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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

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第29話「覚醒せし魔王、勇者を迎え撃つ」

 鋭い銀閃が迫る。

 

 勇者の剣を、俺は魔力で覆った片手で弾き返した。金属音が空間に高く響き、火花が散った。

 その一撃の重みが腕にビリビリと残る。


 ――やっぱり、リルベアとやり合っていただけはある。


 軽くかがみ込み、リルベアに手を差し出す。

 驚いたように目を瞬かせた彼女が、その手を掴むと同時に立ち上がる。

 

 指先に伝わる熱と重みが、生きていることを証明していた。


「リア、大丈夫か?」


「かかっ! 男前になったではないか、ヴァルトよ」


 茶化しながら笑うその声音には、どこか安堵が滲んでいた。

 

 俺の“格”が上がり、人型へと変わった姿を見て、少し嬉しそうに笑っている。


 黒髪からは二本のツノが伸び、切れ長の瞳にはまだ人間だった頃の柔らかさが残る。

 

 長身で筋肉質な身体には、赤黒くごつごつとした魔王を彷彿させる装備。

 腰には、異様なまでに真っ黒で、いびつに曲がった剣を差していた。

 刃は光を吸い込むように鈍く沈み、見る者に言い知れぬ不安を植え付ける。


 そんな俺の姿を前に、勇者の目が鋭く細まる。

 その双眸には、戦場に立つ者特有の研ぎ澄まされた光があった。


「……誰ですか? あなた」


「魔王ヴァルト・ノクス。このダンジョンのトップとでも言えばいいかな?」


 返答を終えるより早く、勇者の姿が視界から掻き消えた。

 風切り音すら残さず――まるで空間を飛び越えるかのような移動。


 次の瞬間――。

 

 剣が喉元を狙い、稲妻のような速度で振り抜かれる。


 だが、俺も同時に抜刀。漆黒の剣が闇を裂き、勇者の一撃を逸らす。

 甲高い金属音と共に火花が舞い、衝撃波が広がり岩壁を焦がす。


「魔王が二人もいるなんて聞いてないんですけど!」


 勇者は怒気を帯びた声でそう言いながら体術と剣術が混ざり合った連撃を嵐のように降り注いでくる。

 

 切り上げ、踏み込み、肘打ち、回転斬り――。

 その間合いの出入りは流れる水のようで、一瞬たりとも途切れない。


 俺は滑るような足運びと剣の角度で軽く受け流す。

 剣と拳が頬をかすめ、足技が脇腹を狙うが、その全てを半歩ずつ外していく。


「まぁ、バレないようにしてたからね。てか、そもそも今までは石ころだとか目玉だったし」


 冗談混じりに口を動かしながらも、剣は止まらない。

 

 余裕を保ちながら、刃の軌跡を読み取り続ける。


 思ったよりも――いや、驚くほど、勇者の動きが見えているな。

 全てがゆっくり動いているみたいで、軌道を先読みするのも難しくない。

 

 それは視界の端でリルベアが息を整えるのを確認できるほどだ。


「っ! 何を意味の分かんないこと言っているんですか!」


 勇者はリルベアと戦っていた時よりも、遥かに本気になっている。

 その踏み込みは地面を砕き、切り払いは空気を断ち割る。

 

 だが、それでも俺には通用しない。


 焦りと苛立ちが、吐き出される勇者の声に混ざっていくのがわかる。

 額に汗が滲み、握る剣の動きにわずかな粗が生まれていく。


 剣圧が一段高まり、踏み込みが鋭くなる。

 

 金属と金属が打ち合わされるたび、衝撃波が岩壁を削った。

 地面の砂利が舞い、壁面の亀裂が広がっていく。


 だが、その全てを俺は見切り、受け、弾き、押し返す。

 

 刃を滑らせ、拳を逸らし、蹴りの勢いを利用して間合いを詰める。


 ――そして。


 次の一撃。勇者の渾身の斬撃を、俺は刃ではなく手で受け止めた。

 指先が鍔に触れ、刃が寸前で止まる。

 

 衝撃が掌に食い込み、手首まで痺れが走るが、それ以上は動かない。


「っ!」


 勇者の肩がわずかに震える。

 呼吸が乱れ、鋭い眼光がわずかに揺らぐ。


「俺、“元人間”の転生者なんだよ」


「……は?」


 間抜けなほど素っ頓狂な声。

 その瞬間、勇者の動きが完全に止まった――。

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