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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第三章 成長する魔王と迫る”冒険者組合”の影

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第26話「勇者、来訪」

 バシュッ! ゴォォォンッ!


 訓練場に、魔法の炸裂音と風切り音が立て続けに響き渡っていた。

 

 空間が震え、床がうっすらと焦げる匂いを帯びる。

 漂う魔力は飽和寸前で、熱と冷気がぶつかり合いながら乱反射していた。


 その中心で――俺とゼトスが、激しくぶつかり合っていた。


 左翼から黒い稲妻を放ち、右翼には闇を凝縮した刃。

 それらを一気に展開し、角度とタイミングをずらして突っ込む。


 今回はいける――!


 そう思った次の瞬間。


「っ……ちょっ、はやっ!?」


 ゼトスの巨体が、風のように動いた。

 俺の魔法を正確に見極め、最小限の動きでかわしていく。


 ガッ、と尻尾が床を鳴らし、次の瞬間、視界が傾いた。


「うおっ――」


 バランスを崩した俺の前に、ゼトスの前脚が迫る。


 しかし、その鋭い爪は寸前で止まった。


「はい、ここまでですね。主」


 穏やかな声と共に、静かに距離を取るゼトス。


 俺はそのまま地面にへたり込み、深く息を吐いた。


「くっそ……今回はいけると思ったんだけどなぁ……」


 この特訓、すでに一週間は続いている。

 最初はただの模擬戦だったが、オーガキング戦以降、俺の中で意識が変わった。


 ――このままじゃダメだ。


 何かが起きたとき、俺自身が戦えるようになっていなければ、ダンジョンの主なんて名ばかりだ。


 そう思って、ゼトスに頭を下げて、付き合ってもらっている。


「主は確実に強くなっております! 前よりも詠唱が早くなっていますし、攻撃の組み立ても工夫されておりました!」


「……フォローがうまいな、お前」


「いえ、事実です! ですが、一発の威力に頼りすぎる傾向がまだ見られます。もっと柔軟な使い方ができれば、さらに戦術の幅が広がるかと」


「それ……一番治んないやつだろ……」


 呟きながらも、心の奥では少しだけ嬉しかった。

 ゼトスは性格的に、お世辞なんて言わない。

 

 本当にそう思っているから、本心で言ってくれてる。

 それが、地味に効く。


「よし……んじゃ、もう一回だ!」


 気合を入れて立ち上がろうとした、そのときだった。


 


 ――ピィイイイイィィッ!!


 


 訓練場全体に、けたたましい警告音が鳴り響いた。

 空気がビリビリと震え、訓練場の証明が点滅する。


「っ、なんだ!?」


「緊急アラート……です!」


 反射的に顔を見合わせ、俺とゼトスはすぐさまコアルームへと駆け出した。

 


 ◆

 


 コアルームに飛び込むと、正面のモニターには赤い警告フレームが点滅していた。

 レイラとリアが無言でその前に立ち尽くしており、視線は食い入るようにモニターへと注がれている。


 その背中から伝わる空気が、いつもと違った。

 緊張――というより、緊迫。


「これ一体なんの音だ! なんかあったのか!?」


 息を切らしながら叫ぶ俺に、レイラは言葉を返さず、ただ手を伸ばして画面を指した。


 その先に――一人の人物が映っていた。


 階層を進んでいく、女性の姿。


 その女は、黒髪をなびかせて歩いていた。

 風が外套をはためかせるたび、まるで“覚悟”がにじみ出ているような気迫がある。

 

 鎧は軽装。けれど、足取りに迷いは一切ない。


 あの目は……俺たちを“敵”として、確実に仕留めようとしている――そんな視線だった。


「……誰だ?」


 ぽつりと呟いたその瞬間、部屋の空気が変わった。


 レイラも、ゼトスも、言葉を返さない。


 ただ、リアだけが――数秒の沈黙の後、低く呟いた。



「……勇者じゃ」

 


 その一言で、俺の思考が止まる。


 心臓の鼓動が、妙に遠くで響いた。

 視界の中で、モニターの赤い光だけが明滅を繰り返す。


 “勇者”――


 その言葉の意味を、俺は知っている。

 存在として、力として、そして……なにより、“象徴”として。


 なぜ今、このタイミングで?


 そんな疑問が浮かぶよりも先に、

 モニターの中のその姿が、すべての現実を物語っていた。

 

 ――俺に“物語の終わり”を与えるかもしれない存在。

 そんな存在が今――一歩、また一歩と、確実にこちらへと迫っていた。

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