第64話 キューピット
誰とも誠実な関係性を築けなかった私が
今更恋人と仲良く幸せになれるなんて思っていなかったけれど
私の旦那もずっと憧れていた好きな人も
全て玲に取られるなんて
あまりにも惨めすぎて
嫉妬や恨みの感情さえなくなった
拓人も純也さんも仕事一筋で
恋愛なんて全く興味がなかったのに
あっという間に2人とも玲は虜にしてしまった
私とは違う
誰かの特別になれる女の子
大人になっても一途で純真な心を持っているから
玲は魅力的なんだ
玲の外見は美術の作品として完成されているように美しいけれど
玲の本当の魅力は中身だ
玲に女として勝てるわけなんてない
私は女として負けた
ただそれだけ
玲の写真集は飛ぶように売れて
初版の10000部は3日で売り切れた
その後、増販されて新たに50000部が発行されたが
それも1週間ほどで売り切れた
さらに増販が決定し、また50000部が発行される予定だ
玲は全国五大都市へ写真集の握手会を行って今日ようやく帰ってくる予定だ
握手会の抽選も激戦でファンは大量写真集を購入して抽選に応募しているようだ
拓人は1000冊ぐらい購入していて
全国の握手会の抽選に応募して大阪以外は当たったらしく仕事の休みを取って握手会の為に会いに行っていた
拓人は玲に溺愛しているから何も驚かないけれど
驚くべきは純也さんも握手会に参加していたという事実だ
“玲の東京の握手会に行ったみたいですね”と純也さんに言うと
“たまたま当たっただけだよ”と言われた
本当に1冊購入してたまたま当たったのかもしれないが
おそらく何冊も購入して抽選をして当てている
握手会で撮った玲とのツーショットのチェキ写真をスマホの待ち受けにしているのはさすがに引いた
チェキも汚さないようにしっかりケースに入れてお守りのように大事に持ち歩いている
その後も月に1度の約束の日はプライベートジェットに乗って会いに行っていた
あんなに仕事人間だったのに…拓人も純也さんも別人のように変わってしまい玲の虜になっている
戦う気力もない
降参だ
「ただいまー!やっぱり我が家が1番だよ〜!もう2度と写真集の仕事なんてしなーい!!」
と玲が家に帰ってきた
「おかえり。玲。」
「ミナ〜♡可愛い♡しゅき♡」
玲は私に抱きついて言う
「私は嫌い。」
「ひどっ!!」
「人の男奪っておいて好かれてると思ってるの?」
「誰のことですか?」
「どっちもかな。」
「どっちもかー!!」
「笑い事じゃないけど。」
「私はどちらもミナにお渡ししたと思います!」
「…そうね。私のことなんて全然眼中にないみたいだけど。」
「見る目ないあんな奴らなんて捨ててしまえばいいんですよぉ!」
「私は純也さんがずっと好きだったのよ?せっかく恋人にしてくれたのに捨てれるわけない。」
「恋人になってみてどうでしたか?楽しいですか?」
「え?…前よりは会う回数も増やしてくれたし、食事も何回も連れて行ってくれて…嬉しいよ。」
「ふーん…食事しかしてないの?何で?」
「え…そんな…私のことなんて娘としか見てくれていないし…一緒にいられるだけで幸せだから…」
「彼女なのに?」
「何が言いたいの?」
「彼女ならもっと恋人らしいことすればいいじゃない。好きなんでしょう?」
「好きだけど!でも…」
「恋愛対象として見てないのはミナも一緒じゃないの?好きなら多少強引にでもキスぐらいするでしょ。」
「それは…」
「ミナだって純也さんを恋人じゃなくて父親として見てるんじゃないの?無償の愛を与えてくれたのが純也さんだけだったから好きになっただけ。そうでしょう?」
「違う。キスして拒絶されるのがこわいだけ。」
「じゃあミナの恋愛なんてそんなもんなのよ。キスもせずに諦めて捨てられる程度の気持ちだったのね。」
パァンと私は玲の頬を平手打ちする
「何年片思いしていたの思っているの?関係性が変わることを恐れるなんて当たり前でしょう?私の気持ちをバカにしないで。」
「バカにしてないわよ。ただ恋なんかじゃないって言ってるだけよ。大好きなパパが取られて怒ってるだけじゃないの?」
「…。」
「ねぇ。付き合ってみてキスしたいとか思った?このままでいいって思ってたんじゃないの?たくさん構って貰えることが嬉しかっただけでしょう?そんなの恋じゃないわよ。」
「…玲のチェキを待ち受けにしていたのよ?冷めるのは当たり前でしょう?」
「アハハ!!それはキモいねぇ!!」
「もう呆れたわよ…」
「ほら。やっぱり恋なんかじゃないのよ。純也さんは父親代わりとして側に置けばいいじゃない。」
「そうね…玲を待ち受けにするような男とは付き合えないわ。」
「そうそう!そんなキモい男なんて捨てちゃって!!新しい恋をするのよ!!」
「えぇ…もういいわよ。私なんて誰からも愛されるわけないんだから…」
「そんなわけない!ミナは世界一魅力的な女の子だよ!!」
「誰からも愛されたことなんてないのに?本命にされたことなんて一度もないわよ。」
「きっといるわよ!ミナを1番に愛してくれて大事にしてくれる素敵な人が!!」
「どこにいるのよ。」
「私が探す!」
「はぁ?」
「私が絶対ミナにぴったりの恋人を探してみせる!!」




