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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第二章 動き出す利権争い

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第19話「奇襲の咆哮と、交差する絆」

 霧が巻いたように、ゼトスの巨体がその場から掻き消えた。

 それが単なる瞬間移動などではないことを、彼らは即座に理解する。


「背後ッ!」


 タンク役の冒険者が叫ぶよりも先に、空を裂く鋭い爪が振るわれた。


 だが、剣士はすでに反応していた。反射で剣を振り上げ、ゼトスの爪と打ち合うように軌道をずらす。火花が散り、斬撃は逸れ、すぐさま後方から怒声が響く。


「シールドバッシュ!」


 タンク役の冒険者が盾ごとゼトスに突進し、その巨体を真正面から弾き飛ばした。


 ズンッ、とゼトスがわずかによろめく。しかし、巨体ゆえに体勢を崩すことはなく、今度はその巨大な尻尾が唸りを上げてタンクを薙ぎ払う。


 衝撃で吹き飛ばされたタンクは床を滑り、壁に背中をぶつけて止まる。床には浅くヒビが入り、その衝撃の凄まじさが窺えた。


 だが、タンクの顔に怯えの色はない。痛みに歯を食いしばりながら、すぐに体勢を立て直そうと足を踏ん張る。


 ……次は回復か?


 ゼトスの赤い双眸が、後衛のヒーラーを鋭く捉える。だが、少女は回復魔法を放つ気配もなく、ひたすら魔力を編んで何かの詠唱を続けていた。


 回復じゃない……?


 ゼトスが一瞬判断を迷ったその隙に、吹き飛ばされたはずのタンクが、自力で立ち上がる。


 そして剣士と目を合わせると、ふたり同時に武器を投げ合った。


 剣士は盾を。タンクは剣を。


 空中で交差した装備が、見事にそれぞれの手へと収まる。


 何のためらいもなく、それぞれがその武器を構えた。違和感もぎこちなさもない。まるで、最初からそれが“持ち場”だったかのように。


「……何……?」


 ゼトスが低く唸る。喉の奥から漏れた声には、確かな動揺の色があった。


 次の瞬間、飛来する氷の棘――ゼトスの咆哮と共に放たれた氷魔法を、剣士が盾で防ぎ、タンクが雷を纏わせた剣で突っ込む。


 ズバッ!と雷光が走り、ゼトスの身体に一本、鮮血の軌跡が刻まれた。


 一体なにが起きている!?


 戦闘のど真ん中、命を賭けた攻防のさなかで、装備を交換し、それを即座に扱いこなす――そんな連携、聞いたことがない。


 この人間たちは……何者だ!


 ゼトスの思考がかき乱される。


 それだけではない。彼らの動きには、“迷い”がない。

 ただ生き延びるためではない、確かな意志を持った戦い方。


 その間にも、タンク――いや、今は“剣士役”が繰り出す剣戟は速度を増し、鋭さを帯びていく。

 一撃、一撃。たしかに肉を削る。


 攻撃に、怯えも焦りもない。ただ、練り上げられた“経験”がある。


 それは、ゼトスの迷いを突く“最適解”。ためらいの一瞬に入り込むような手数と圧力だった。


 雷光が閃くたび、ゼトスの体毛が焼け焦げ、血が地を打つ。

 ――巨体が翻弄され始めていた。

 

 ただの力任せではない。計算された動き。命をかけた信頼と呼吸がそこにある。


 主よ……。


 ゼトスは、心のどこかで主の声を求めていた。

 


 ◆

 


 その光景を、モニター越しに見ていたレイラは、じっと眉をひそめていた。


(マスター)……このままではゼトスが……」


「わかってる! 悪いけど、ちょっと黙っててくれ! 今そんなに余裕がないんだッ!」


 思わず声を荒げて叫ぶ。額には汗が滲み、眉間に深い皺が寄る。


 正面に不気味に淡く光る、複雑な紋様の魔法陣。

 そこへ、俺の魔力が流れ込んでいく。


 尋常ではない量。尋常ではない速さ。

 身体の内から引き抜かれる感覚。意識が遠のきそうになるたび、歯を食いしばって踏みとどまる。


「……ちょっとでも気を抜いたら、全部吹き飛ぶ……ッ」


 魔法陣は唸りを上げ、周囲の空間ごと震わせていた。


 足元に置かれた魔石が砕け、空気にヒビのような筋が走る。

 魔力圧が濃密になりすぎて、レイラでさえ顔をしかめる。


 主を守ろうと戦うゼトス。

 そんな部下を助けようと、俺は命を削るように魔法陣に魔力を注ぐ。


 その“想い”が、魔力を媒介に交差する。


 そして──応えるように、魔法陣が、眩いほどの光を放ち始めた――!

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