンを配置。後のメンバーはその間に入ってもらう。
扉を開けると中はかなり埃臭かった。どうやら長い間放置されていたらしい。扉の先には通路が続いている。
「パステル、明かりを頼む」
以前、4階層で使ってもらっていた明かりの魔法を使ってもらう。その光源で周囲はかなり明るくなった。俺たちは罠に警戒しながら進む。その通路の先にはまた扉があった。
探知スキルで内部に何か居ないか確認する。生物、魔力共に反応がなかった。扉に罠がかかっていない事を確認するとノリで扉を蹴破る。
中は大部屋になっており、棺が1つあるだけだった。どうやら墓のようだ。この遺跡自体が巨大な墓だから珍しくは無い。ただ、未踏破という事は棺に中身があるというだけだ。
(うーん、中にミイラか白骨死体があるって事だよな。暴くのは躊躇われるな)
散々探索で箱を開けてきたが、人の墓を開けるのは躊躇いがある。良心なんて大分捨てた気がしていたが、その辺りの感性は残っているらしい。
「周囲に罠がないか確認してくる」
そう皆に伝えて隠し扉や罠が無いか調べて回る。俺とは感覚が違うのか、皆の興味は棺へ集まっていた。開ける気満々である。
「罠も先へ続く扉もなしか。どうやらこの棺のだけのようだな」
これ1つの為にここまで部屋を作るくらいだ。それなりの身分の者だったのだろう。開けるかどうか悩む。
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*ネク視点*
棺の前でスズキが唸っている。開けるかどうかに関して悩んでいるのだろう。元日本人としての常識が残っているのだろうか。墓を暴くのに躊躇いがあるのかもしれない。
私自身は前世でアンデッド討伐を何でもやっているので、墓なんて何度も暴いてきた。そこに今更罪悪感は無い。
「罠はないか」
棺を調べていたスズキが呟く。そしてまた悩みだす。そのまま蹴り飛ばして棺に放り込みたい気分ではあるが、ここは代わりに私が開けるとしよう。
私はスズキの前に出ると静止を聞かずに開ける。見るとどうやら中には1体の白骨死体があるだけだった。かなりの時間が経過しているのか大分崩れている。骨のサイズから見ると子供だったのかも知れない。
その白骨死体を眺めていると何やらモヤのようなモノが私に纏わり付く。
「ネクっ!!」
スズキが叫んでいる。私は浄化する為に神聖魔法を行使しようとするが効果がない。浄化のスキルや魔法を下手に私に使うとそのまま昇天するので扱えない。そして何も出来ないまま私は意識を失った。
「ん……ここは……?」
拠点の寝室だろうか。見覚えがある。周囲を見渡すと誰も居ない。あの後倒れて運ばれたのだろうか。反射的に私は背伸びをする。
(ん?背伸び?)
スケルトンになってから筋肉がある訳ではないので、そんな事はする必要もなかった。どういう事だろうか。手を見ると肉があった。
「これは……まさか」
声が出る。先程から何か言われていると思っていたのだが、どうやら私の声らしい。私は自分の顔を手で触って確認する。
「確か、アイテムボックスに鏡が」
少し慌てながらアイテムボックスから鏡を出す。そこに映っていたのは10代半ばくらいの少女の姿だった。あの頃の私をもう少し成長させた姿だ。
「どういうことだ?あの体は10歳くらいの骨格だったはずだが……」
突然成長したのだろうか。そもそも肉を得てこの体になった理由が解からない。そのままベッドの上で悩んでいると寝室の扉が開いた。
「ネク、起きたのか?」
スズキが歩いてくる。そして私は慌てる。
(まずい、この見た目ではどうみても侵入者じゃないか)
スズキはこの姿を知らないはずだ。スケルトンの状態と比較してもサイズも合わない。思わずベッドの掛け布団を被る。
「ネク?どうしたんだ。調子が悪いのか?」
スズキが声をかけてくる。私はどうやってこの場を切り抜けようか考えを巡らせるが全く思いつかない。早くも万事休すである。
そしてスズキが私の掛け布団を剥ぎ取り、私と目が合う。
「お前は……もしかしてネクなのか?」
スズキはすぐに私の正体に気が付いたようだ。それを聞いて私は嬉しくなる。
「うん。何でこんな姿になったのかは解からないけど……」
思わず転生して子供の姿で居た頃と同じような口調で喋ってしまう。10年近く使っていた口調だからそっちが咄嗟に出てしまったのだろう。既に日本で生きていた頃の私は曖昧になってしまっている。
「そうか……でも無事なようで良かったよ」
スズキが笑顔になる。私はその様子をボーっと見ていた。そして私が裸だった事に気が付く。顔が赤くなるのを自覚しながら掛け布団を体に巻く。
