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働きすぎた社畜、死んだらダンジョン核に転生して魔王に!? 〜自由に生きてたら、気づけば勇者と結婚してました〜  作者: 烏羽 楓
第一章 しゃべる石ころ、魔王になる

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第10話「再会と、俺が選んだ道」

 監視モードに切り替えたモニターには、石造りの通路を慎重に歩く一人の老人の姿が映っていた。


 その姿を見た瞬間、俺は凍りつく。


「……は?」


 映っていたのは、前世――社畜として死ぬ直前に、俺に声をかけてきた、あのホームレスのおじいさんだった。


 まさかこんな形で再会するとは。


「ゼトス!」


『はい、主!』


「そのおじいさんの周囲から魔物を遠ざけろ! 絶対に手を出させるな!」


『御意!』


 ゼトスは即座に行動に移った。


 そのやり取りを見ていたレイラが、不思議そうに俺へ問いかけてくる。


(マスター)、どうかされたのですか? あの人間がなにか?」


「別になにかってわけでもないし、そんな知り合って長いわけでもないんだが……あのおじいさんには、変わろうと思う“きっかけ”をもらったんだ」


「なるほど、今の(マスター)があるのはその人のおかげというわけですね」


「ある意味な。ちょっと、行ってくる」


 俺は浮遊したまま、老人の元へと向かった。



 ◆


 

 久しぶりの対面。


 老人は俺の姿を見た途端、驚愕の表情を浮かべ、後ずさる。


「おじいさん、久しぶりだな」


 俺は穏やかに声をかけると、言葉を続けた。


「残念なことに、老い先が短かったのは、俺の方だったよ」


 その言葉に、老人は怪訝な顔をしつつも、徐々にその目を見開き――


「まさか……あの時の……!」


 俺は静かに頷いた。


「魔物払いはしてある。出口に向かいながら、少し話しませんか?」


 並んで歩きながら、俺はあの後に起こったこと――死んで魔王として転生したこと、このダンジョンを任されたことなどを簡単に説明した。


 すると、老人も語り出した。


「わしはあの地震の時、偶然安全な場所におってな……命だけは助かった。しかし、街は壊滅的で、今じゃあちこちにダンジョンが生まれて混乱が続いておる。ここも、そんな中の一つじゃ。生活の糧を得られればと思って、泣く泣く潜ったんじゃよ」


「そっか……外はそんなことに……」


「お前さんが気にすることではないさ。お前さんは、もう“そっち”の存在になってしもうたんじゃしな」


 少し寂しげな声だったが、続く言葉は力強かった。


「だが、立場は違えど……お前さんは“新たな道”を見つけたのだろう?」


「……そう、ですね。以前に比べて活き活きとしている、とは思います」


「ならそれでいい。人は辛い時に耐えることも必要だが、“耐えるべき”時とそうじゃない時がある。以前のお前さんは、そうじゃなかった。変わる選択を取ったお前さんは、正解じゃよ」


 胸の奥がキュッと締めつけられるような感覚と同時に、どこか救われた気がした。


 けれど、ふと心に浮かんだ疑念――


 俺は、今“人を殺す側”にいる。これでいいのか……?


 そんな俺の心を見透かすように、老人は言う。


「だいたい、お前さんが何を考えているかは分かる。けれど、そんなことは気にせんでええ。人間も虫や家畜を殺すときに、いちいち悩んだりせんじゃろ?」


 静かに、けれど真っ直ぐに続けた。


「生きとし生けるすべてのものには、それぞれの“理由”と“生き方”がある。お前さんはお前さんらしく、生きればよい。あわよくば……わしのことも、このまま見逃してくれるとありがたいがな」


 そう言って、老人は茶目っ気を含んだ笑顔を浮かべた。


「……今回だけですよ?」


 俺も笑った。


 やがて、二人はダンジョンの最奥、階段の手前まで辿り着く。


 俺は最後に、拡張ポイントを少し使って中級の宝箱を生成する。


「ほんの少しの時間だったけど……俺は、色々救われた。これは、その礼だ。持って行ってくれ」


「かっかっか! ほんとにお前さんはいい青年だな。人が()すぎるぞ?」


「じゃあ、宝箱はいらないですか?」


「いや、もらっていくぞ!」


 老人が宝箱を両腕で抱きしめる姿に、俺はつい吹き出した。


「それでは、おじいさん。お元気で」


「ああ。お前さんもな」


 そう言い残して、老人はダンジョンの外へと転移していった。


 俺はしばらく、その消えた光の残滓を眺めていた――。


 いまは迷ってもいい。けど、止まってはいけない。

 俺が選んだこの道を、俺なりに歩いていこう。

 

 おじいさんとの出会いは、そう思えるようになった出会いとして、俺の記憶に強く残った。

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