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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第36話「封印は甘くない」

 ――翌日。

 十二階層の執務室は――やっぱり騒がしかった。


「今日はスイーツ勝負で決着つけます!」


 美月が勢いよく扉を開けて入ってくる。

 片手には砂糖の袋、もう片手にはやけにごつい泡立て器。すでにやる気は満々だ。


「勝手に決着の舞台を増やさないでください」


 レイラは冷ややかな声を返すが、手にはちゃっかりボウルと粉の袋を持っている。

 

 ……どっちも準備してんじゃねぇか。


「お前ら、他所でやれ。ここはキッチンじゃねーぞ」


 俺は机に肘をつきながら、そう言うとリルベアに目をやる。

 

 管理画面を操作する彼女は、まるで集中している風を装いながら、耳は明らかに二人の方向を意識していた。


「で、ヴァルトよ。今日のは何の勝負じゃ?」


「スイーツだってよ。昨日が料理なら、今日はデザートってとこだな」


「……またやっておるのか。終わりが見えんのう」


 俺も同感だ。

 ただ、こういうどうでもいい争いが続くと、なんだかんだで平和の証拠って気もしてくる。


 美月は台の上に材料を並べ、やたらと楽しそうに鼻歌を歌いながら作業を始める。

 その対面で、レイラはまるで儀式のように無駄のない動作で粉を計量していた。

 

 並んで作業しているのに、この空気の違いはなんだ。

 てか、こいつら完全に俺の言葉聞いてなかったな。


「勇者らしく、甘さは控えめにしますね!」


「……それは“らしさ”ではなく、単に加減を間違えているだけだと思いますが」


「違うもんっ!」


 またもや言い合いが始まる。

 俺が「はいはい、落ち着け」と口を挟もうとした、その瞬間――。


 ――ピコンッ。


 机上の管理画面が小さく光を放った。

 

 同時に、低く唸るような警戒音が室内に広がる。

 俺とリルベアは反射的に画面を覗き込んだ。


「……階層外から、複数の反応。なかなか強いの」


 リルベアが短く告げる。

 

 画面には、十数名ほどの人影が隊列を組んでダンジョン内部へ進んでくる映像が映っていた。

 

 全員が武装し、動きは迷いがなく訓練された印象。どう見ても普通の冒険者じゃない。


 まさか、作戦がバレてレイドパーティがやって来たのか?


「いっそ蹴散らすか?」


 リルベアが当然のように物騒なことを言う。

 俺は即座に首を横に振った。


「いや、ダメだろ。まだ何者かもわかってないし」


「ふむ……。しかし、あれが組合の手の者なら、面倒くさいことになるぞ」


「それはわかってる。でも、まずは様子を見よう」


 背後から、さっきまで砂糖を計っていた美月の声が割り込んできた。


「あれ……? ちょっと待ってください、その隊列……」


 美月が画面を覗き込み、目を細める。

 しばし黙って人影を追い――そして、口を開いた。


「……知ってる人達です。冒険者組合の偵察隊ですね」


 レイラも手を止め、険しい目つきで画面を見る。

 確かに、彼らの装備や動きは組織的で、目的を持って行動していることが見て取れる。


「知り合い……ってことは、完全な敵じゃないのか?」


「そう……だと思います。でも、彼らは任務優先ですから、場合によっては――」


 美月が言葉を濁す。

 その曖昧さが、逆に不穏さを漂わせる。


 リルベアは顎に手を当て、しばし沈黙したあと、ぽつりと口を開いた。


「……ならば、こうするのが一番じゃ」


「こうする?」


「勇者が封印の結び直しをしているところを見せるのじゃ。それなら余計な詮索もされず、向こうも安心する」


 確かに、俺たちだけが対応するより、美月が“表向きの顔”を使って見せた方が、偵察隊の警戒は解けやすいだろう。


「なるほど……理にかなってますね」

 

 美月は軽く頷き、すぐに袖をまくった。

 

 顔つきはすでに、さっきまでのスイーツ勝負モードから“勇者”に切り替わっている。


「わかりました。協力します。その代わり、デザート勝負は持ち越しですよ!」


「勝負の話は今関係ないだろ」

 

 俺が思わずツッコむが、美月は全く耳に入っていない。


 レイラは静かに立ち上がり、「私も同行して、影から様子を見ます」と短く告げた。

 腰に手を置く仕草は、どこか護衛というより監視役のように見える。


 リルベアは満足そうにうなずくと、管理画面を操作して階層の扉を開放した。


「よし、あとは勇者の出番じゃ。うまくやれよ」


 こうして、俺たちは美月達を見送り偵察隊がこちらの階層に到達するのを待つことになった。


 さっきまでの砂糖と卵の匂いが漂う執務室は、鋼と冷気が混ざったような緊張感に変わっていた。


 ――この先に何が待っているのか。


 俺は静かに息を吸い込み、画面から目を離さなかった。

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