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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第五章 自由と欲望の戦い

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第47話「落ちた首、血塗れの決意」

 アキラの剣がぎらりと光を帯びる。

 金属の刃が回廊の灯りを弾き、壁や床に赤黒い光を散らした。

 張り詰めた空気の中、彼の瞳だけが狂気に燃えていた。


「先輩は俺のものだ。絶対に、誰にも渡さない!」


 その声は叫びというより、怨嗟と執着の混じった悲鳴に近かった。

 こいつは俺を見ていない。リルベアも、世界すらも見ていない。

 ただ自分の欲望だけを抱えて剣を握っている。


 胸の奥に溜め込んでいたものが爆ぜる。

 喉の奥から煮えたぎるような熱がこみ上げ、肺を焦がすほどの息を吐き出す。

 握った剣が重く感じるのは、怒りのせいか、覚悟のせいか。


「お前のいう善悪の定義に当てはめるなら――お前の方が悪だ」


 自分でも驚くほど低い声だった。

 冷気を帯びたような声音に、アキラが一瞬だけ目を細める。

 けれど、止まらない。止まるつもりもない。


「美月は自由を求めてるんだ。……邪魔すんじゃねぇ!」


 叫びと同時に、足元で魔力が爆ぜた。

 火花のように赤い光が散り、視界が一瞬で血の色に染まる。

 石床を蹴った音が轟き、俺の身体が矢のように前へ飛んだ。


 アキラも応じる。

 獣のような速度で駆け、剣を振りかぶる。

 刃と刃がぶつかる直前、アキラの唇が嗤った。


「なら――殺してでも手に入れる!」


 斬撃が走った。

 空気が裂け、回廊の石床が派手に割れ、結界までもが震える。

 魔力と魔力がぶつかり合い、火花が飛び散る。


「ヴァルトッ!」


 リルベアの声が鋭く飛んだ。

 次の瞬間、彼女の魔力が爆ぜ、風の鎖がアキラの足元を絡め取った。

 刹那、視界がスローモーションになる。


「な――!」


 アキラの動きが一瞬だけ止まった。

 その隙を逃さず、俺は全ての力を込めて踏み込む。


「――はああああああああっ!!」


 剣閃が走った。

 赤黒い軌跡が宙を裂き、血の匂いが先に鼻を突く。

 アキラの瞳に俺の姿が映り、驚愕と、そして――どこか満足したような色がよぎった。


「美月先輩……俺は……」


 呟きと同時に、アキラの剣が弾かれ、宙を舞った。

 その刃が床に突き立つ音を聞くよりも早く、首が――落ちた。


 鮮血が宙を舞う。

 時間が引き延ばされたように、一滴一滴が空中で弧を描き、壁を赤く染める。

 頭部は一瞬、笑っていた。

 まるで満足したかのように、穏やかな表情で。


「あなたが……」


 かすれた声が最後に響き、アキラの身体が膝から崩れ落ちる。

 倒れ込んだその身体から血が広がった。


 静寂が訪れた。

 回廊に漂うのは、血の匂いと魔力の残滓、そして耳の奥に残る自分の荒い呼吸音だけ。


 握る剣が震えている。

 柄から伝わる体温がやけに熱い。

 赤く濡れた刃から、真っ赤な雫が床に落ちる音がやけに大きく響いた。


 初めて”人を殺した”。

 なんとも言えない感情が俺の心の中を這いずり回る。


 リルベアが一歩近づき、俺を見下ろす。

 彼女の表情は無表情に近いが、その瞳の奥にかすかな驚きと、評価の光が見えた。


「……ヴァルト、まだ終わっとらんぞ」


 低い声が胸に響く。

 俺は剣を振り払い、血飛沫を床に散らすと、視線を上げた。


 結界の先では、美月とクゼスがなおも剣を交えていた。

 ゼトスの咆哮が響き、クゼスの魔力衝撃波が壁を削る。

 結界全体が不気味に脈打ち、今にも崩れそうだ。


「美月、今行くぞ」


 思わず口から漏れる。

 

 今の戦いで、俺の中の何かが確実に変わった。

 もう後には引けない。


 小さく息を吐き、剣を握り直す。

 まだ終わっていない。

 次は、あっちだ。


 呼吸を整え、再び前を見据えた。

 ここからが本番だ――そう心の中で呟いた。

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