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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

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第28話「魔王ヴァルト・ノクス――覚醒す。」

 リルベアの大振りな一撃が、岩壁の空間を削るように振り抜かれた。

 空気が歪み、衝撃が地響きのように反響する。


 だが、勇者はその刹那を読み切っていた。

 剣を抜くことすらせず、重心を僅かにずらすだけで、リルベアの爪をいなす。


「っち」


 リルベアの舌打ちが漏れる。

 続く一閃。今度は両手を広げ、多重魔法を発動させ、漆黒の槍と共に鋭く踏み込む。


 それに対して、勇者が小さく呼吸をすると剣を一気に振り抜く。


 次の瞬間――魔法もろとも空間が爆ぜる。


「っ……!? リルベア!」


 モニター越しに、俺は思わず叫んでいた。


 視界いっぱいに土煙が舞う。

 その中心から、黒く燃え上がるリルベアのオーラが噴き上がるのが見えた。


「まったく、これだから勇者(きさまら)は嫌いなんじゃ。なんでもないかのようにわらわの魔法を蹴散らしよる」


 彼女の声が、かすかに震えている。

 強がってはいるが、今の一閃を避けきれていなかった。


 目を凝らすと、腹部のあたりに傷が走っているのがわかる。

 その傷口から、黒い魔素のようなものが揺らめいていた。


 その瞬間――


「……っぐあっ!?」


 強烈な痛みが、俺の腹に走った。


 膝が崩れ、思わず床に手をつく。


 何だ、今の……?


「主!? どうされましたか!?」


(マスター)! 大丈夫ですか!?」


 ゼトスとレイラの声が飛んでくる。

 だが、言葉を返す余裕がない。

 身体の奥、まるで臓腑を直接殴られたような痛みが、波のように押し寄せてくる。


「……なんで、俺が……」


 リルベアの傷――まさか、それと同時に……?


 混乱と戸惑いが、頭の中を駆け巡る。


 痛みはすぐに引いていった。

 が、それが逆に恐ろしかった。

 リルベアの傷が深くなればなるほど、俺自身も――


 いや、待て。


 ……これは、もしかして。


 思考が一点に集中する。

 リルベアを召喚したとき――確かに、俺は“何か”を失った気がした。


 あのとき、“核”の一部が持っていかれたような感覚があった。

 それが、ただの比喩や魔力消費ではなく――文字通り、持っていかれてて“連動”している可能性。


 つまり。


 俺のコアの一部が、リルベアに宿っている。


 その仮説が正しければ……彼女が傷つけば、俺もダメージを受ける。

 それどころか、もし彼女が――


 ……死んだら、俺も……?


 背筋に冷たいものが走る。


 モニターの向こうで、リルベアが再び雄叫びを上げる。

 その姿を、俺はただ黙って見つめるしかなかった。


 いや――まだだ。

 

 俺は、まだここで突っ立ってるだけの役立たずで終わるつもりはない。


 リルベアは、俺が召喚した眷属だ。

 俺の核の一部を受け取り、命を得た存在。

 

 ならば――あいつと俺は、もっと深く繋がっているはずだ。

 さっき走った痛みも、その証拠。

 

 なら、逆に、俺から“何か”を送れる可能性だってあるんじゃないか。


 魔力でも、命の鼓動でも――あるいは、”俺自身”を。


 その瞬間、脳裏に一つの光景がよみがえった。


 あのとき、リルベアを召喚した瞬間――。

 もっと根本的な、存在の一部が“共有”された感触。


 もし、あのリンクがまだ残っているなら……。


 俺は、リルベアの“座標”に瞬時に到達できるかもしれない。


「主、無理は――」


 ゼトスの声を遮るように、俺は目を閉じ、核の意識へと集中を深めた。


 呼吸を整える。

 思考を沈める。

 自分の“中心”へと、まるで井戸の底に手を伸ばすように。


 そして――あった。


 明確な“接続点”。

 

 リルベアの存在が、俺の中の“核”と繋がっている確かな感覚。


 その先からは、微かな揺らぎと痛み。

 リルベアの命が、確かに燃えているのがわかる。


 ……あいつは、まだやれる。だけど、このままじゃ――。


 勇者の剣が、もう一度リルベアに振り下ろされるその瞬間が、脳裏に浮かぶ。

 たとえ致命傷でなくても、次の一撃で、あいつは――


 ――だが、俺が今ここで動けるなら。


 魔王として、命を共有する存在として。

 このリンクを、“通路”として使えるなら。


「……行くぞ」


 誰にでもなく、俺はそう呟いた。


 脳裏で、“転移”の感覚が芽生える。

 核の奥、リルベアへと繋がるルートに、俺自身の存在を流し込むように――


 意識を、解き放つ。


 “突破”の意思が、限界を超えた――その瞬間、懐かしい声が告げる。

 まるで俺に”立ち上がれ”と言わんばかりに――。



 《魔王ヴァルト・ノクスの格が上がりました。レベルアップに伴い、形状の変化と”全て”の制限解除を行います》

 


 ◆

 


 リルベアが、次の斬撃を防ぎきれず、膝をつこうとしたその瞬間。


 空間が、裂けた。


 闇の魔力が渦を巻き、刃を阻む障壁が割り込む。

 そして、その中から”一人”の影が現れる。


 

 魔王ヴァルト・ノクス――降臨。

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