第21話「帰還する“魔王”、世界に激震が走る」
完成した魔法陣が、まばゆい輝きを放つ。
その中心から、まるで女神のような姿が、静かに浮かび上がった。
「……いきますっ!」
ヒーラーの少女が叫んだ瞬間、その“女神”は光となってタンクの男の剣へと吸い込まれるように消えた。
剣が振動し、光を纏い、やがて形を変える。
黒鉄の刀身は金色へと染まり、刃先には神性を宿したような輝きがあった。
「きたきた……! 一気に決めるぜ!」
剣を肩に担ぎ、タンクの男が不敵に笑う。
精霊剣――魔のものに対して特攻を持つ、聖属性の付与型武装か。
……魔族との戦闘では、ほぼ確実に使われる“切り札”。
ゼトスはそれを見て、咄嗟に判断を下す。
今、あれを食らうのは――まずい。
「なら、それを食らう前に蹴散らしてくれるッ!!」
ゼトスが咆哮し、四肢を地面に叩きつけて加速する。
凍りつくような空気が舞い、獣の巨体が一直線にタンクの男へと迫る。
その口は大きく開かれ、狙いは首筋だ。嚙み砕くつもりだった。
対するタンクの男も、金色の大剣を構えて一歩も引かない。
「来いよ、狼野郎……!」
空気が張り詰めた、その刹那――
――空間が、重く沈んだ。
まるで大気そのものが潰されたかのような重圧が、階層全体を支配する。
「っ――!」
誰もが動きを止めた、その瞬間。
ズガッ!!
衝撃音と共に、ゼトスの頭部が、地面へと叩きつけられた。
何が起きたか理解する前に、タンクの剣も“片手で”止められていた。
金色の剣を握る白い手。
そして、風に揺れるようになびいたのは、白銀の髪。
「……なっ……?」
その手は、ゆっくりと力を込め――
タンクの“精霊剣”を、音もなく握り潰した。
「え、うそっ……」
「そんな馬鹿な……!」
「ありえねぇだろ、おい……!」
呆然とする冒険者たちの目に、確かに映っていたのは――
先ほど“魔王ヴァルト”が召喚した、少女の姿だった。
「な、なんで……お前が……生きてんだよッ!!」
盾を持っていた冒険者が叫ぶ。
その顔には、戦慄と恐怖しかない。
ヒーラーの少女も、タンクの男も、目を見開き、足が震えて動けない。
「口の利き方がなっていないな。下等生物」
少女――リルベアは、そう冷たく言い放つと、指をピンッと弾いた。
その直後――
蒼黒い閃光が、盾を構えた男の身体を、盾ごと真っ二つに引き裂いた。
「ひっ……!」
青ざめ、口もきけなくなる冒険者たち。
リルベアはそんな彼らを、興味もなさそうに見つめる。
しばしの沈黙ののち、リルベアは口を開いた。
「下等生物ども。……寛大なわらわから、選択肢をくれてやる」
指を軽く、くいっと上げる。
すると冒険者たちの背後に、転移魔法陣が浮かび上がる。
「今すぐここで死ぬか、逃げ帰って、二度とここに来ぬか。……選べ」
一瞬の静寂。
「急げっ! 逃げるぞ!!」
タンクの男が絶叫し、後ろにいたヒーラーの少女の手を引き、一目散に魔法陣へと走り出す。
それを見て不敵な笑みを浮かべるリルベア。
「おっと。……手が滑ってもうた」
またも、リルベアの指がピンッと弾かれた。
直後、再び蒼黒い閃光が二人を斬り裂き、魔法陣の手前でその身体が崩れ落ちた。
そして、空中を浮遊していた中継用のドローン。
そのレンズが、すべてを記録していた。
リルベアは、無言でそのドローンに指を向ける。
「下等生物ども、聞こえておるか。わらわは還ってきたぞ――“最深部”にて、待つ。遊びたければ、かかってくるとよい」
その言葉を終えると同時に、ドローンは目も眩む閃光に包まれ、粉々に砕け散った。
――圧倒的な力。
それは“魔王”という存在が、本来持つ“異質さ”そのものだった。




