第46話「狂気と理性の狭間で」
刃が交わり金属音が響き渡る。
俺の剣撃を弾き返すとアキラの剣が再び閃光を描く。
耳を裂く風切り音と共に、死線が空気を裂いた。
「――ッ!」
紙一重で身をひねり、回避。
頬に熱い感覚が走る。血が一筋、地面に落ちた。
「やっぱり、お前は危険だ。魔王ヴァルト」
アキラはそう言いながら睨み付けてくる。しかし、どこかおかしい。目が、焦点を結んでいない。
その視線の奥にあるのは、俺でもリルベアでもない――美月だ。
「先輩は俺が守る。……いや、俺のものだ。絶対に誰にも渡さない」
剣を構えたまま、アキラは恍惚とした声でつぶやく。
その言葉に、思わず歯噛みした。
「守る? 笑わせるな。お前のそれはただの執着だ」
低く吐き捨てると、アキラの笑みを浮かべる。
「執着でもいい。愛ってのはそういうものでしょう?」
ゾッとするほど真っ直ぐな声だった。
次の瞬間、地面を蹴り、アキラが瞬間移動したかのような速度で迫る。
「ヴァルト!」
リルベアの警告が飛ぶと同時に、俺は剣を横に払った。
火花と火花がぶつかり合い、衝撃が腕を痺れさせる。
――速い。
剣速も、間合いの詰め方も、常人のそれじゃない。
「くっ……!」
押し込まれそうになるが、その瞬間、リルベアの魔力が爆ぜた。
風刃が斜めに走り、アキラの背後から襲う。
「っと……!」
アキラが跳び退く。
床が切り裂かれ、砂塵が舞い上がった。
「ふふ……やるじゃないか。さすが“魔王”ってところかな?」
アキラが息一つ乱さず、剣をくるりと回す。
今の一撃を完全に見切られたわけじゃない――リルベアの狙いは当たっている。
「行くぞ、リア!」
「うむ!」
俺は剣を構え、リルベアと同時に駆ける。
風刃と斬撃の同時攻撃。互いのタイミングを合わせ、アキラを挟み込む。
「ははっ、いいね……!」
アキラは笑いながら、その全てを受け流した。
刃と刃が火花を散らし、剣風が回廊を切り裂く。
「っ……!」
わずかに肩に痛みが走る。
見れば、いつの間にか服が裂け、血が滲んでいた。
「油断するでないぞ!」
リルベアが魔力を練り、再び風を巻き起こす。
アキラの動きを牽制するように、回廊全体に鋭い突風が吹き荒れた。
「おっと……!」
アキラが笑いながら後退する。
だが、恐怖は一切ない。むしろ楽しんでいる。
「こんなに興奮する戦い、久しぶりだ!」
剣を構え直し、瞳に狂気の光を宿す。
その瞬間、結界越しに轟音が響いた。
向こう側ではクゼスと美月が激突しているらしい。ゼトスの魔法の衝撃と共に結界が不気味に震えている。
「……くそ、長引かせると不味いな」
汗を拭う暇もなく、俺は小さく息を吐く。
胸の奥で渦巻く怒りを、ゆっくりと静めるように。
――集中しろ。怒りに呑まれるな。
剣を握る手に、じわりと力が入る。
リルベアが横で魔力を練り直し、わずかに口角を上げた。
「次で決めるぞ、ヴァルト」
「……ああ」
俺は視線を前に据え、アキラを睨みつける。
殺気が全身からあふれ出し、フロアの温度が下がったかのように冷える。
剣が再び輝く。
次の一撃が、戦いの天秤を決める。




