第8話 パジャマパーティ
私達はお風呂を出てパジャマに着替える。用意してくれたパジャマは同じデザインの色違いだった。双子コーデみたいで嬉しい。
「双子コーデですね!」
「貴方と双子なんて絶対嫌よ。」
「今日だけ双子!」
「まぁ…今日だけなら。」
美奈子さんってなんでこんなに可愛いんだろう。美奈子さんも女友達と遊んだことないだろうから案外今楽しんでいるのかもしれない。
私達は二人で美奈子さんの部屋に戻ろうとすると、目の前に拓人さんが立ち塞がった。
「随分美奈子と仲良くなったんだね。玲。」
「はい!もう私達双子ですよ!ね!美奈子さん!」
「今日だけだから!」
「ムキになっちゃってもう可愛い〜。」
「玲の方が可愛いよ。」
拓人さんがそう言うと空気が重くなる。今そんな空気じゃなかったじゃない…。
「…自分の奥さん大事にしないような男はやだ。」
「仕方ないだろう?俺は玲が好きなんだから。」
「仕方ないわけないじゃない。じゃあ結婚なんで美奈子さんと結婚したの?」
「ただの政略結婚だよ。家同士の結婚。愛なんてないから。」
「それでも結婚は結婚でしょう?貴方から美奈子さんと一緒に幸せを家庭を築く努力をしたことあるの?」
「金さえあれば美奈子は幸せなんだ。そんな必要はない。」
「フフッ。」
「なんで笑うんだ?」
「拓人さんが馬鹿なこと言ってるからでしょう?拓人さん美奈子さんのこと何も知らないんだもの。金の為に結婚したと思ってるの?美奈子さん自分で稼げるのにそんな必要あるわけないじゃない。」
「どうでもいい。そんなことは。」
「ねぇ〜美奈子さん何でこんな最低な男と結婚したの?」
「政略結婚だから。私に拒否権なんてないわよ。」
「いやいやいや。逃げましょうよ。結婚なんて一生モノなのに。」
「貴方こそ拓人のどこが好きなの?理解に苦しむわ。」
「え…努力家な所かな…。」
「アハハハハハ!自分が努力出来ないダメ人間だから?努力して成功してる人がタイプなんだ。憧れちゃうんだねぇ〜。でもこのタイプの男は仕事は出来ても人に優しくとか出来ないタイプだから。」
「俺は玲のこと大事にしてるし、優しくしてるよ。玲に俺のこと悪く言うのやめてくれる?…玲は俺の努力家な所が好きなんだ…知らなかったよ。嬉しい。この前は恥ずかしい所見せちゃったから嫌われてないか不安だったけど…。それでも俺を愛してくれて嬉しいよ。」
「愛してるなんて一言も言ってないですよ!」
「俺の努力家な所が好きなんだろ?」
「昔話です!」
「ハハッ。照れてるの?可愛いね。」
「私拓人さんより美奈子さんの方が好きだから。」
私がそう言うと空気が凍った。あれ?なんかまずいこと言った…?
「行くわよ。」
美奈子さんが私の手を掴み部屋へ入ろうと歩く。
「待てよ。玲に何をした?美奈子の方が好きってどういうこと?」
拓人さんが私の反対側の手を掴み部屋に入ることを止めた。
「別に何もないわよ。友達になっただけ。」
「と、友達になっただけ!?!?」
唐突な激甘なデレに頭が追いつかない。
「友達?美奈子が友達なんてできるわけないだろ。どうせ玲を騙してからかってるかだけだろうが。玲は俺の部屋で寝るんだ。玲の手を離せ。」
「ハッ。自己中心的で周りが見えてなくてよく会社を経営できるわね?はぁー恐ろしい。」
「俺達は愛しあってるんだ。」
「昔の話です!大体私の写真がたくさん貼られてる部屋で寝れるわけないじゃん。拓人さんの部屋怖いから辞めてよね。」
「プッ。アハハハハハ!!そりゃそうよ!あんな恐ろしい部屋、玲さん入りたくないに決まってるのにねぇ!?」
「……。」
「美奈子さん玲って呼んで下さい!私達友達ですから!」
「玲。」
「あの…ミナって呼んでもいいですか?」
「好きにしなさい。」
「えへへ。ミナ!ミナの部屋行こー!」
「じゃあね。拓人。」
「拓人さんまた明日〜。」
そう言って私達はミナの部屋に入った。
「見た?あの拓人の顔。私に玲を取られて苦虫を噛み潰したような顔して…はぁ〜最高!!いい気味だわ!散々苦労掛けられたんだから少しは痛い目見ればいいのよ!」
「そうだ!そうだ!!妻を大切にしない男なんて最低だ!!」
「まぁ玲が原因なんだけどね。」
「突然裏切り!!」
「玲のような悪女に会っていなければ拓人も人生を狂うことはなかったのにね。無自覚天然系の悪女はタチが悪い…。」
「人との接し方がわからないんですよ!だからいつもは大人しく引き篭もってるじゃないですか…。私だって人生狂わせるつもりなんかないのに…。」
「今まで何人の男を狂わせたのよ。」
「痴漢とかストーカーで人生終わった人達はいますけど、私が意図的に人生狂わせたことなんて一度もないですから。」
「可愛くて大変ね。男は虜にしちゃって、女には嫉妬で狂わせて人間関係が嫌になって引き篭もりですか。」
「可愛くて得したことなんてないですよ。」
「うわ。全国の女を敵に回したわよ。」
「うるさいなぁ。本当のことですから。」
「それは玲がバカなだけよ。ドラえもんの便利な道具を上手に使えないのび太君と同じ。」
「的確な例えで胸が痛いです。だから私はポストカードなんて売ってしまったんですよ!」
「普通に売っていても年間大賞を取れる小説だったのにね。」
「自信作だったんですぅ〜。だからたくさんの人に読んで欲しくて…。」
「きみはじつにバカだな。」
「助けてドラえもん〜!!」
「バカなこと言ってないでもう寝るわよ。」
「え!?今からお話ししてパジャマパーティーするんじゃないんですか!?」
「私は明日も仕事だからそんな時間ないわよ。」
「一日ぐらいハメ外してはしゃぎましょうよ!」
「私は毎日ハメ外して遊んでるわよ。引き篭もりの玲さんにはご縁のないことだろうけど。」
「私だって部屋の中でクソきもいハメの外し方してますけど?」
「…何してるの?」
「ときめきダイアリーのゲームをしてヒナくんを愛でてぐへへへって奇声を発してますね。」
「ハメ外しすぎ!」
「世の中のヲタクなんて皆こんな感じですよ。」
「恐ろしい世界ね…。」
「私にとっては美奈子さんの世界の方が恐ろしいですけど…。」
「は?なんで?陰キャなんて皆私達みたいなキラキラした人種に憧れてるんじゃないの?」
「凄い偏見だぁ…。そりゃあ憧れてる人は多いでしょうけど、私は部屋で引き篭もってぐへへって言ってる方が楽しいです。」
「何が楽しいの?それ?」
「推しの笑顔が私の心の潤い。」
「生きてないじゃんそいつ。そんなやつにガチ恋するなんて意味がわからないんですけど。」
「意味なんてない。そこに推しがあるだけだ。」
「悟りみたいに言うなよ。気持ち悪いことしか言ってないからね。はいじゃあおやすみ〜。」
「待ってよ!もうちょっとお話ししてくれないとミナの小説書けないよ!」
「今日じゃなくていいじゃない。」
「今気分乗ってるから一時間でもいいから話してよ!」
「はぁ。一時間だけよ…。」