第43話「四者激突、交わる刃と策謀」
次々と俺は攻撃を仕掛ける。
拳が、足が、空気を切り裂く。
クゼスも即座に反応し、片腕で俺の拳を受け止めながら、逆の手で掌底を叩き込んできた。
衝撃波が回廊を震わせ、石片がぱらぱらと天井から降る。
「ははっ、いいね! そうこなくちゃ!」
クゼスの顔が嬉々として歪む。
次の瞬間、背筋が凍るほどの殺気が俺の間合いを覆った。
「ッ――!」
俺は後ろに跳び退き、距離を取ると同時に死角からの魔法が頬をかすめた。
血の匂いが鼻を突き、皮膚がヒリつく。
こいつ、ちゃんと強いッ――!
互いに距離を取り、睨み合う。
「へぇ、君、強いじゃん。何者?」
クゼスは口角を吊り上げ、愉快そうに問う。
「ここの――」
言いかけて、俺は一気に距離を詰めた。
油断していたクゼスの顔がわずかに驚きで歪む。
その顔面めがけて渾身の蹴りを叩き込むと、クゼスの体が宙を舞い、壁に叩きつけられる。
石壁がひび割れ、瓦礫が降り注ぐ中、俺は剣を抜いた。
「――魔王だよ」
瓦礫を押し退け、クゼスがゆっくりと立ち上がる。
服についた埃を払うと、ニヤリと笑った。
「妙なことを言う。ここの魔王はリルベアでしょ?」
「リアは俺の眷属だ」
俺の言葉に、クゼスの表情が凍る。
一拍置いて――吹き出した。
「……ふふっ。フハハハハハッ!」
狂気じみた高笑いが、回廊に響き渡る。
笑い終えると、クゼスはゆっくりと剣を抜いた。
「なら、お前を殺すだけだ。リルベアを“リア”呼びするだけでも万死に値するのに、眷属にしているだと? ふざけるなぁあああああああ!!」
剣に禍々しい魔力が宿り、空気が黒く染まる。
クゼスが床を踏み砕き、一気に間合いを詰めてくる。
はやっ――。
剣が振り下ろされる……が、次の瞬間。
甲高い金属音と共に、クゼスの剣が弾かれた。
衝撃でクゼスが数歩後退する。
「あ?」
クゼスが訝しむより先に、白い光が視界を照らした。
「その臭い口を閉じてもらえますか? 臭すぎて迷惑なので」
俺の前に立っていたのは、美月だった。
白く輝く剣を構え、その刃はクゼスの禍々しい魔力を切り裂き、なお光を放っている。
「美月?! どうしてここに……」
「ヴァルトさん、気持ちはわかりますが落ち着いてください」
美月は視線をクゼスから逸らさずに言った。
「あれは正直、バケモノの類です。剣を弾いただけで、魔力をごっそり持ってかれました。魔王同士だと、まともに殺り合えば経験の差でジリ貧になります。ここは共闘しましょう」
言われるまでもない。
さっきの攻防で、俺の攻撃がほとんど効いていないことはわかっていた。
少なくとも、美月の光の剣のほうがクゼスを怯ませている。
「……わかった。頼む」
悔しいが、今は力を借りるしかない。
そのやり取りを聞いていたクゼスが、怪訝そうに目を細めた。
「……は? 何故、勇者がここに……いや、それより何故、勇者がそいつの味方をしている?」
クゼスはボソボソと呟き、何かを考えている様子だった。
そして少しの沈黙の後、剣を構え直す。
俺も美月も、思わず息を呑む。
「そうか。貴様ら、グルだな?」
「あ? 何言って――」
「そうですよ!」
俺の声を遮るように、美月が即答した。
「いつだって私はヴァルトさんの味方です! なんか文句でもある?」
「ちょ、美月!? 何言っちゃってんの!?」
俺の困惑などお構いなしに、美月は胸を張る。
「ふふふ……認めたな?」
クゼスはその様子を見て、にやりと笑う。
「お前の考えは正しかったようだぞ――勇者アキラ」
「だから言ったろ? 俺はいつも正しいんだよ」
クゼスの問いかけに対してそう答えながら、一人の男が階層扉を開けて入ってきた。
その瞬間、フロアにピりつくような緊張が走った――。




