第57話「涙と決意、繭を守る戦い」
――その頃、ダンジョン内。
繭となったヴァルトを護るように、リルベアは広範囲魔法を連発しながら魔物どもを蹴散らしていた。
魔法が発動するたびに数百体が霧散する。
だが、それでも群れは押し寄せ続ける。まるで尽きぬ黒き波のごとく。
さらに悪食の触手が、容赦なく襲いかかってくる。
腐臭と粘液を纏い、地を穿ちながら迫る猛攻。
リルベアは寸前でかわし、巨大な魔槍を叩き込む。だが――。
流石に数が多すぎる……!
絶え間ない攻撃の連続に、次第に呼吸が荒くなる。疲労で反応が遅れた刹那、触手の一本が音を裂いて迫った。
「しまッ――!」
リルベアの瞳が見開かれる。少しの油断だった。
間に合わない。貫かれる――そう思った瞬間。
後方から二つの魔力反応が爆ぜた。
「氷穿槍乱舞!」
「疾風裂斬陣!」
氷槍と風刃が同時に放たれ、触手ごと魔物の群れを薙ぎ払った。
粉砕音と絶叫が響き渡り、リルベアの視界が一気に開ける。
「遅くなりました、リルベア様」
「ただいま戻りましたぞ!」
振り返れば、戦線離脱していたレイラとゼトスの姿があった。
「っかか! よく戻った! おかげで助けられたわ!」
リルベアは声を弾ませ、体勢を整える。
その傍らで、レイラの視線が美月の横たわる姿を捕らえた。
僅かな一瞥――だが、全てを察したように瞳が揺れる。
「美月……。こんなところで眠っている場合じゃないでしょう……私たちの決着は、まだ――」
悔しさと悲しさが入り混じった声。振り返らずとも、震える声の奥に涙が滲んでいるのは明らかだった。
「まだ戦いは終わっとらんぞ。ヴァルトが戻ってくるまで、持ちこたえるのじゃ!」
リルベアの叱咤に、二人は強く頷いた。
「リルベア様、もしかして……あの繭は主なのですか?」
「うむ。悪食を倒すつもりなのじゃろう。――ランクアップの儀に入った」
驚愕と不安がレイラとゼトスの顔に走る。
「無事帰ってこれるといいのですが……」
不安そうにゼトスが呟く。
……正直、厳しいところじゃろうな。
核を共有しているからこそ、分かる。
繭の向こうでヴァルトが味わっている痛みが、こちらにも伝わってくる。
ヴァルトが感じている痛みのほんの一部でこれじゃ。
わらわがヴァルト側なら、とっくに卒倒しておろう。
繋がりが切れないということは、意識が飛ぶことなく耐え続けておるということ……。
まったく、あやつもとんだバケモンじゃ。
絶え間なく続くこの痛み……一体むこうで何が起こっておるんじゃ……。
「よいか、おぬしら! 絶対に奴らを近づけてはならん。そして悪食の攻撃は絶対に喰らうな! わらわ達の誰かが吸収されたら、そこで終わりじゃ!」
厳しい声に、二人は息を揃えて頷く。
「……わかりました。悪食の攻撃に警戒しつつ、魔物達を先に倒して、成長させないようにすればいいんですね」
「ならば一つ、派手にいきましょうぞッ!」
二人が同時詠唱を唱えると、轟音と共に巨大な竜巻が巻き起こり、雷と氷の礫を降らせながら魔物の軍勢を蹂躙した。
無数の魔物が引き裂かれ、宙を舞う。
「こりゃまた、派手な魔法をぶっ放したの。くくっ、面白いではないか!」
それでも、まだ終わらない。
数十万もの有象無象。増え続ける魔物と成長を続ける悪食。
押し返すどころか、均衡を保つだけで手一杯。
大きな戦力が増えたとはいえ、あと何分、持ちこたえることが出来るかの……。
不安と焦りを感じながらもそれでもリルベアは笑う。
ヴァルトよ、気張るのじゃ。皆、お主と共に戦っておる。
――負けるでないぞ……!




