第18話「青焔の一閃、そして現る災厄の影」
タンク役の冒険者――筋骨隆々の大盾使いが、正面から飛びかかってきた第二形態のオーガキングと衝突した瞬間、空気が震えた。
ズドォン!! と鈍い音が階層に響く。
が、当然のように──
加速が乗ったあの体格からの突進、質量と速度の暴力に人間の身体が耐えられるわけがない。
案の定、タンクは吹き飛ばされ、石床を転がりながら柱に叩きつけられて停止した。
モニター越しに見てる俺ですら痛みを感じそうだった。
ていうか、生きてんのか……?
だが、それを待つ間もなく、前衛の剣士が駆ける。炎を纏ったロングソードが閃光のように振るわれ、オーガキングの肩口を斬り裂いた。
轟音とともに火花が散る。
即座に距離を取る剣士。
冒険者の動きに対応するように、オーガキングも身を翻し、再び膨大な魔力を拳に込めて構え直していた。
だが、ここで後衛が動いた。ヒーラーの少女が魔力を練り、即座にタンクへ回復魔法をぶち込む。
ぐん、と体が跳ねるようにタンクが立ち上がり、再び前衛へと戻った。
「全体強化バフ、入れます!」
少女の詠唱が終わると、全員の身体が淡く発光した。攻防両面を引き上げるバフスキル……チームの質が高い証拠だ。
……思ってたより優秀だ。立て直しが早すぎる。
一度でオーガキングの挙動を把握した彼らは、すぐさま連携を取り直し、再び攻勢に出る。
一手。
また一手。
攻撃が続くたび、オーガキングの巨体が翻弄されていく。
その攻撃の波の中、剣士の剣が再び燃え上がった。その勢いが強くなり、青白い炎へと変化する。
瞬間、剣士が低く構えた。足元に魔方陣が展開され、魔力が渦を巻く。空気が揺らぎ、炎が絞り込まれ剣先へと集まっていく。
――青焔・一閃。
次の瞬間、剣士の姿が霧のように消えたかと思えば──
ズバン!!!!
青い閃光が描いた斬撃は一直線にオーガキングの首を捉え、剣士の姿がその向こうに現れたのと同時に、巨大な肉塊が地面に落ちる。
オーガキング、沈黙。
階層は深い静寂に包まれた。
「……やった……か?」
「終わった?」
冒険者たちが息を整えながら周囲を確認し始める。緊張の糸が、緩みかけた――そのとき。
「ゼトス!!」
思わず、俺の声がモニター越しに漏れた。
モニターの片隅で、黒い影がゆらりと現れたのだ。
冒険者たちの死角──オーガキングの死体の影から、巨大な狼の姿が浮かび上がる。灰色の毛皮。赤く光る双眸。
凍狼王ゼトス。レイラと対を成すイレギュラーボスの一角にして、討伐記録ゼロの災厄級魔獣。
「おいおい、嘘だろ。イレギュラーエネミーって、ボス部屋にまで入ってくんのかよ……」
モニター越しに聞こえるのは、タンクの呆然とした声。
「流石にきつくないですか……。魔力量も、そんな余裕ないですよ……」
ヒーラーの顔も青ざめている。でも、パーティーの中で一人だけ、まだ冷静な声があった。
「大丈夫だ。奴の戦いは、想定していた。準備はできている」
剣士が、再び剣を構えた。
ああ、そっか。こいつら──
……マジで、S級なんだな。
仲間同士で視線を交わし、ひとつ、またひとつ、呼吸を合わせる彼ら。
その眼差しに、怯えも、迷いも、ない。
今、S級冒険者たちとゼトスとの戦いの幕が、静かに切って落とされようとしていた。
「だったら――俺も、黙って見てるわけにはいかねぇよな」
部下が命張って頑張っているってのに、責任者が何もしないなんて論外だろっ!
――ダンジョンの最深層で、魔王ヴァルト・ノクスの魔力が、静かに、再び、脈動を始めていた。




