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十三番目の王女は山向こうで幸せになります

作者: 紡里
掲載日:2026/07/08

 私は価値のない十三王女として、王城の片隅で暮らしておりました。なんなら、下働きの者の方が、まっとうな暮らしをしていたかと思います。


 山向こうの国から人質兼花嫁を寄越せと言われたとき、当然のようにお鉢が回って参りました。

 そうですよね。野蛮人と馬鹿にしている国に、行きたい王女などいませんよね。


 向こうに行ったらまともに食事が出てくるといいな、と呑気なことを考えて、山を越えました。

 楽しいこともなく、一応王女なので働くこともなく、八つ当たりされる対象として日々を過ごしておりました。嫌な存在意義ですね。

 あんな無駄な人生から解放されるだけで、蛮族だろうと怪物だろうと構わない。そんな気持ちにもなろうというものです。



「おうおうおう。こんなめんこい子が、山を越えて来なさったのか。無茶したな。

 こっちゃ来い」

 熊のような旦那様に、いきなり抱っこされました。

 ご挨拶のカーテシーを披露する暇もありません。


「あ、あの。カイラン王国第十三王女のツェリンと申します。ユルカ首長国の首長様にご挨拶申し上げます」


「ははは。挨拶が上品で上手だなぁ。そっちの第七だか第八だかの王子が、こっちの祠を壊したもんで、誠意を見せろっつっただけなんだがな。

 お前ぇさんは災難だったな」


 え、そんな話は聞いていません。祠を壊したことを謝罪せずに、婚姻でうやむやにするなんて、まったく誠意のない行いではありませんか。

 恥知らずなカイラン国王。まあ、血縁上の父なわけですが。


「それは、大変申し訳ないことでございます。その祠の再建などは、どうなっているのでしょうか?」

 抱っこされたままで謝罪というのもふざけていると思いますが、降ろしてくださらないのです。

 ついてきた護衛や使用人たちが、おろおろしています。かといって、無礼を働いた相手国に物申すわけにもいかず……。

 旅の途中、偉そうにしていた彼らが青ざめているのは、なかなか気分がいいですね。

 あら、私、こんなに性格が悪かったのね。知らなかったわ。


 祠のことはひとまず脇に置いて、その日の晩は羊を潰して宴が開かれました。

 お米と羊の肉が合わさって、とても美味しい。

 冷めきっていたり、何が混入されているかわからなかったり……そんな食事ではありません。私は、それだけで嫁いできてよかったと思いました。


 宴を抜け出して、新郎新婦で小さな祠に行きました。

「これは再建された祠ですか?」

「いんや。それは別の祠だ。こちらは夫婦神をお祭りしている。夫婦になるというご挨拶だ」

 旦那様がそうおっしゃいますので、教えていただいたお祈りを捧げました。


 その夜は、そのまま夫婦の部屋に行き、結ばれました。

 婚約も結婚式もなく……そういうものがなくても、結婚できますのね。かなり衝撃的でした。


 気がついたら、護衛も使用人も帰路に就いた後でした。



 山向こうは、随分と文化が異なります。


 まず、椅子ではなく、床に敷いた絨毯に座ります。

 食事は個々の皿ではなく、大皿から皆で食べます。これはちょっと、慣れるまで嫌悪感がありました。

 けれど慣れてしまえば、距離が近く、暖かい人間関係のように思えてきます。


 王族でも囲炉裏を囲み、その日の話をして共通認識を形成していきます。

 ここでは刺繍が趣味ではなく、それぞれの家の家紋を継承していくためのものでした。滑落して亡くなったときに、袖の刺繍で誰かを判別するという意味もあるそうです。


 厳しい環境ですが、寄り添って生活しています。

 誰が産んでも、誰の種でも、子どもは宝。そんな雑多で大らかな環境は、私に合っていたようです。

 一年も経たずに、私は溶け込むことができました。


 といっても四番目の妻です。一番目の『姐さん』の気配りで受け入れてもらえたのですが。



 そういえば、第三奥様は神官の娘だそうです。二か月ほど「祠を直せ」とか「責任を取って、お前が石を積め」とか言われました。

「積み方を教えてください」と返事をしたら、「仕方ねぇ。教えてやるから、しっかり覚えろ」と連日一緒に作業をしました。

 そんなこんなで、妹分として認めていただけたようです。



 数年が経った頃でしょうか。

