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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第38話「勇者の圧、偵察隊との対峙」

 ――封印の再構築を終えた美月は、静かに手を下ろし、スッと振り返った。


 偵察隊の先頭に立っていたのは、大柄で筋肉質な中年の男だった。

 

 鍛え抜かれた体躯だけでなく、纏う気配がすでにただ者ではない。歴戦をくぐり抜けてきた戦士だけが持つ、鋭い空気をまとっている。


 だが、美月にとってそれは威圧にもならない。

 彼女はその視線を正面から受け止め、むしろ逆に圧をかけるかのように一歩前へ出た。


「再構築、お疲れ様です」

 

 男は軽く頭を下げ、落ち着いた声で名乗る。

 

「私は、冒険者組合より内部調査の命を受けた佐野と申します」


 美月の瞳が冷ややかに光を差す。

 勇者としての威圧――いや、それは強者がいつでも潰せると暗に示す、覇気そのものだった。


「私以外が来ても意味がないと、伝えたはずですが?」


 その声に、偵察隊の空気が一瞬で張り詰める。

 佐野は微かに目を細めたが、怯んだ様子は見せず、静かに言葉を返した。


「承知しております。しかし、美月様はほぼ毎日この階層に通い、封印を再構築されているとか。上層部としても、現状を知る必要があるという判断でして」


「だとすれば、私を通して聞くのが筋でしょう」

 

 美月は氷のような声音で切り返す。

 

「わざわざ秘密裏に偵察隊を動かすなど――勇者を侮辱する行為です。虫唾が走りますね」


 その瞬間、彼女から放たれる覇気がさらに重くなり、場を包む。

 

 いくら偵察隊が選りすぐりの精鋭であろうと、美月は勇者。

 魔王と対を成す存在であり、敵に回してはならない象徴だ。

 

 言い換えれば、目の前に魔王が立っているのと変わらない。


「……そういう規則となっておりますゆえ、ご容赦を」

 

 佐野はそう前置きしつつも、一歩も退かずに言葉を続けた。

 

「して、何故そこまで頻繁に再構築を? 見たところ、封印の綻びは大きくなかったように思えますが」


 美月は小さく息を吐き、呆れを隠さずに応じた。

 

「それすら気付けないから、私以外が来ても意味がないと申し上げているんです」


 ため息交じりにそう言うと、視線を逸らさず、淡々と続ける。

 

「魔王リルベアは本来、勇者が二人がかりで挑むべき相手。復活したばかりで本調子でなかったからこそ封印できました。この封印は――絶対に、解かせてはならないのです」


「……ならば、しっかりとレイドパーティを組み、討伐してしまえばよいのでは?」


 佐野の一言に、美月はわずかに目を細めた。呆れすら滲ませて。


「一体どれほどの被害が出ると思っているのですか。人の命は、使い捨ての消耗品とは違いますよ?」


 短い沈黙が落ちる。

 美月は一拍置いてから、更に声を低くした。


「それに――どうやらダンジョンコアが“魔王”と一体化しているようです。倒せば、ダンジョンそのものが消えてしまうでしょう」


「それは、本当ですか!?」


 佐野が思わず声を荒げる。

 美月はただ一度、静かに頷いた。


 その仕草を見届けた佐野は顎に手を当て、しばし思案に沈む。

 やがて、結論を告げるように口を開いた。


「……今後の動きは慎重に考える他ありません。この件は持ち帰り、上層部の判断に委ねましょう」


 そう言い残し、佐野は偵察隊を率いて踵を返す。

 やがて彼らの背中は、扉の向こうへと消えていった。


 広間に静寂が戻る。

 美月は小さく息を吐き、鋭さを湛えていた瞳を和らげた。


 その様子をモニター越しに見ていた俺も、リルベアも、深く息を吐き出す。

 背もたれに体を預け、僅かな安堵を覚える。


 ――ひとまず、この危機は去った。

 このまま何事もなく終われば良いのだが。

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