第53話 観覧車2周目
観覧車は1番下まで降りたが、もう一周したいと係員に伝えると快く了承してくれた
過疎している遊園地なので他に観覧車に乗る客もいない
私達はもう1周観覧車に乗って話をする
このまま帰るのは惜しいと思ったからだ
迫田さんが拓人も美奈子も好きになったのか
私にも理解出来そうな気がした
「私は幼い頃とても貧しい家庭だった。食事は白米しか出てこないし、お風呂の水は何日も同じ水を使っていたし、トイレットペーパーでさえ使用するのは5センチまでと決められていた。貧しい生活が嫌だった。絶対に金持ちになってやると幼い頃から勉強ばかりしていた。貧しくても小、中学生は無償で勉学が学べる。私は金持ちになる為に勉学に励んだ。全国模試で一位にもなり、天才だともてはやされたが、私の家には高校に行く財力がなく中学卒業後は働いた。中卒で雇って貰える企業なんて低賃金ばかりだ。金持ちになるには会社を起業するしかなかった。手探りだが業績は上がり、大企業にまで成長した。私は経営の才能があったようだ。」
「執念で掴んだ夢ですね。」
「でも…私には家庭を守ることは出来なかった。紹介された女性と言われるがままに結婚して子供を作った。私は仕事ばかりをして家庭は全て妻に任せていた。愛想をつかした妻は半年ですぐに出て行ってしまった。拓人は私が引き取ることにした。裕福な暮らしが保証されている私の方が適任だと思ったからだ。子供に貧しい暮らしをさせたくなかったんだ。裕福な暮らしをさせてあげれば幸せにすることが出来ると信じて疑わなかった。私は本当に愚かだ。」
「そういう愛情もあると思いますよ。子育てに正解はないっていいますし。」
「それでも…私は家庭を疎かにしすぎた。私は拓人の誕生日さえ覚えていなかった。」
「それはひどいですね。」
「酷い親で拓人をたくさん傷つけた。私のような人間が子供を育てるなんて出来るわけなかったんだ。それでも自分に出来ることを伝えたくて…仕事のことは懇切丁寧に教えた。金さえあれば人生何とかなる。金に困らない生き方をして欲しかった。」
「親子の関わりは少なかったと思いますが…それでも拓人さんの為に尽力を尽くしたのですよね?じゃあそれは拓人さんに伝わっていると思いますよ。拓人さんは純也さんを恨んだりしていないじゃないですか。最悪な暮らしなら恨まれているはずです。立派な親とは言えなかったかもしれませんが、ちゃんと愛情を込めて育てたと思いますよ。」
「そう。私なりに愛情を注いで育てた。でも…やはり私は欠陥人間で、仕事より家族を大事に出来なかった。私のような人間が家庭を持ったことで拓人には寂しい思いを何度もさせてしまった。」
「別に今からでも遅くないじゃないですか。一緒に遊びに行けばいいんですよ。」
「私と拓人が遊びに?今更そんなこと…」
「後悔しているのでしょう?それなら今からでも拓人との時間を増やして過ごせばいいじゃないですか。」
「拓人はもう30超えた大人だぞ?私と出掛けるなんてそんなこと喜ぶわけがない。」
「そうでしょうか。意外と喜ぶかもしれませんよ。何でもやってみないとわかりません。断られることが怖いですか?」
「そう…だな…」
「散々自分の都合で拓人さんの誕生日も祝うことなく断り続けたくせに、いざ自分の身になるとそんなこと言うのは勝手すぎますよ。断られることが恐ろしい恐怖は拓人が何回も経験したことですから。今度は純也さんが断られて傷つくべきですよ。」
「そうだな…それが私の贖罪になるならそれでいい。」
「気が向いたら私も遊びに誘ってください。」
「フフッ。ありがとう。迫田さん。」
「同じ欠陥人間として傷を舐め合うことぐらいはしてあげれますから!!」
「迫田さんにくだらない時間も価値があると教えてもらってよかったよ。価値観がひっくり返ったかのような衝撃だった。拓人や美奈子が迫田さんに夢中になる理由が少しわかったよ。迫田さんといると今まで気づかなかったことに気づくことが出来て世界が広がる。」
「えへへ。小説家冥利に尽きますねぇ。私も本を読むと新しい価値観が生まれたり、違った考え方になったりするので…そういう経験を感じてくれたのなら私も少しは小説家として成長しているのかな。嬉しいです。」
「これからも月1回ほどは定期的に迫田さんと会って色んな場所へと遊びに行きたいですね。」
「え…嫌ですけど…」
「え?」
「え?」
「いや…気が向いたらまたいつでも誘ってくださいって迫田さん言ってたじゃないですか。」
「気が向きすぎですよ。純也さんみたいな仕事人間が私とそんなにたくさん遊ぼうとするなんて思わないですよ。死ぬまでに1回ぐらい誘われたらいいなぐらいの感覚でしたよ。」
「いやいやいや!いいじゃないか!月の半分程は暇していると報告を受けているぞ!月に1回ぐらい出掛ける時間あるだろう!?」
「えー…嫌ですよ。出掛けることは苦手なんです。そんなに遊ぶことに目覚めたなら他の人を誘えばいいじゃないですか。拓人さんとか美奈子とか。今はパパ活とかもありますし…」
「私は迫田さんと月1回出掛けたいと言っているんだ!!」
「いやいやいや…月1回は無理ですよ。多すぎますって。」
「迫田さんだって仕事ばかりの生活しているともっと人と関わればよかったと死ぬ間際に後悔するかもしれませんよ?」
「私は後悔しないので大丈夫です。他の人と遊んでみたらいいじゃないですか。同じ人ばかりだと飽きますよ?」
「暇なくせに月に1度出掛けることだけのことを何故渋るんだ!!」
「嫌に決まってるじゃないですか。ただでさえ出掛けることは苦手なのに…何故よく知りもしないお爺ちゃんと月に1度出掛けなくちゃいけないんですか?今日だってつまらなかったし。」
「つまらなくても思い出にはなっただろう!?」
「つまらない思い出を量産してどうするんですか!!今日という1日はレアだからこそ価値があるんですよ?月に1回何度もつまらない思い出を作ってどうするんですか。私じゃなくて親しい人と遊ぶべきです。私は引き篭もって家にいる時間が好きななんです。後悔なんて1ミリもしてませんから。どうぞ別の方と楽しんで来てください!!」
観覧車は1番下まで辿り着き、係員が降りるように誘導する
「待て!!!もう1周する!!」
「えぇ?もう話すことなんてないですよ…」
「私にはある!!」
「もう帰りましょうよ…観覧車3周もしたくないですよ…」
「このまま帰れるか!!」
降りようとする迫田さんを制止して観覧車は再び上がっていく
「もう早く帰りたい…」
「まだ話し合いは終わっていないだろう!?」
今までずっと友好的だったのに…
突然崖から突き落とされたかのように冷たくあしらわれた
拓人が狂った理由もわかってきた
こうやって感情を振り回させてきたのだろう
迫田さん本人に自覚もなく悪気もなさそうなのがまたタチが悪そうだ




