第14話「訓練場にて――魔王、初めての戦い」
――翌日。
新たに強力な冒険者が現れることを想定し、俺たちは早速動き出した。
「主、調べたところ、ランクアップの条件を満たしているのは、ゴブリンが三体、スケルトンが一体、スライムが二体です」
レイラが報告してくる。
条件を満たす魔物が、思ったよりも少ないのは意外だった。だが、質の高い個体が数体でも進化すれば、ダンジョン全体の戦力は格段に上がる。なにより、この“ランクアップ”という試み自体が、俺にとっても大きな転機になる予感があった。
「よし、それじゃあ準備を始めようか」
俺はすぐさまコアルームの一角を拡張し、新たに“訓練場”を作り出す。
広々とした円形の広場。床には魔法陣と連動した制御ラインが走り、壁際には観察用のクリスタルスクリーンがいくつも設置されていた。中央には魔素の循環を制御する柱。まるでゲームのボス部屋のような、荘厳な雰囲気すら漂っていた。
「おぉ……」と、ゼトスが感嘆の声を漏らす。
「さすがは主。短時間でこの規模の施設を作るとは……」
「昔遊んだゲームのステージを真似ただけなんだけどな」
さっそくレイラの指示で、ゼトスが条件を満たした魔物たちを訓練場へ呼び寄せる。個体数こそ少ないものの、どれも一定以上の実戦経験を積んできた個体ばかりだ。緊張感を滲ませながら整列した魔物たちに、俺は静かに告げる。
「それじゃあ――始めようか。“ランクアップの儀”を」
俺の言葉と同時に、訓練場の中央に配置された魔法陣が淡く光を放つ。その輝きが、魔物たちの足元に伝播していき、やがて彼らの身体を包むように黒い繭が生まれた。
不気味なほどの静寂が場を支配する。
繭に包まれた彼らの姿は、もはや確認できない。だが、そこには確かに“変化”の兆しがあった。
数分――いや、もっとかもしれない。
最初に崩れた繭は、音もなく砂のように崩れ、中には何も残されていなかった。続いて二体、三体と崩れ――
「……失敗、ですね」
レイラの言葉が、静かに空気を割る。
思ったより成功率が悪い。ランクアップの為とはいえ強くなった個体を失うのは痛いな。
生き残ったのは、二体だけだった。
一つ目の繭が脈動を強め、光を発したかと思うと――パァン!と音を立てて弾けた。
現れたのは、筋肉質で黒鎧を纏った“ゴブリンロード”。身長は以前の倍近く、肩には棘のような瘤があり、目は深緑に光っていた。
「……すげぇな。オーラが段違いだ……」
そしてもう一体。
ぬるり、と音を立てて姿を現したのは、半透明の体を蠢かせる“ビッグスライム”だった。中心に輝く核は紫色に煌めき、まるで魔石のような重厚感を放っている。
どちらも、見た目だけで明らかに格が違う。
そんな二体を見て、ふと心に浮かんだアイディアに、俺はニヤリと口元を緩めた。
「なぁ、お前ら。ちょっと、俺と模擬戦してみないか?」
「「……え?」」
レイラとゼトスが、揃って固まった。
「主!? それはさすがに無謀かと! 魔王といえど、戦闘経験のない状態で進化個体と模擬戦は――!」
「ご冗談を……!」と、ゼトスも焦ったように言う。
だが俺は、浮遊しながら静かに彼らを見渡し、言葉を返す。
「なんかさ、身体が教えてくれてるんだよ。負ける気がしないって」
その声に、レイラとゼトスは不安そうに顔を見合わせる。
だが俺は、ふわりと訓練場の中心に降り立つと、魔素を軽く練って構えた。
「さて……俺がどれくらいやれるのか。確かめさせてもらうぞ」
対峙するビッグスライムとゴブリンロードが、一歩前に進み出る。
魔素が、訓練場に満ちていく。
――魔王と進化魔物の、初の模擬戦が幕を開けようとしていた。




