第52話 観覧車
迫田さんに拉致されて連れてこられたすずらん遊園地はこの観覧車が最後のマシンのようで観覧車を降りたらようやく解放されるみたいだ
「初めての遊園地でしたけど…子供騙しの乗り物ばかりで大人が楽しむ場所ではありませんね。あと高い場所から落ちることが好きなバカが好きなんだなって。この観覧車もこわくて外の景色なんて見れないし、つまらないです。」
「遊園地は家族とか友人とか恋人と楽しむものだからな…こんなよく知らないつまらないお爺さんと一緒に来るものではない。」
「うーん…純也さんは家族とか友人と来たら遊園地って楽しめたと思いますか?」
「…さぁね。想像がつかないからわからないよ。」
「プライベートで遊んだことありますか?」
「食事なら行くよ。」
「映画館とか水族館とか。」
「生憎私は映画も見ることは趣味ではないし、生き物にも興味がないのでそういった場所には行ったことはないな。」
「お休みの日って何をされているのですか?」
「何もすることがないからね。毎日働いているよ。」
「労働基準法違反ですよ。」
「私が社長だからいいんだよ。」
「どうでしたか?今日1日一緒に過ごして私のことよくわかりましたか?」
「私がわかったのは迫田さんは感情的に衝動的に行動する人だということだけだよ。」
「自分の感性を1番信じて生きてますから。」
「子供がそのまま大人になったような人だと感じたよ。」
「えぇ?そうですか?照れますねぇ。」
「別に褒めていないんだけれど…」
「私も純也さんのことよくわかりましたよ。」
「ほう。私は迫田さんから見てどのような人間に見えたかな?」
「私ととっても似ているなって。」
「心外だ!!私と迫田さんのどこが似ていると言うんだ!!何も被ってない!!どこも似ていない!!」
「そんな必死に否定しなくてもいいじゃないですか…」
「常識のカケラも持ち合わせていない迫田さんと同類にされたら誰でも怒りますよ!!」
「心外だなぁ。常識ぐらい持ち合わせてます。」
「勝手に人を拉致する人間が常識を語るな!!」
「いい経験になりましたね。」
「自分の行動の全てを肯定するその態度も気に入らない!!」
「後悔しない生き方をしているので。」
「少しぐらい後悔しろ!!今日のことはしっかり反省しろ!!」
「今日の私の行動力は褒めて頂きたいぐらいですよ。」
「ただの誘拐犯のくせに!!!」
「愉快な誘拐でしたよね?」
「無理矢理連れて来られたあげくに遊園地はつまらないと言われる1日のどこが愉快なんだ!!」
「1周回って愉快でしょう?」
「何周回っても不愉快だよ!!」
「手厳しいなぁ。」
「当たり前の反応だ!!」
「話を戻しますよ。私と純也さんが似てるって話です。」
「1ミリも被っていない!!」
「それが大被りしている所があるんですよ。」
「絶対ない!!」
「仕事にしか興味がない所です。」
「…。」
「ほら。一緒でしょう?」
「私は仕事しかやることがないだけだ。」
「私もですよ。私は小説が全て。他のことは割とどうでもいいんです。純也さんもでしょう?仕事以外は興味が持てなくて仕事ばかりしてしまう。仕事のやりがいが楽しくて他のことは割とどうでもいいと思っているのでしょう?」
「…そうだな。だから今日1日は本当にくだらない1日を過ごしてしまった。こんなに時間を無駄にしたことは初めてだ。」
「あはははは!!私もです。本当にくだらない1日でした。」
「大多数の人間はこんなくだらないことが楽しいと感じて休日に遊園地に行くのだろうか。私には理解しがたい。」
「私もです。でも…私達が異質で大多数の人間が正常なんですよ。仕事ばっかりやってて、それしか頭になくて…人を愛することが出来ない私達は異常者なんですよ。」
「別に愛していないわけでは…」
「純也さんは仕事よりも優先することってありますか?ないですよね。恋人や家族、友人、ハマっている趣味とか…仕事より大事ですか?違いますよね。私達は大事な人を1番に愛することが出来なくていつも仕事を優先してしまう残念な人種なんです。」
「フフッ。残念な人種か。確かにそうかもしれないな。」