「第四奥様。奥様のご家族という方々がいらっしゃっていますが」

 国境の警備をしている兵士が、牛のようなヤクという動物に乗って駆けてきました。


「ふふふ。きっと偽物よ。私の結婚式にも来ないのに、来るわけがないわ」

 少しばかり言葉にトゲがあるかしら。王族の横暴に耐えかねて革命が起きた、という情報は入ってきています。

「しつこく食い下がるようなら、不審者として捕縛して牢屋に入れてしまって」


 ということで、ご一行様は牢屋に入りました。ある意味予想どおりで、なんとも言えない気分になります。あの方たちが常日頃言っていた「王族の品格」って、なんなのでしょうね。

 出された食事を、ガツガツと食べているそうです。


「お前ぇはどうしたい? 復讐すんなら、最後の機会かもしれないぞ」

「自分らの娘っ子に、冷たい飯を食わせておいて、図々しい。思い知らせるなら、手伝ってやるべ」

 旦那様と第一奥様が、そう言ってくださいます。


「ですが、本当に私の家族でしたら、未払いの祠の修復代を回収しませんと」

「お前ぇは、賢いなぁ」

 旦那様はそう言って、私の髪をわしわしとなで回します。


 第三奥様は神官の娘なので、自分が取り仕切りたいと申し出ました。

 家族の目が私に集まります。「お好きになさってください」と答えました。

 やられたことをやり返すのも、いいかもしれません。けれど、顔を合わせたらまた好き勝手なことを言われるんだろなと思うと、心底うんざりします。


「お前ぇの家族だと主張し続けるなら『未払い金を支払え』と請求し、『家族じゃない』と意見を翻したら詐欺師と判断するってことでええか?」

「……そうですね。もう私の家族は、ここにいる皆さんなので」

 にっこり笑うと、第一奥様に褒められました。「よく言った」と。



 数日後、革命軍の幹部たちが彼らを迎えに来ました。

 彼らは、詐欺師扱いでむち打ちの刑を受けた後です。暴れることもできず、大人しく連行されていきました。

 旦那様の横にいる私を見つけて、お父様らしき人が叫びました。

「わしはお前の『お父様』だぞ。早く助けに来い」


 ふふ、ご自分で「お父様」ですって。子どもが二十人以上いるのに、蔑ろにしてきた娘に助けを求めるというのは、不思議ですね。


 革命軍の幹部が私の顔を見ました。「父を連れて行くな」と制止すると思ったのでしょうか。

「気にしないで連行してください」と伝わるように、軽く手を振りました。

 幹部たちは不思議そうに、首をかしげていました。王族は全員、仲が良いとでも思っていたのでしょうか。


 正直に言うと、顔を見たところで、本物かどうか確証が持てません。

 こちらに嫁に来るまでに数回しか会ったことがないですし、抱きしめられたこともないですし。

 実の母は王宮のメイドだったそうです。妊娠してからの待遇も良くなかったようですし。物心ついたときには、いませんでした。


「本物だったのかしらねぇ」

 彼らの一行が見えなくなってから、そう呟きました。


 娘だから助けろと言われても、手を貸す気にはなりませんでした。どうせ捕まるなら、山越えをせずに大人しくしていればよかったのに。鞭に打たれただけ、損しましたね。

 いえ、山からの美しい景色を見られたはずです。最後の旅行先としては、悪くなかったと言えましょう。


 あ、祠の神様には、ちゃんと謝罪してから帰ったのかしら。


 もし、万が一。

 旦那様や第一奥様が囚われることがあったら、そのときは死に物狂いで助けに行きます。

 そのためには、ヤクに乗る練習と体術の習得が必要ですね。それらを習いたいとお願いしなければ。



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― 新着の感想 ―
誠意を見せろといっても欲しかったのは金銭や労働で、お嫁さんが来るのは逆に迷惑だったかもしれないのにそれで解決しようとは……。主人公が受け入れられて、幸せになれてよかったです。
革命?あっ(察し)。 兎に角ご愁傷様です王様…もと王様。 主人公ちゃん「シッシ!!」 犬かよ。(⌒-⌒; )
王女様、生活に馴染んだ後は、姐さん&姉さんたちから、賢い小鳥のように可愛がられてるみたいで良かった……(涙) でも、第二奥様の出番が無いのが残念! 第一姐さんが内政、第三姉さんが神官、第二姉さんは武…
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