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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第42話「憤怒の咆哮、魔王vs魔王」

 少しの沈黙が流れた。

 レイラは剣を払うと、血を振り落とし、ゆっくりと踵を返す。

 回廊には、鉄の匂いが鼻を刺し、石床に広がる赤黒い染みがじわじわと広がっていた。


『とりあえず、一旦戻りますね』


 淡々とした声。いつもと同じ口調だった。

 だが、俺はどこか胸騒ぎを覚えながらモニターを見ていた。

 

 ――こういう時の嫌な予感は、当たる。


 回廊の奥に、突如として巨大な魔法陣が展開されたのだ。

 紫がかった光が脈動し、回廊全体を妖しく照らし出す。空気が一瞬で張り詰め、魔力が渦を巻く。


「は?」


 リルベアが短く声を漏らす。


「え?」


 美月も同じく困惑の声を上げた。

 しかし俺だけは、別のものを見ていた。


 ――魔法陣の中心から、斬撃が飛び出してくるのが見えたのだ。


『レイラッ! 避けろッ!』


 反射的に叫んだが、間に合わない。


「え――」


 レイラが振り返った瞬間、視界を覆うほどの斬撃が飛来した。

 肉が裂ける生々しい音、石床に血が飛び散る音、そしてレイラの身体が切り刻まれていく光景――。


 赤い飛沫が回廊の壁に花を咲かせた。

 彼女の剣が床に落ち、乾いた金属音が響く。

 

 そのまま、レイラの身体は崩れ落ち、光の粒となって霧散した。


「レイラァァアァアアアッ!!!」


 叫びが勝手に喉から飛び出す。

 胸の奥が灼けるように熱い。頭の中が真っ白になる。


「ヴァルトよ、落ち着けっ!」


 リルベアが俺の肩を掴む。


「レイラは眷属じゃ! お主が死なん限り、レイラも死なん! 時間経過でコアルームに蘇生される、安心せいっ!」


 言葉は耳に入った。理屈も分かる。

 だが、心は納得しなかった。

 

 モニター越しとはいえ、俺の仲間が殺された。

 

 判断を誤った。油断した。

 まさか、転移魔法陣から先制攻撃が飛んでくるなんて――想像もしていなかった。


 胃の奥がねじ切れそうな感覚。

 怒り、悔しさ、自己嫌悪――感情がぐちゃぐちゃに絡み合い、胸の中で暴れ回る。


 そのとき、転移魔法陣の光がさらに強く輝いた。

 

 床が震え、壁の紋様が青白く反射する。

 やがて、そこから一人の影が姿を現した。


 深い紫色の癖毛、長い前髪が片目を隠し、ひょろっとした体型。

 だが、見た目の華奢さとは裏腹に、全身からあふれる魔力が肌を刺す。

 息苦しいほどの圧が、広間を満たした。


「あれれ~? 瞬殺かぁ。もう少し強いと思ってたけど……ただの雑魚だったか~」


 気怠そうに頭を掻きながら、そいつは呟いた。

 その無神経な声が、俺の頭の奥で爆ぜる。


 次の瞬間、俺の中で何かが切れた。

 

 押さえつけていた魔力が一気に溢れ出す。

 空気が歪み、机や椅子が吹き飛び、魔力の圧でモニターの表示が揺れる。


「ぶち殺す……」


 低く、唸るように呟いた。

 周囲の魔物たちが怯え、部屋の隅に退避するほどの殺気。


「ヴァルトよ、待てッ!」


 リルベアの制止など耳に入らない。

 俺は瞬時に転移魔法陣を展開し、自分の体を光に包ませた。


 次の瞬間、視界が切り替わる。



 ◆


 

 ――第十一階層。

 

 血の匂いと焦げた魔力の臭いが混じり合い、回廊は重苦しい空気に包まれていた。


 紫髪の男は、リルベア人形の入った封印へと歩み寄る。

 その足取りはゆったりとしているが、確実に獲物を狩る捕食者のそれだった。


「あぁ……会いたかったよ。僕のリルベア……」


 陶酔したような声。

 指先が封印の鎖に触れようとした瞬間、頭上に新たな転移魔法陣が展開された。


「あ?」


 男が小さく声を漏らし、視線を上げる。


 俺は陣から飛び出し、渾身の踵落としを叩き込む。

 男は驚きながらも腕でガードし、衝撃波が回廊を震わせた。


 石壁に亀裂が走り、砂埃が舞う。


「おいゴラ……てめぇ、クゼスだな?」


 歯を食いしばり、男を睨み付ける。


「いきなり来て、俺の眷属になにしてくれんだ、あ?」


 衝突と共に殺気が部屋を満たしていく。

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