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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第六章 理のその向こうへ

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第60話「戦いの果てに、日常は戻る」

 俺の告げた言葉に、リルベアの表情が驚愕から、ふっと綻ぶ。

 豪快な笑みを浮かべると小さな体を反らして笑った。


「そうか、神を冠するか。かかっ! ならば、わらわは使徒といったところかの?」


「いや、魔王だろ」


「知っておるわッ! まったく、そういうところは変わらんのだな」


 呆れ半分にため息を吐くリルベア。

 その背後で、レイラがぽつりと呟いた。


「……石ころも、神になれるのですね」


「おーっし、レイラ。お前はあとでお仕置きな?」


 俺が笑顔のまま告げると、レイラの顔色が青ざめる。

 隣のゼトスは耐えきれず「クククッ」と喉を震わせて笑った。


「さて――とりあえず、決着をつけるか」


 次の瞬間、俺の身体は瞬間移動で宙を裂き、悪食(あくじき)の頭上に現れる。

 血塗れの塊と化したその巨体は、まだしぶとく蠢いていた。


「……あれを喰らって消滅しないあたり、随分喰ってるだろ。あと何回殺せば、お前は消えるんだ?」


 俺の視線に射抜かれ、悪食(あくじき)の瞳孔がわずかに震える。

 恐怖――魔を喰らう怪物ですら、抗えぬ本能がそう叫んでいた。


 俺は静かに指を弾く。


 ――光刃。


 無数の白い斬撃が虚空から降り注ぎ、悪食の全身を何千何万と斬り刻んでいく。

 血飛沫と断末魔が戦場を覆うが、俺の表情は一切揺るがなかった。


 

 まさに蹂躙。

 

 

 天災と呼ばれた存在すら、今や虫けら同然だ。


 やがて悪食(あくじき)の動きは鈍り、巨体は膝を折る。


「本意ではないにしろ、俺の眷属に牙を剥き、あろうことか美月を奪った。……死してなお、永劫後悔しろ」


 俺は最後に手をかざし――振り下ろす。


 ――暗転。


 視界を覆う闇と重圧に、悪食の身体は塵となり虚空へと呑まれた。

 静寂の中で暗転は解け、俺は小さく息を吐く。


「……終わった」


 背後から歓声が上がる。

 ようやく、この地獄のような戦いに幕が下りたのだ。


 だが俺には、もう一つやるべきことが残っている。


「さてっと……もう一仕事、するか」


 俺は瞬間移動し、美月の亡骸の前に立つ。


(マスター)……?」


 レイラが不安そうに声を漏らす中、俺は静かに宣言した。


『神の権限により、理への干渉を開始』


 神々しい光が俺を包み、フロア全体を照らす。


『対象、神谷美月(かみや みつき)の魂魄を捕捉』

《……完了》


『魔王クゼスと勇者アキラの魂を贄に、神谷美月(かみや みつき)の肉体を再構築。魂魄とのリンクを開始』

《リンク……失敗》


「……チッ、やっぱ時間が経ちすぎたか」


 俺は歯を食いしばる。

 次の失敗で、美月の魂は理から外れ、永遠に消失する。輪廻すら許されない。


 もう一度深く息を吸い、集中する。

 

 神の記憶が脳裏を走る――常識を捨てろ。別の道を掴め。


『対象の種族を魔族へと変更。再度リンクを開始』

《……完了》


 フロアを埋め尽くす程の光が美月の身体に収束し、閉じていた瞼がゆっくりと開く。


「……わ、たし……生きてる……?」


 微かに震える声。

 美月の瞳に、再び光が戻っていた。


「……信じられん」


 リルベアが絶句する中、レイラだけは迷わず駆け出す。


「美月っ……!」


 抱きしめられた美月は目を瞬かせたが、すぐに俺を見て口を開いた。


「私、いったい……」


「美月は、一度死んだんだ」


「やっぱり、そうだったんですね……。あれ? でも私、生きてますよ?」


 美月は怪訝そうな表情を浮かべながら首を傾げる。


「すまん、俺の我儘で美月を魔族として蘇らせたんだ」


「魔族? 魔王ってそんなこともでき――」


「違います、美月。(マスター)は、魔神となられたんです」


 レイラが涙を拭いながら告げると、美月の目が丸くなる。


「魔神……神になったんですか!?」


「悪食を倒すため……それと、美月を救うためにな」


 俺は苦笑を浮かべ、美月の前に膝をついた。

 彼女は戸惑い、けれど不安そうに問いかける。


「どうして……そこまで……」


「言ったろ? 我儘だって」


「なんですか、我儘って! 気になるじゃないですかっ!」


 まっすぐな瞳に射抜かれ、俺は思わず言葉をこぼしていた。


「……俺、美月を愛してるんだ。だから失いたくなかった。……ダメか?」

 

 しまった、と思った時には遅かった。

 全員の視線が一斉に俺へと突き刺さる。


 だが美月の反応は違った。

 

 涙に濡れた瞳が柔らかく細められ、頬を赤く染めて微笑んだ。


「ヴァルトさん……私も愛してます」


 そっと身を寄せ、美月は唇を重ねてきた。



 ――沈黙。



 

 静寂を切るかのようにゼトスが「アウォオオン!」と咆哮を上げると、同時にレイラの悲鳴もあがる。


「はあああああ!? 美月ッ! 何をしてるんですか! そんなの認めません!」


「ふふーん、負け惜しみですかぁ? こっちは公認ですけど?」


「無効ですッ! 私との決着はまだ――」


 言い合いを始める二人。


「ったく、いったいわらわは何を見せられておるんじゃ……」

 

 リルベアは呆れ顔でため息を吐き、ゼトスは面白そうに笑う。


 ――ああ、これだ。


 死線を越えて、ようやく取り戻した日常。

 俺が心の底から望んでいた、かけがえのない時間。


 

 色んなことがあったけど、俺は今――とても幸せだ。

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