「ミナと拓人さんも純也さんと同じように仕事が1番大事な同類だと思っていたのでしょう?あの2人は私達とは違って立派な心を持っているんです。愛する人を1番大事に出来る真っ当な清く美しい心を持っているんですよ。」
「…2人とも私が育てたようなものだからな。私と同じように利益重視の仕事しかしない人間だと思っていたのに…」
「プライベートを疎かにするから見落とすんですよ。」
「私は仕事しか出来ない愚かな人間だからな。」
「私もです。拓人さんもミナも1番に大切にすることが出来ません。もしも私が小説を書いているときに寂しいから側にいてくれなんて言われても…100%無視すると思います。私は愚かな人間ですから。」
「…私も仕事中に言われたら100%無視する。」
「大事な人の寂しさに寄り添えないなんて本当に愚かな人間です。」
「…本当にな。」
「だから私は誰とも特別な関係になるつもりはありません。私は小説よりも優先することはできませんから。マナと拓人さんは大好きですけど…ずっと一緒にはいられません。大好きだからこそ、一緒にはいられない。2人を傷つけてしまうから。」
「2人は迫田さんが大好きで一緒にずっと過ごしたいみたいだけれど。」
「いつかはボロがでますよ。私が小説より優先することなんてありえない。そうなったら時に私は必ず2人を傷つけてしまいます。」
「2人と仲良くするつもりはないってことか?」
「ミナとは友達でいたいですね。たまにしか会えなくなるとは思いますが。」
「近すぎる距離感で、仲良くするつもりはないということか。」
「そういうことです。」
「あの2人を夢中にさせるほど虜にしておいて…勝手な言い分だな。」
「仕方ないじゃないですか。私は小説が1番大事なんですから。私なんかより1番大事にしてくれる人と一緒に暮らした方が幸せになれると思いませんか?」
「人の幸せなんて他人が決めることじゃない。」
「まぁたしかにそうですけど…2人とも大好きで幸せになって欲しいからこそそう思ってしまいます。純也さんだってそう思いませんか?」
「そうは言っても拓人はとくに迫田さんに依存している。近い距離感で仲良くしてくれないとまた狂っていくと思う。」
「諦めて欲しいんですけどね。」
「諦められるならとっくにそうしている。」
「私は幸せに出来ませんよ?」
「拓人は幸せなんて求めていない。側にいられたらそれでいいんだ。」
「自分の息子が不幸になるのは嫌じゃないですか?」
「私は仕事以外は割とどうでもいいからな。」
「自分の息子の幸せぐらい願ってくださいよ。」
「拓人が幸せよりも迫田さんと一緒にいることを選んでいるんだ。親は子を見守るものだろう?」
「こんな悪い女に息子を誑かされてるのに見守るだけでいいんですか?」
「拓人に迫田さんを諦めろと説得しろってことですか?絶対に嫌です。」
「親なのに…」
「そんなことは親の仕事でない。もういい大人なんだから勝手にすればいい。」
「面倒くさいことを私に押し付けないでくださいよ。」
「身から出た鯖だろう?自分で何とかするんだな。」
「何とか出来なさそうだから頼んでいるのに…」
「本当に時間の無駄だった。早く観覧車が終わらないかな。くだらないことに時間をかけてしまった。」
「フフッ。そうですね。」
「何がおかしい。」
「本当にくだらない1日でした。でも…純也さんが死ぬ間際にこのくだらない1日を思い出すんですよ。あぁ…こんなくだらないことをした日もあったなって。それだけで今日という日は価値があるんです。人生を振り返った時、あんなくだらないことしたなって笑える日がくる。だからこの1日には確かな価値があるんです。」
「…。」
「無駄な時間だって価値があるんですよ。」
確かに…そうかもしれない
こんなくだらない1日には何も意味がないと思っていたが
確信出来るほど今日の1日は人生で異質で
死ぬ間際にきっと思い出す
そして…今日という日を懐かしんで笑うのだろう
そんな気がした
ようやくわかった気がする
何故拓人も美奈子もこの迫田玲という女を好きになったのか
仕事よりも夢中になっているのか
観覧車は下まで降りた
降りようとする迫田さんを私は止める
「待て。まだ話したいことがある。」
「…フフッ。そうですか?じゃあもう1周だけお話ししましょう。」
私達は観覧車から降りずにもう1周回ることにした




