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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

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第27話「魔王の右腕、死地に立つ」

 “勇者”――

 その言葉に頭の中が真っ白になった。


 いや、違う。真っ白になった“フリ”をして、考えることから逃げたんだ。

 目の前に突きつけられた“最悪の事実”に、咄嗟に現実逃避しようとした。


 だが、モニターに映るその姿は、何度まばたきをしても変わらなかった。


 映っているのは、ただ一人の女性。

 淡々と進み、まっすぐに階層の奥へ向かってくる。


 警戒も、躊躇もない。

 まるで、ここが“彼女の領分”であるかのように、当然の顔で。


 ……あり得ない。

 

 このダンジョンは、どれだけ腕の立つ冒険者でも慎重に進まなければ命を落とす。

 それを、あんなにも無防備に――いや、“余裕で”進んでいるようにしか見えない。


「……こいつ、本当に“勇者”なんだな」


 自分の声が、ひどく小さく、震えていたのがわかった。


 リルベアは頷きもせず、ただ黙って画面を見つめている。

 レイラもゼトスも、珍しく口を開かなかった。


 それが何よりの“答え”だった。


 やがて、勇者が階段を踏みしめる音が聞こえるような気さえして、俺はようやく口を開いた。


「……迎撃するぞ。全員で」


「了解です、主。全戦力、配置へ」


 ゼトスが即座に頷いた。


 だが――レイラは動かなかった。


「……どうした?」


「その命令、撤回を提案します。勇者相手では普通の“戦い”では止まりません」


 その声音は、いつもより低く冷たかった。


「なら、どうすればいい?」


「“彼女”が本当に“勇者”であるなら、対応出来るのは現状――リルベア様しかいません」


 レイラの言葉に、全員の視線がリルベアに向く。


「リアが単独で……?」


 俺の戸惑いが言葉に出る。確かに勇者に対抗するには、最高戦力であるリルベアを当てるのがいい。

 

 だが、未知の脅威に単独で向かわせていいのか?

 

 しかし、俺の戸惑いをよそにゼトスが口を開く。


「それは確かにそうかもしれません。我々がいてはむしろ邪魔になってしまう可能性がある」


 ゼトスの言葉が、レイラの言葉を裏付けるように響いた。


 レイラもゼトスも、本能的に”勇者”との力量差を感じ取っているのかもしれない。

 ”勇者”と”魔王”という存在が、自分たちとは一線を画す世界に生きているということを。


「ふむ。確かに、わらわしかおらんじゃろな」


 何かを思い出すように少しの沈黙のあと、リルベアはそう言うと踵を返し、転移魔法陣を出す。


「大丈夫なのか……?」


 思わず口に出る。


 勇者の手によってリルベアは一度――殺されている。

 

 大丈夫なわけがない。わかっていても口にせずにはいられなかった。


 ”勇者”との戦いは、間違いなく――死闘。


 「さぁ、どうじゃろな。だが、明らかに狙いはわらわじゃ。自分の”発言”の尻ぬぐいはせんとな」


 ――歩き出すその姿は、堂々としていた。


 そして、転移魔法陣の光に包まれるリルベアの背中を見送った。



 ◆

 


 ――第七階層。

 広々とした岩壁の空間を進む女勇者。


 そして――その前にリルベアが現れ、互いに足を止めた。


 ついに向かい合う二人。

 その行く末を俺はモニター越しに眺める。

 

 やがて、静寂の中に、声が落ちた。


「わらわを殺しにきたか? ”勇者”」


 低く、しかし確かに響く声。

 リルベアから初めて聞く“殺意”のこもった声だった。


 その問いに――


 勇者は、たった一言、こう返した。


「コアを確認しに来ただけよ。邪魔しないでくれる?」


「かかっ! 魔王(わらわたち)の対になる存在がぬかしよるわ」

  

 その瞬間――リルベアの笑みが、静かに、けれど鋭く吊り上がった。


 そして、全体の空気が一変する。


 静寂が、緊張に変わった。


 血の気が引くような圧力が、画面越しでも伝わってくる。


 それは――まさしく、“戦闘開始”の合図だった。


 ――次の瞬間、二人の影が、同時に動いた。

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