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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第四章 入り浸り勇者と来訪する執着者

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第35話「執務室は戦場と化す」

 勇者が報告に戻ってから、数週間。

 ダンジョンには――いつもの日常が戻ってきて……はいなかった。


 新十二階層、魔王城の執務室。

 石造りの壁に魔灯が揺れ、机の上では魔力の光が走る管理画面が淡く瞬いている。

 

 俺はリルベアと並んで座り、ダンジョンの細かい調整を進めていた。


 カタカタとパネルを叩く音が響く中、隣のリルベアがふいに手を止め、顎をくいっと持ち上げる。

 

 視線の先は、部屋の奥だ。


「で、ヴァルトよ。なんじゃ、あれは」


「知るか。直接本人に聞けよ」


 俺もつられてそちらを見る。

 

 そこでは、美月とレイラが机を挟んで睨み合い、何やら身振り手振りを交えて口論していた。

 

 手の動きは剣を交えるよりも速く、声の強弱は戦場顔負けだ。


 美月が報告に帰ってから、またここに戻ってくるまでそう日はかからなかった。

 

 ……というか、あれから毎日のようにやって来ては、食堂で朝食を食べ、昼は訓練場でレイラに勝負を挑み、夜はゼトスとじゃれ合っている――。

 

 今日はその延長で、執務室まで乗り込んできたわけだ。

 

 レイラとの勝負は決着がつかず――剣術、魔法、知識比べ……そして今日はなんだ、料理か?


 そんな二人をさっさと追い出せと言わんばかりに、視線で訴えながらリルベアは口を開く。

 

「無理じゃ。わらわは魔王じゃから、勇者が苦手なんじゃ」


「そうかー。じゃあ俺も魔王だから無理だわー」


 棒読みで返し、俺は再び管理画面に向き直る。

 しかし、リルベアはむくれ顔で机をトントンと指で叩き出す。

 

 小さな音なのに、やけに耳につく。


「もうっ、なんとかせい! やかましくて集中できんのじゃ。うぬは主じゃろ!」


 はぁ……とため息をつき、俺は立ち上がる。

 

 面倒だが、魔王として執務室が戦場になるのは避けねばならない。 


「おーい、今度は何の勝負だ?」


「今日こそは料理で決着をつけます!」

 

 美月は腰に手を当て、胸を張って宣言した。目はキラキラと輝き、やたらと自信満々だ。


「勝手に決着の舞台を用意しないでください」

 

 レイラは冷ややかに返す。その言葉は刃のように鋭いが、手にはすでに包丁が握られている。

 

 ……結局乗る気満々じゃねぇか。


「だって、この前は魔法で負けたし、知識対決は引き分けだったじゃないですか! 次で決着を――」


「……敗北の予告ですか?」


「違います!!」

 

 美月が机をバンッと叩くと、レイラは小さくため息をついた。


 見兼ねて、俺は間に入る。


「……で、何を作るんだ?」


「ふふっ、今日は特別に“勇者流オムライス”です!」

 

美月は両手で空中に丸を描き、盛り付けのイメージを披露する。

 

「まずはふわっふわの卵を――」

 

「勇者流……そんなの聞いたことありませんが」


 レイラの冷徹なツッコミが即座に飛ぶ。 

 美月のジェスチャーは最後まで聞かれずに切り捨てられた。


 そんな美月を他所に、今度はレイラが自信満々そうに手を腰に当てながら言う。

 

「じゃあ私は“魔王流特製ビーフシチュー”を作ります」

 

 ――え、もう勝負の土俵が違くないか?

 てか、お前は魔王じゃなくて吸血鬼だろ。


「もう決着とかどうでもよくないか?」

 

 俺がぼそっと本音を漏らすと、二人同時に「黙っててください!」と怒鳴られた。


 なんで俺怒られてんの。



 ◆

 


「……なあ美月。お前、毎日ここに来てるけど、冒険者の仕事は?」


「大丈夫です! うちのギルドマスター、“行ってこい”って笑顔で送り出してくれてますから!」


「……それ、たぶん“行ってこい(帰ってくるな)”の意味じゃないか?」


「そんなはずないです!」


 やれやれ。

 俺は結局、場を収めることもなくリルベアの横へと戻った。


 リルベアが不服そうに、「なんじゃ、まだ勝負は終わらんのか?」と眉をひそめる。


 背後では「ケチャップ貸してください!」「その前に手を洗いなさい!」という声が飛び交っている。


 ……今日も平和だな。いや、平和か?

 まあいい。明日もきっと、似たような光景が待ってるんだろう。


 はぁ……。この不毛な争いは、いつまで続くんだろうか。

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