第45話「決別の刃、善悪を問う者」
紫紺の光が爆ぜ、床に走った魔法陣が淡く輝きを収めると――そこに、二つの影が立っていた。
艶やかな白銀の髪を揺らすリルベアと、鋭い眼光を宿した巨狼ゼトス。
誰もが言葉を失い、ただその光景を見つめる。
「……ッ!」
クゼスの表情が初めて歪んだ。
驚愕しながら声を漏らす。
「……ああ、ようやく会えましたね。しかし、封印されているはずが、なぜ……」
低い声が、震えていた。
クゼスは一歩前に出ると、瞳に怒りの炎を宿す。
「そうか……そういうことか。すぐ目を覚まさせてあげます、リルベア。あなたは我のものだ」
剣の柄を握るクゼスの手に力がこもる。
禍々しい魔力がフロア全体に広がり、石壁がバチバチと音を立てる。
闘志を燃やすクゼスとは裏腹に俺たちは正直、安堵していた。
ここにきて戦力が増えるのは、願ってもいないこと。
「ゼトス、リア……来てくれたんだな!」
思わず声が出た。
美月も息をつき、僅かに笑みを見せる。
「助かります!」
巨体の狼は静かに鼻を鳴らし、俺と美月の前に立つ。
そして、その傍らに立つ、本気モードのリルベア。
その背に、心強さを感じた。
「ふん、予想外すぎる増援ですね」
アキラが剣を肩に担ぎ、クゼスに視線を送る。
「クゼスさん、さすがにこのままじゃこっちが不利です。分担しましょう」
「……いいでしょう」
クゼスがゆっくりと剣を構え、口元に冷たい笑みを浮かべた。
「雑魚など束になろうが関係ない。弱い方は貴様が持て。強い方は、私が面倒を見ます」
クゼスが言い終えるや否や、アキラの剣から凄まじい斬撃が飛んだ。
視界を裂く白刃の閃光。
「ッ!」
咄嗟に俺と美月は左右に跳ぶ。
刃が床を抉り、爆風が砂塵を巻き上げる。
その直後、斬撃が通った軌跡に沿って光の壁が立ち上がった。
結界――!
俺とリルベア、アキラがいる側と、クゼス、美月、ゼトスがいる側が完全に分断される。
「……チッ!」
思わず舌打ちするが、もう遅い。
クゼスがゆっくりと剣を持ち直す姿が、結界の向こうで揺れて見えた。
「ヴァルトさん」
美月が短く声をかける。
「すぐ行きます。そちらも気を付けて」
「……ああ」
互いに視線を交わし、頷き合う。
その直後、アキラが剣を構え直した。
「お前は絶対に殺す。お前がいることは――悪だ!」
叫びと同時に、斬撃が走る。
その一撃をリルベアが軽く弾くように霧散させる。
耳鳴りがするほどの轟音。
結界の光が揺らぎ、俺は思わず奥歯を噛み締めた。
深く息を吸い、吐く。
胸の奥で渦巻く怒りと殺意を、静かに燃やすように押し込める。
感覚が研ぎ澄まされていく――。
目の前のアキラの一挙手一投足が、手に取るように見える。
「お前のいう善悪ってなんだ?」
低く、抑えた声で問いかける。
それは、怒号ではなく冷たい刃のような声だった。
「言ってみろよ、クソガキ」
殺気が迸り、空気が凍る。
アキラが僅かに顔を歪めるが、次の瞬間には狂気じみた笑みを浮かべた。
「決まってるだろう。先輩を汚すものは、全て悪だ!」
剣が再び輝き、殺意の奔流が俺を貫く。
――こいつは敵だ。言葉を交わさなくても、はっきりわかる。
俺は剣を構え直し、地を蹴った。