「ネク……」
そんな私の様子を見ていたスズキが真面目な顔になってこちらを見ている。そしてスズキの手が私の頬に触れる。
「本当に人間に戻れたんだな……」
その声を聞いてやっと私は実感する。
(人間に戻れたんだ……)
スケルトンで居た期間もかなり長い。前の体に愛着はあるものの人間になれるのであればそれに越した事は無い。私の目からは自然と涙が流れる。スズキはそんな私の様子を見て察したのか、私を抱きしめてくる。
「良かったな」
その声を聞いて私は何度も涙を流しながら頷く。スズキに抱きしめられながらその胸に顔を埋める。どれくらい経っただろうか。涙は止まり、落ち着いてきた。私はスズキから頭を離す。そしてスズキと目が合う。
スズキは無言で私の顎に手を当てると私の顔を上に向ける。そしてスズキの顔が近付いてきて……私はそこで目が覚めた。
目が覚めて上半身を慌てて起こす。周囲を見渡すと仲間の皆が眠っていた。今までのは全て夢だったようだ。ティアとリムに抱きつかれてだらしない顔で寝ているスズキを見ると蹴りたい衝動に駆られるが、さすがにそれは酷だろう。
私は自分の顔に触れる。いつも通りの骨の硬さがある。それを感じて落胆する。スケルトンでなかったら大きなため息が出ただろう。そして私は寝室から出る。
コタツのある部屋まで歩くと壁にもたれる様に寄りかかる。そして、あの夢を思い出す。
(私はっ何て夢を見てしまったんだ)
今頃になって正気に戻った。何度も頭を壁に打ち付ける。こういう時の痛覚無効と自己治癒が憎い。フラフラとパソコンのもとまで歩いていく。
(このやるせない気持ちを他の使い魔に愚痴ろう……)
さすがに仲間の使い魔には恥ずかしくて言えない。全く知らない相手、しかも会う事もない相手ならいくらでも愚痴を吐ける。私はパソコンを起動させた。
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使い魔専用スレ part5
…という夢を見たんだ。
221 名無しのフェアリーさん
夢かよ!!
222 名無しのゾンビさん
主とアンデッドの恋かー
実らないよねぇ……
223 名無しのスケルトンさん
難しいだろうね
両思いになれたとして
アンデッド側は耐えられても
主側がねぇ……
224 名無しのリザードマンさん
何だかんだで誘惑は多いからな
余程偏った性癖を持っていない限り無理だろう
225 名無しのゴブリンさん
実らせるには転生とかかね
と言ってもこの世界に転生出来たとしても
記憶を持って転生出来るわけないし、主が探してくれるとも限らない
226 名無しのオークさん
記憶を持ってゴブリンになった奴が何を言う
まぁ、可能性としてはかなり低いから分の悪い賭けだろうな
227 名無しのスケルトンロードさん
皆さんありがとうございます
今後の方針とかではなく、愚痴を聞いて欲しかったというだけなので気にしないで下さい
今の主と一緒に過ごしている事に不満はありません
228 名無しのスケルトンさん
健気な
スケルトンを使っては捨てている全プレイヤーに聞かせたいわ
229 名無しの猫耳さん
レアな個体以外のスケルトンは消耗品扱いだからね
230 名無しのゴーストさん
アンデッドもいいものだぞ?
しがらみがないから、気楽でいい
231 名無しのフェアリーさん
だからと言って進んでアンデッドにはなりたくはないなー
232 名無しの犬耳さん
そうですよ
アンデッドになったらご主人様に甘えられなくなっちゃうじゃないですか
233 名無しのスケルトンさん
そこかよ
これだから獣人は……
234 名無しの猫耳さん
犬と一緒にしないで欲しい
235 名無しの犬耳さん
とか言ってご主人様の方に向かっていく猫耳を妨害しに行きます
ではでは
236 名無しのリザードマンさん
相変わらずお前らは仲がいいんだか悪いんだか
平和な証拠かもしれないがな
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私はパソコンを閉じ、背もたれによりかかる。
(成仏して転生か……)
いつかはスズキと別れ新たな生を歩むの悪くないだろう。だが、今はここの皆と一緒に生きていく事が楽しい。私が転生したらスズキは私を探してくれるのだろうか。
(まだまだ先の事だろうし、今気にしても仕方ない。明日という日を精一杯楽しもう)
少し心がスッキリした気分で私は皆の寝ている寝室へと向かって行った。
皆さんのご要望にお答えしました(ドヤァ
一時的ってある意味残酷ですよね。