第22話「戦いの終わり、そして“魔王”の覚悟」
――戦いは、終わった。
リルベアが、ゼトスの上に置いていた足を静かにどける。そして、少しだけ身を屈めて声をかけた。
「おぬし……ヴァルトの眷属だな? 死んでおらぬか?」
ぐったりと倒れていたゼトスが、ゆっくりと身体を起こす。その動きにはまだ重みが残っていたが、意識はしっかりしているようだ。
「……はっ、助けて頂きありがとうございます。お会い出来て光栄です、”リルベア様”」
そう言って、ゼトスは深々と頭を下げた。
リルベアが目を見開いて、ふふっと笑みをこぼす。
「ほう、わらわの名を知っておるか。やはり、主が優秀だと眷属もそれに倣うものじゃな。かかっ」
朗らかに笑うその様子に、戦場の張りつめた空気はすっと和らいでいく。
「では、主のもとへと戻るとしようか。……心配しておろう」
そう言ってリルベアが転移魔法陣を展開すると、ゼトスも頷きながらその中央へと歩み出た。
光が一閃し、二人の姿がコアルームへと転移する――。
そして、次の瞬間。
「ゼトスっ!」
思わず、声が出る。転移陣から姿を現したゼトスの姿を見て、心臓が跳ね上がった。
本当に、戻ってきた。
「よかった……本当に、よかった……」
感情が喉を詰まらせて、声が少し掠れていた。
俺の顔を見るや否や、ゼトスは申し訳なさそうに耳を伏せた。
「心配おかけして、申し訳ありません……」
ぺたんとその場に座り込み、頭を下げる姿は、まるで叱られた子犬そのものだった。
そこへ、レイラが少しだけ歩み寄って言葉をかける。
「主を思っての行動というのは、私もよく理解できます。ですが、主の指示を無視するのは眷属としては――あるまじき行為ですよ。今後は気をつけましょうね」
咎めるようでいて、どこか優しさのにじむ声だった。ゼトスは「クゥン……」と情けない声を漏らして、小さく頷いた。
そんなやりとりを見ていたリルベアが、ふっと笑う。
「おぬしらは、本当に仲が良いのう。王と眷属がここまで心を通わせておるとは、わらわも初めて見たわ」
その言葉に、少しだけ誇らしい気持ちになった。だけど――。
「……だが、ヴァルトよ」
リルベアが笑みを引っ込め、真剣な顔になる。
「おぬし、今後どうするつもりじゃ? わらわが宣言してしもうた手前、言いづらいが……これまで以上に戦いは激しさを増すぞ?」
その言葉は、重かった。
俺は無意識にレイラとゼトスの顔を見る。どちらも、心配そうな表情を浮かべていた。
確かに、現実問題として、もう“隠し通す”ことは難しい。ゼトスとの戦い、そしてリルベアの存在。それらが世に与えた衝撃は計り知れない。
双角の迷宮の攻略情報は、すでに拡散し始めている。“魔王”が存在しているという真実も、遠からず広まるだろう。
どうする――どう動く?
ぐるぐると考えが巡る中で、リルベアが肩を落とし、わずかに吐息を漏らした。
「そんな顔をするでない。王たる者、堂々とせい。おぬしが不安そうにしておったら、下の者がもっと不安になるわ」
……ハッとした。
俺は――俺が沈んでる場合じゃない。
顔を上げ、ふたりを見る。俺の視線に気づいたゼトスは、背筋を伸ばし、レイラはわずかに微笑んだ。
――大丈夫だ。俺が、なんとかする。
「……すまない! でも、大丈夫だ。対策は考える。社畜魂を、舐めるなよっ!」
いつもの調子を、強引にでも取り戻す。
レイラが柔らかく笑って言った。
「なら、期待させてもらいますね。魔王様?」
ゼトスはぴしっと姿勢を正し、耳をピンと立てた。
「この身は、どこまでも主に付き従います!」
元気よく尻尾をぶんぶん振るゼトスに、つい笑みがこぼれる。
“魔王”としての覚悟を、胸の奥にしっかりと刻みながら。
――次なる戦いが、すでに始まっていることを、誰よりも強く感じていた。




