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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第39話「甘えと嫉妬、そして胸騒ぎ」

 緊張の反動で一気に肩の力が抜けていく。


「……ふぅ。なんとか切り抜けたな」

 

「うむ。あやつらが妙な詮索をせんでよかったわい」


 リルベアが椅子にだらしなく腰をかけ直し、俺は腕を組みながら頷いた。

 

 と、その時――。


「ねぇねぇ! ヴァルトさんっ!」


 広間から戻ってきた美月が、ぱたぱたと小走りで俺に駆け寄ってきた。

 

 つい先ほどまでの勇者然とした鋭さは跡形もなく、完全に甘えん坊モードだ。


「どうでした!? 私、ちゃんと勇者っぽく立ち回れてました!? ね、ね、褒めて褒めて~!」


 ぱっと机に身を乗り出し、期待に満ちた瞳で俺を見上げてくる。

 

 ……切り替え早すぎだろ。さっきまで殺気飛ばしてた人間とは思えない。

 だが――まあ、上手くやってくれたのは事実だ。

 

 俺は思わず苦笑しつつ、美月の頭に手を伸ばした。


「よくやった、完璧だったよ。美月のおかげで丸く収まったな」


「えへへっ! やったぁ!」


 美月は嬉しそうに目を細め、犬のように俺の手に頭を擦りつけてくる。

 

 勇者というよりは、甘えん坊な子供にしか見えない。


 しかし――隣から、冷気のような視線が突き刺さった。

 レイラが、じとっとした目で俺と美月を見ている。


 なんだか視線が痛い。心なしか怒っているような気もする。

 

「……はぁ。何じゃこの緊張感のなさは」


 そんな俺たちを見て、リルベアが組んだ腕をきゅっと締め、唇を尖らせた。


(マスター)に甘えないでください。鬱陶しいので。頭を撫でられて喜ぶなど、子犬ですか」


 リルベアに便乗するかのように、レイラがここぞとばかりに美月を罵る。

 

「な、なんですかそれ! 子犬じゃありません! ヴァルトさんは褒めてくれてるんです!」


(マスター)も、甘やかしすぎです!」

 

「す、すまん」


「いいんです! ヴァルトさんは別に甘やかしてなんかいません!」


 美月が頬を真っ赤にして抗議するが、頭を撫でられたままなので説得力ゼロだ。

 俺としては、ただ労ってるつもりなんだが……。


 そんな俺たちを眺めて、ゼトスがふっと口元を緩めた。


「ふむ……もはや夫婦ですな」


「は、夫婦っ!? ち、違いますからっ!」

「ふ、夫婦!? (マスター)、そんなの私は認めませんよ!」


 美月は慌てふためき、レイラは逆に真っ赤になって怒鳴りかけた。

 

 その反応があまりに対照的で、余計に場が騒がしくなる。


「過剰反応するな。ただの冗談だろ? 面倒くさくなるから、ゼトスも程々にな」


「そうでありますな。次からは気をつけましょう」


 そう言いつつ、ゼトスは俺に纏わりつくように伏せる。


 さり気なく自分が一番みたいに見せつけるな。

 お前が一番イチャつきに来ているぞ。

 

「やれやれ。わらわの目には、ただの小娘がキャーキャー騒いでおるようにしか見えんがの」

 

 リルベアが大仰にため息を吐く。

 

「全く……まあ、それも平和の証拠かもしれんがな」


「平和……か」

 

 俺は苦笑混じりに呟く。

 確かに、こうしてわちゃわちゃできている時点で、状況は悪くないのだろう。


 美月はなおも「夫婦じゃないです!」と必死に否定しているし、レイラは「当たり前です、馴れ馴れしいと自覚してください!」と言い合っている。

 

 ゼトスは「仲が良いのは良いこと」と微笑ましそうに眺め、リルベアは椅子を揺らして退屈そうにあくびをしている。


 まるで、いつもの執務室の空気だ。

 あれだけの緊張を強いられた後とは思えないほどに。


 俺も少し肩をほぐし、椅子に深く沈み込んだ。

 が――。


 次の瞬間。


 ぞわり、と背筋を撫でるような悪寒が走った。


 心臓が一拍遅れて強く脈打ち、思わず息が止まる。

 空気が揺れた……ような気がした。


 俺はすぐに管理画面を操作し、ダンジョン内の監視映像を切り替える。

 

 十一階層、十二階層、そしてそれ以外の階層。

 異常は……ない。

 

 魔物たちは通常通り巡回しているし、侵入者の影もない。


「……(マスター)?」

 

 レイラが怪訝そうに首をかしげる。

 

「どうかしました?」と美月も身を寄せる。


 俺は一瞬、答えに迷った。

 だが結局、首を横に振るしかなかった。


「……いや、なんでもない」


 再び椅子に背を預ける。

 だが、さっき感じた“嫌な気配”は幻覚とは思えない。


 何だったんだ……今のは。


 胸の奥に微かなざらつきを残したまま、俺は深く息を吐いた。

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