第51話「渾身の一撃、ゼロ距離の閃光」
重苦しい沈黙が、ほんの一瞬だけフロアを満たした。
黒い靄が渦を巻き、地面から立ち上る魔力が次の攻撃の予兆を告げている。
ヴァルトは剣を握りしめると、美月とリルベアの肩に手を置き、低く囁いた。
「……作戦はこうだ」
二人の瞳が大きく見開かれる。
「なるほど……!」
美月が思わず声を漏らし、リルベアは一拍遅れて口元に笑みを浮かべた。
「ふん……本当に一か八かじゃな。失敗は許されんぞ」
「ああ、分かってる。この作戦は美月が鍵だ。頼めるか?」
ヴァルトの問いに、美月は震える手を強く握り直し、力強く頷いた。
「確実に決めます!」
剣が光を帯び、三人は再び構え直した。
その瞬間、クゼスの背後で黒翼が大きく広がる。
「何を考えているのか知りませんが――無駄ですよ」
狂気じみた笑みと共に、クゼスの魔力が一気に膨張する。
地面がひび割れ、フロア全体が震える。
「これで終わりですっ!」
咆哮と共に、魔力の奔流が形を取り始める。
黒い靄が絡み合い、無数の大蛇へと姿を変えた。
次の瞬間、闇色の大蛇が一斉に牙を剥き、フロア全体を覆い尽くす。
そのうねりは、逃げ場など存在しないと言わんばかりだった。
「来るぞッ!」
ヴァルトが叫び、全員が一斉に跳躍する――だが、その瞬間だった。
ピン、と指を弾く乾いた音が響く。
青黒い閃光が空間を裂き、奔る稲妻のように大蛇の群れを薙ぎ払った。
轟音と共に光が弾け、フロア全体が青白く照らし出される。
「っ……!?」
クゼスが一瞬驚愕に目を見開く。
しかし、すぐに表情を歪め、反撃の魔法を発動した。
「危ない危ない……魔族でありながら、あなたのその技は聖属性を含んでますからねぇ」
不気味に笑いながら、クゼスは剣を振り抜いて閃光を相殺する。
視線の先には、魔力の残滓を纏うリルベアが立っていた。
「かかっ! 余所見をしていてよいのか、クゼスよ!」
リルベアが挑発するように笑った瞬間、クゼスの背後に光が走った。
――美月だ。
勇者の剣が輝き、一直線に振り抜かれる。
「光刃――一閃ッ!!」
咄嗟に避けたクゼスだったが、間に合わず右腕が消し飛んだ。
「ぎィィィィッ!!」
怒号がフロア全体に響き渡る。黒い血が床を焼き、焦げた匂いが立ちこめた。
「キィサマァアアアアッ!!」
怒りの咆哮が天井を震わせる。
その瞬間――。
「隙を見せたな?」
美月の影からヴァルトが飛び出した。
足音すら響かないほどの速度で、一直線にクゼスの懐へ踏み込む。
「なっ――!?」
驚愕に目を見開くクゼス。
しかし、もう遅い。
ヴァルトの剣が一直線に突き出され、クゼスの胸を深々と貫いた。
「流石のお前も、これだけ喰らった後じゃ防げねぇだろ」
低く呟き、剣をさらに押し込む。
「防げるもんなら防いでみろよ……俺のゼロ距離攻撃を」
次の瞬間、剣身から青黒い閃光が爆ぜた。
フロア全体を照らす光と共に、衝撃波が四方へ走る。
クゼスの身体が大きく仰け反り、黒い翼が暴れ狂った。
「ぐ、ぅ……ああああああああッ!!!」
怒号とも絶叫ともつかない声が響き、フロアが崩れるかのように震えた。
黒い血が飛び散り、床に赤黒い染みが広がる。
ヴァルトは剣を引き抜き、クゼスを蹴り飛ばす。
「効くだろ? リアと同じ技だからな」
よろめきながらも立ち上がるクゼス。
その双眸には怒りと憎悪、そして狂気が渦巻いていた。
次の瞬間、フロア全体が再び闇に包まれる――。




