第35話 眠り姫
俺が帰宅するとちょうどお風呂上がりの玲と鉢合わせをした
俺は玲に駆け寄り抱きしめて
「ただいま。玲。」
と挨拶をする
「おかえりなさい。」
少しぶっきらぼうだけれども挨拶を返してくれる
俺が抱きついたままの状態で玲は気にせずスタスタと歩いて冷蔵庫へと向かう
「お風呂上がりに水を飲むことは変わってないね。」
「幼少期から同じですから。」
「フフッ。玲は幼少期から性格とか変わってなさそう。」
「私は体は大人、心は子供だからね。」
玲は俺が抱きついていても嫌悪感を出さない
俺を受け入れてくれている
その事実が嬉しくてつい暴走してしまいそうになる
「まだ髪が濡れたままだよ。俺がドライヤーで乾かしてあげる。」
「ドライヤーなんて面倒くさいことしないわよ。私はタオルでぐしゃぐしゃーって拭けばそれでいいの。」
「俺が手入れしたいんだよ。玲の素敵な髪を大事にしたいんだ。」
「ふーん。じゃあ好きにすれば?」
俺はドライヤーを持ち出して玲の髪を乾かす
玲はソファに座って大人しく俺に髪を乾かせて貰っている
「美奈子は?」
「明日早いからもう寝ちゃった。」
「ラッキー。じゃあ2人きりでイチャイチャ出来るね。」
「するわけないじゃん。」
暫く沈黙の時間が続く
付き合っている間もずっとこうだった
玲と会話を続けることは難しい
俺の会話のスキルが悪い
営業のような当たり障りのない場繋ぎの会話はすぐに玲は飽きて無視をされてしまう
プライベートで男友達と会話をする時も
自ら盛り上げようなんて思ったことは1度もない
美奈子とあんなに楽しそうに仲良く玲は話すことが出来るのは
美奈子がいつも本音で話すからだろうか
よくも悪くも美奈子は本音で話す
飾らない素の姿を見せていることが好感が持てるのだろう
俺は見透かされているのだろう
玲の前でかっこつけたいと見栄を張ってよく見せようとしている浅ましい俺の姿を
そして興味がないのだろう
取り繕った偽物の俺には
「終わったよ。」
俺はドライヤーを終える
玲は反応がなく、いつも通りどこを見つめているのかわからない
どこを見ているのかわからない玲に俺はキスをする
「おはよう。眠り姫。起きたまま寝る癖は相変わらずだね。」
付き合っている時も、俺は玲にキスをして無理やり俺を意識させていた
「次に起こす時はキスじゃなくて鉄拳制裁してみてくれない?」
「嫌だけど…」
「面白くない男ね。」
謎に印象が下がってしまう
玲に好かれたいのに俺はいつも間違える
正解がわからない
「写真集のロケ地が決まったよ。フランスに行くことにした。」
「とても素晴らしいね。フランスならスタイリッシュな写真集になりそうだ。変身者が喜ぶような写真集にならなくてよかったよ。」
「私のファンは拓人さんのような変質者ばかりなのに大丈夫かしら。」
「玲のファンはどんな内容でも購入するから大丈夫だ。」
「がっかりされないかな?」
「されるわけない。ファン待望の写真集だ。大喜びして狂喜乱舞するよ。」
「それならいいけど…ねぇ。拓人さんもフランスに来るの?」
「もちろん。」
「何しにくるの?」
「衣装や撮影場所等も指示したいからね。」
「プロに任せようよ。絶対めんどくさいことになるから。」
「俺の方が玲の魅力をわかっている。」
「絶対口出ししてほしくない…撮影現場がめんどくさくなって混乱するのが目に見える…来ないで欲しい。」
「俺がお金を出すんだ!俺の思い通りにして何が悪い!!」
「はぁ…だからスポンサーなんていらなかったのよ。じゃあ1日フランスでデートしましょう。その代わりに写真集には一切関わらないで。お金だけ出して。」
「え…」
どうしよう…玲に際どいポーズとか絶対にして欲しくないし
露出が多い服も絶対に着せたくない
一切口出ししないという約束なら俺は止める権限がなくなってしまう
変態が喜ぶ玲の姿なんて絶対に載せたくない!!
でも…フランスで1日デートなんてもう一生出来ないかもしれない
日本で出掛けることもしない玲の海外デートなんて貴重すぎる
ブティックで豪遊して遊ばせてあげてみたい
気に入ったものを全部買ってあげたい
食べたことない食事をたらふく食べさせてあげたい
デートというなら手を繋いでもいいのだろうか
キスもありか?
もしかしてセックスも?
「こ…恋人としてデートしてくれるのか?」
「そうよ。」
え…俺のこと好きじゃん
めっちゃ俺のこと好きじゃん!!!
恋人として1日過ごせば昔のようにまた俺に夢中にさせれる
こんなチャンス他にない
「いいよ。フランスで1日デートしよう。」
「私の好きな所に連れて行ってくれる?」
「もちろんさ。」
「そう。じゃあ安心した。私もう寝るね。おやすみ。」
「とても楽しみにしているよ。おやすみ。玲。」
「あ…そういえば今日、拓人さんの友人に会ったよ。」
「俺の友人?誰だ?」
「えっと…名前なんだっけ?」
「フフッ。そんな印象薄かったのか?そのまま忘れてくれ。」
「ナンパされてついて行ってお茶したの。楽しかったよ。」
「…は?」
ありえない
玲の警戒心の高さはエベレスト級だ
知らない男についていくなんてリスキーなこと絶対にしないのに
俺の友人だからついていったのか?
俺のことを知るために?
「なんの話をした?」
「その人の人生の生い立ちとか。」
「俺の話は?」
「全然してないよ。」
「何でナンパについて行ったんだ!!」
「いい人そうだったから。下心なさそうだったし。」
「ナンパする男が下心ないわけないだろうが!!」
「なかったもん。」
「信用出来るか!!誰だ!!名前は!!思い出せ!!」
「とてもイケメン高身長な素敵なお兄さんだったよ。」
「他の男を褒めるな!!タイプだったからついて行ったのか!?そうなのか!?」
「そんなんじゃないって…写真集の打ち合わせがあったし、30分しかお茶してないよ。」
「30分も会話が続いたのか!?」
「当たり前でしょう?」
「俺だって10分会話するのも大変なのに!!」
「それは拓人さんが面白くないからじゃないの?」
「残酷な事実を言うな!!俺よりそいつの方が面白かったと言うつもりか!!」
「そうですね。」
「ぐっ…もう2度と会うな!!そんな怪しい男!!」
「もう会わないよ。」
「よし!玲は俺だけ生涯愛せばいいんだからな!!」
「拓人さんはミナを選んだくせに。」
「いずれ別れる。俺は玲一筋だ。」
「結構です。前も言ったけどやり直すつもりはない。ミナと別れるなら他に若くて可愛い女の子を探してね。」
「玲しか愛せないよ。」
「視野が狭いだけだから。もっと若くて可愛い子と遊んでみたら?意外とすぐに鞍替え出来るよ。」
「そんなこと出来ていたらこんなに苦しくて辛い思いしていない。視野が狭いわけないだろう?玲と出会う前は俺は遊び人だったんだぞ。女なんてたくさん見てきた。だからこそ玲しかいない。玲じゃないとダメなんだ。」
「…苦しむだけだよ。」
「側にいられるなら苦しくても構わない。たくさん苦しめてくれ。」




