好きなのは…
「それでね、拓海がね…」
恋とは駆け引きだ。
そして今、私はまさに、駆け引きの真っ最中だ。
「シュート決めたんだって!かっこいいよね!」
「あぁ…、そうだな。」
私の目の前で返事をしたのは、幼馴染の裕史。
同じく幼馴染の拓海の話題を振り、嫉妬させて私の方を向いてもらおうという作戦だ。
だけど裕史はいつも冷静に淡々と答えるだけ。
幼馴染から一歩先に進みたい私にとって、進展のないこのやりとりにヤキモキしていた。
「あーーーー!!!どうすればいいの!?」
「今度はどうしたんだよ」
昼休み、拓海と屋上で作戦会議(?)をしていた。
「拓海をダシにして、裕史の気を引こうとしたけど、全然効果ないの!」
「人をダシにするなよ!」
「だってーーー!! ねぇ!どうしたらいい?
幼馴染でしょ?どうしたら裕史、私のこと見てくれる?」
「なぁ…、どうしても裕史じゃなきゃダメなのか?」
「えっ?うん。なんで?」
「いや。そっか…。そうだよな…。……うん。
よし!わかった!
もうすぐ俺の試合あるから、その時に着てく服を一緒に選んでって声かけてみろ!そしたら二人で出かけられるだろっ!」
「えっ…。また拓海をダシに使っていいの?」
「今更だろ」
「ありがとう!やっぱ持つべきものは幼馴染だよね!」
そう言って私は、お弁当袋を持って階段を駆け降りた。
後ろから消えそうな声で
「頑張れよ…」
と、呟く拓海の声が聞こえたような気がした。
夕方、塾の帰り、私と裕史は並んで歩いていた。
拓海のアドバイス通り、デートに誘おうと試みるが、口から心臓が飛び出そうなほど緊張して、夕焼けに染まる少し赤い裕史の横顔をチラチラ見るのが限界だった。
私の家の前に着き、「じゃあ…」と裕史が去ろうとする。
ダメ… 行っちゃう…!
「裕史!!」
自分でもビックリするくらい大きな声が出た。
裕史も一瞬肩をビクッと上げ、不思議そうな、でもすぐいつもの柔らかい笑顔を浮かべて振り返った。
「あっ、あのさ!今度の休み、一緒に買い物行かない?」
「行く!!!」
私の質問を待たずして、食い気味に答えてくれた。
あまりの即答に少し拍子抜けしてしまったが、それより嬉しさが込み上げ、顔のニヤケを隠すのに必死だった。
「何か欲しいものあるの?」
「あっ、うん!もうすぐ拓海のサッカーの試合でしょ?それに着ていく服を一緒に選んで欲しくて」
「えっ?拓海の?」
裕史が一瞬、怪訝そうな顔をしたように見えたが、少し俯いて、すぐいつもの笑顔に戻った。
「…わかった。行こうか。」
「じゃあ!詳しいことはまた連絡し合おう。」
「うん。また。」
そう言って裕史は胸元で手を振り、家路に着いた。
デート当日、服装やメイクなど、考えすぎてあまり眠れなかったが、裕史に会ったらそんなことどうでも良くなった。
私のお気に入りのお店に入り、店内を見廻す。
「スポーツ観戦ってどんな格好がいいんだろう?」と、ブツブツ呟きながら…。
すると裕史が一枚のワンピースを手に取り、少し顔を赤らめながら、
「これ…どうかな? 結衣子に似合いそうと思って」
裕史が手にしたのは真っ白な総レースのミニ丈のワンピース。胸元には大きなリボンが付いていて、まるでお姫様のよう。
私自身すごく好きなデザインだったから、試着してみることにした。
試着室で着替え、鏡で見てみるも、やっぱり私の好み。
かわいいけど…、出ていくのが…、裕史に見せるのが恥ずかしい…。
試着室のカーテンから顔だけ出し、
「着たよ」と伝えた。
裕史もスマホをポケットにしまい、緊張した様子でこちらに身体を向ける。
カーテンを開け、少し内股に、両手でスカートの裾を掴んで「どうかな?」と言葉にする。
恥ずかしすぎて裕史の顔は見れず、炎のように熱い顔を下に向けていた。
するとボソッと「かわいい…」と聞こえた。
私は驚き、顔を上げると、今度は裕史が、口元に手をやり、耳まで真っ赤にして後ろを向いていた。
「あっ、でも、スポーツ観戦だとそんな格好じゃ汚れてしまうな。別の見てくるよ。」
と言って、踵を返したその時、私は気がついたら裕史の腕を掴んでこう言った。
「待って!これにする!
ううん!これがいい!」
裕史は驚いた顔をして私を見つめたが、すぐにいつもの、いや、いつも以上に弾けた笑顔でこう言ってくれた。
「俺も好きだから。」
この言葉に、胸が大きく跳ねた。
服なのか、私なのかー。
その言葉の意味がわかるのは、もう少し先のお話。




