第48話「砕けた結界、集う剣と牙」
結界の内側――。
黒い魔力が渦を巻き、フロア全体が押し潰されるような圧迫感に満たされる。
クゼスは狂気じみた笑みを浮かべ、剣先をゆっくりとこちらに向けた。
「さあ――楽しませてください、勇者さん」
言葉が終わるより早く、クゼスの姿が掻き消えた。
次の瞬間、耳を裂く金属音が響き、美月の前に火花が散る。
「速いっ……!」
美月は咄嗟に受け流し、後ろに跳んだ。
しかしクゼスはさらに踏み込み、二撃、三撃と畳みかける。
「グルルルルッ!」
ゼトスが割って入り、氷牙を顕現させてクゼスに噛み付こうとするが、剣の一閃で弾き飛ばされた。
巨体が床を転がり、結界の壁に叩きつけられ壁が衝撃に割れる。
「ゼトスさん!」
美月が叫ぶ間もなく、クゼスの剣が再び迫る。
光の剣を横薙ぎに振り抜くと、強烈な閃光が走り、二人の間に空気の壁が生まれた。
「……面白い。さすが勇者、ただの防戦一方ではないですね」
クゼスが口元を歪める。
美月は息を整え、剣を胸の前に構え直した。
「あなたを倒すまで、私は絶対に退かない!」
剣が白く輝き、光が収束する。
彼女の靴先が石床を蹴った瞬間、視界が閃光に満たされた。
「――光刃連舞!」
光の剣閃が連続してほとばしり、クゼスを中心に十字に交差する。
フロア全体が昼間のように明るく照らされ、石床が焼け焦げる。
「ほう……!」
クゼスが笑い、剣を横に薙ぐと黒い魔力の波動が広がり、光刃を次々と打ち消した。
熱風と冷気が交錯し、床の破片が舞う。
「グゥゥゥッ!」
ゼトスが立ち上がり、今度は氷塊がクゼスの足を拘束する。
その隙に美月が突っ込むが、クゼスは軽々と鎖を砕き応戦してくる。
美月の胸に焦りが走る。
その刹那、クゼスが一歩踏み込み、美月の剣を弾いた。
金属音が響き、彼女の腕が痺れる。
「勇者の心臓を抉り取って、その絶望をリルベアに見せてやりましょう」
耳元で囁く声が冷たかった。
美月の脳裏に、ヴァルトと過ごした時間が一瞬よぎる。
「ここで負けるわけにはいかない……!」
美月は歯を食いしばり、再び剣を構えた。
光が再び刃に宿る。眩しい光が結界全体を震わせる。
「負けられないんです、あなたには――!」
光の奔流が走る。クゼスの魔力と正面からぶつかり、轟音が響く。
結界にヒビが入り、光が漏れた。
「おや?」
クゼスが楽しそうに笑う。
美月は膝をつきかけるが、ゼトスが間に割り込んで咆哮した。
「グルァァァアッ!」
巨大な氷柱が次々と地面から生え、クゼスの動きを止める。
しかしその直後、ゼトスは血を吐き、足をつく。
クゼスの魔法により召喚された、無数の黒槍が天井から降り注ぎ、ゼトスを突き刺したのだ。
「ゼトスさんッ……!?」
美月が駆け寄るが、クゼスは容赦なく距離を詰めてきた。
剣先が美月の首に突きつけられる。
「これで終わりですね――」
その瞬間、結界が派手な音と共に粉砕された。
眩い光と共に、血に濡れた剣を持ったヴァルトと、魔力を纏ったリルベアが飛び込んでくる。
「悪い! 遅くなった!」
ヴァルトの声が響き、美月の胸に安堵が広がった。
「ヴァルトさん……!」
クゼスがゆっくりと顔を上げ、口元に笑みを浮かべる。
「ふふ……いいところで来ましたね」
リルベアが前に出て、冷たい視線でクゼスを見据えた。
「今度こそ、決着をつけるぞ、クゼス」
緊張が走る。
四者の視線が交差し、フロアの空気がさらに重くなった。




