第48話 側にいられるだけで
ルーヴル美術館を出て、ヴェルサイユ宮殿も観光した
ヴェルサイユ宮殿でも玲は全くこちらを見向きもせずに観光している
「迫田先生凄いご機嫌ですね。」
と南が言う
「ご機嫌…なんですか?俺にはボーッと見つめているだけにしか見えませんが…」
「超機嫌いいですよ。お出かけをして機嫌がいいのはとても珍しいんですよ。一緒に観光出来て光栄です。」
「一言も話せないのに?」
「会話が全てじゃありませんから。私は今日の出来事を一生忘れません。迫田先生の隣でフランス観光が出来たことがとても嬉しいです。」
「俺は…玲のことが全然わからない。俺と一緒に来ている意味ってあるのだろうか。俺のことなんて眼中にないのに…」
「迫田先生に見返りを求めるのは贅沢ですよ。今日一緒に観光した迫田先生の横顔をずっと思い出に出来る喜びを噛み締めるんですよ。」
「ずっと見返りのない関係は辛くないか?」
「フフッ。そうかもしれません。でも…時々びっくりするぐらい大きな見返りを返してくれたりするんです。だから迫田先生のお世話はやめられないんです。」
「側にいるだけで幸せだという気持ちはわかります。でも…どうしても手に入れたい。愛されたいという欲望が湧いてきてしまって…強欲ですよね。」
「まず離婚してから口説かないと…迫田先生は恋愛事の倫理観はかなり厳しいんですよ。美人だからトラブルに巻き込まれることも多かったみたいで…トラブルの元になりそうなことは避けていたようですから。」
「学生時代の玲もモテていたでしょう?彼氏を作ったり何故しなかったのですか?」
「まぁ…好きな人がいなかったからでしょうか。恋愛事に限らず、小説を読むことと書くことしか高校時代は興味がない様子でしたよ。迫田先生は今もよりもずっと閉じた世界に生きていたんですよ。学校行事にも参加せずに小説ばかり読んでいた変わり者でしたから。」
「学校行事に参加していない?」
「はい。体育祭とか文化祭とか修学旅行さえも参加していません。」
「と…友達は?」
「幼馴染の女の子が1人いたようですが…高校は別の学校に進学したようで、高校生の頃は友達なんていませんでしたよ。」
「それは…悲しい高校時代だね。」
「いいえ?とても楽しく学校に通っていましたよ。」
「え…どうして?」
「小説デビュー出来たことが嬉しかったんでしょうね。休み時間も小説をよく書いていて充実した高校生活だったと話していましたから。」
「玲は小説があればどこでも天国なんだね。」
「迫田先生は基本的に人と関わることを好みません。だから一緒にいられることだけでも嬉しいんです。興味ない人間には驚くほど冷たかったりするんですよ。」
「今の俺には魅力がないのか冷たいんだよな…昔の俺と何が違うんだろうか…」
「そりゃあ既婚者だからですよ。」
「美奈子は玲を愛人にすることを望んでいるから何も問題ない。」
「美奈子さんが気にしなくても迫田先生は気にしますよ。」
「それは…わかっている。」
「本気で口説くならまず離婚してからじゃないですか?」
「玲は流されやすいところがあるから押せば丸めこめると思っていたのに。」
「結構最低なこと考えているんですね…」
「フランス観光なんて人生で一度しかないほど特別なものだろう?一緒に観光して距離が前よりももっと高くなって…前のような恋人関係になれると信じていたのに。まさかフランスのデートも全く眼中になくて放置されるなんて思いもしなかった。」
「フランスに来たぐらいで人が変わったりしませんよ。迫田先生相手に普通のデートなんて夢のまた夢ですよ。」
「俺を見て欲しい。」
「…まぁまだ時間はありますから。ヴェルサイユ宮殿を出て食事の時間になれば少しは話せますよ。」
「食事中もあまり会話が弾んだことはないんだが…」
「真中さんの会話にはあまり興味ないのかも…」
「どうやってアプローチすればいいんだよ…」
その後、玲はヴェルサイユ宮殿も堪能したようで、俺達3人はレストランで食事に行った
「今日は素晴らしい1日だったわ!!図書館で本を読むこともいいけれど、芸術に触れることはとても貴重な経験になったわ!!昔の人は現代人よりも芸術に興味もあったし、需要もあったから最高の作品を仕上げることが出来たのよね…芸術は素晴らしいわ。時代が変わっても劣化することなく最高傑作として全ての時代の人達に愛される作品を作ることが出来るんだから。私の小説も時代が変わっても面白いと思えるような崇高な作品として読まれることが出来るかしら?私が死んでも私の小説がこの世にある限り私の魂は受け継がれていくのよ。ロマンがあると思いませんか?早く書きたいなぁ〜。今から書いてもいいんだけどなぁ〜。フランスで書くならフランス語で短編とか書いてみようかな。書籍に出さなくてもいいから趣味で書いてみようかしら。」
こんなにも饒舌な玲は初めてみる
玲がご機嫌なことは確かだ
「小説を書くのは日本に帰ってからでいいですよ。どうせ帰国したらたくさん書くことになるんですから。」
と南さんが言う
「わかってないなぁ…フランスという現地で書くことによっていつもと違う感性で書くことが出来るのよ。」
「勘弁してくださいよ…小説書いてる間に誰かにナンパされてブチ切れた迫田先生を私は止められません…」
「そんなことしないって!」
「信用できません。今日も何度も声をかけられていたところを真中さんが助けてくれていたんですよ?」
「じゃあ私が小説書いてる間も拓人さんがナンパを止めてくれればいいんじゃないですか?」
「真中さんは貴方の便利屋じゃないんです。どうしても書くというならホテルの部屋に篭って書いてください。」
「図書館で書きたいんだけどなぁ…」
「ダメです。」
「玲…今日俺にキスしたこと覚えているか?」
俺はルーヴル美術館で突然キスをした話を振る
「覚えているわよ。」
「なんでキスしたんだ?」
「うるさかったから。」
「その後、俺がキスしたら怒ったよな?あれはどうして?」
「絵画を見てたのに邪魔されたから。」
「俺のこと好きか?」
「好きじゃなかったらキスなんてしないけど。」
「じゃあ…キスなら何度でもしてもいい?」
「え。嫌だけど。」
「な…なんで?」
「嫌だから。」
「好きだからキスしたんだよな?」
「うーん…じゃあ私からならいいけど、拓人さんからキスするのはダメ。」
「な…なんで!?」
「嫌だから。」
「俺のこと好きなんだよな!?」
「好きだけど…嫌だから。」
俺はやっぱり玲の気持ちが全然わからない




