「始まりと終わり」
――後日。
いつもの日常に戻った。
だが、今後同じようなことが二度と起こらないとは限らない。
だから俺は、魔神となった力も利用して、ダンジョンの最深部に“念願”だった世界を構築した。
表向きのダンジョンボスとして、リルベアのコピー体を作り、偽のコアルームに配置。
本体との思考リンクを繋げ、リルベアが遠隔で操作できるようにしたことで、冒険者たちが見ても違和感はないだろう。
美月はギルドに戻り、報告を済ませたらしい。
勇者アキラが魔王クゼスに操られる形で結託し、リルベアの封印を解いた――そういう報告だ。
結果、魔王クゼスと勇者アキラは戦いの果てに死亡。
だが封印を解かれたリルベアの暴走もあり、自分は勇者としての力を失った。
どういうわけか、魔王リルベアは「興が冷めたから帰れ」と見逃してくれた――と。
……実に美月らしい言い訳だ。
それからというもの、俺たちは最深部の世界で暮らしている。
レイラも、美月も、ゼトスも、リルベアも一緒だ。
すでにいくつかの国も出来て、人々が暮らし、独自の発展を遂げている。
けれど俺たちは……まぁ、田舎の一軒家で平和に過ごしている。
もう変ないざこざに巻き込まれるのも面倒だしな。
美月とは結婚して夫婦になった。
けれども、美月とレイラは相変わらず言い合いばかりだ。
最近は農業のことで喧嘩してるのをよく見る。
……ほんと、あの二人は仲が良い。
リルベアは、ハンモックに揺られて読書ばかりしている。最初こそ、集中できんだの子供用の遊具みたいだの言っていたが、今ではお気に入りらしい。
ゼトスに至っては、もう完全に犬だ。氷狼王なんて言っても、誰も信じやしないだろう。
死ぬほど働いて、死んだら石ころになって、気づけば魔王になっていた俺が――
今は元勇者と毒舌眷属に囲まれて、ようやく自由に生きている。
……そう、やっと俺は理想の人生を手に入れたんだ。
これからも、こんななんでもない平和な日常が、永遠に続けばいい。
それが今の俺の願いであり、理想だ。
◆
――数年後の夜。
のどかな村の一軒家。
窓の外では星が瞬き、虫の声が静かに響いていた。
小さな寝室のベッドで、子供がもぞもぞと布団の中から顔を出す。
「ねぇねぇ、レイラ! パパとママの、あの話が聞きたい!」
「ふふっ……サクラは、本当にそのお話が好きですね」
レイラは困ったように笑い、隣に腰を下ろす。
子供の頭をそっと撫でると、目を閉じて、語りはじめた。
「それでは──今日も、お話しましょうか」
その声は、ゆっくりと優しく、部屋を包むように響く。
「昔々、とても働きすぎた社畜がいました。彼は死んで、ダンジョンの核に転生して、魔王になりました。そして――」
過去を振り返るように優しい声で語り始める。
「――自由に生きていたら、いつの間にか……勇者と結婚していましたとさ」
レイラは、そう言い終えると、そっと微笑んだ。
布団の中から静かな寝息が聞こえはじめる。
──外の風が、穏やかに家を撫でていく。
やがて灯りが消え、夜の静寂が戻った。
この物語は、確かに“誰か”の人生だった。
けれど今ではもう、ひとつの“昔話”。
『働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜』
──これは、そんな物語。
了




