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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第37話「静かなる対峙、迫る偵察隊」

 偵察隊の影が、監視モニターの奥でじわじわと距離を詰めてくる。

 

 統一感のある装備に、無駄のない足運び。

 動きに一切の淀みはなく、そこから滲む間合いの鋭さは、場慣れした者特有のものだ。


「……どう思う?」


 隣のリルベアが腕を組んだまま、目線をモニターから外さずに低く問う。

 

 その声色は軽さを欠き、探るような響きを帯びていた。


 俺はリアが懸念していることをすぐに察した。

 

 ――冒険者組合は、美月の報告を表面上は受け入れていても、完全には信じていないのではないか。


 俺だって、その疑いは拭えていない。

 

 “勇者”なんて貴重な戦力を、こうも頻繁にダンジョンへ放り込み、しかもほぼ自由にさせている時点で、違和感しかない。

 

 もし、美月の性格や行動まで逆手に取り、囮として動かしているのだとしたら――嫌な予感がする。


「まだ何とも言えないけど……最悪は考えておく方が良いかもな」


「ふむ……」


 短い唸りが返り、言葉はそこで途切れる。

 再び二人の視線が、淡く光るモニターへと戻った。


 ――さて、どうするか。


 階層の守りを緩めるか?

 

 魔王を“制圧”したという建前があるのに、ボス部屋の魔物が全力待機していたら、「まだ危険だ」と見なされる可能性は高い。


 俺は管理画面を操作し、マザーウィッチとオーガキングの配置変更コマンドを呼び出す。

 

 実行キーに指が触れかけた、その時――。


「待て。そのままでよい」


 ぴしゃりと、リルベアの声が飛ぶ。

 目線は依然としてモニターに注がれたままだが、声音は迷いを許さない。


「変に弄って、他の冒険者の配信記録と食い違えば、余計に怪しまれる」


「あ……そうか。わるい」


 危なかった。リアが止めなければ、自分から墓穴を掘るところだった。 

 こういう読みは、いつも彼女の方が数段上だ。


「……接敵するぞ」


 その言葉で、執務室の空気が一段引き締まる。

 

 モニターを切り替えると、十一階層へ続く通路を偵察隊が慎重に進んでいた。

 

 足取りは軽やかだが、剣や槍を握る手は必要最低限の力で保たれている。 

 視線の動きは、獲物の位置を測る狩人そのものだ。


 十一階層の扉はもう近い。



 ◆


 

 その頃、十一階層。

 

 広間の一角では、美月が封印の術式を展開していた。 

 足元に淡い蒼光が輪を描き、その内側で幾何学模様が幾層にも重なっていく。

 

 光は脈打つように明滅し、線が描き終わるたび、微かな振動音が床を伝い、広間全体に広がっていく。


 表情は凛と引き締まり、先ほどまでのスイーツ勝負の名残など微塵もない。

 

 そこに立つのは、ただ“勇者”としての顔を持つ美月だ。


 その背後――黒い影がわずかに揺れ、レイラの輪郭が淡く浮かび上がる。

 

 金色の瞳が、広間の隅々まで警戒の視線を走らせた。

 護衛というより、獲物を狙う狙撃手のような佇まいで。


 美月は両手を前に掲げ、封印の術式を編み直していく。

 

 魔力の糸が紋様をなぞるたび、淡い鈴のような音色が響き、広間の空気がさらに研ぎ澄まされる。

 

 それはまるで、舞台の幕が上がる直前の静けさだ――息を飲む観客を、音もなく支配していくような。


 ……勇者がやっている。それだけで説得力は十分。

 今回の狙いは、まさにそこにある。


 俺は椅子の背に体を預け、モニター越しに広間を見渡した。

 

 やがて――通路の奥から金属の擦れる音が響く。

 

 重厚な扉が軋みを上げ、冷えた空気が広間へと流れ込んだ。


 姿を現したのは、光沢のある武具を身に着けた偵察隊。

 先頭の隊長らしき人物が一歩前へ出て、視線を素早く走らせる。

 

 真っ直ぐ美月を見据え――その瞳が、ごく僅かに背後の影に揺れた。


 影の奥で、レイラが息を潜める。

 その存在感は、意識を向けなければ消えてしまいそうなほど薄い。

 

 しかし、確かにそこにいて、いつでも動ける構えだ。


 美月は振り返らず、紋様へ魔力を注ぎ続ける。

 掌から流れ込む光が、封印を静かに再構築していった。


 俺は息を殺し、モニターに視線を縫い付ける。

 

 この先の数分が、全てを決める。

 吉と出るか、凶と出るか――それはまだ、誰にもわからない。

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