第29話 お家デート
今日は休日
美奈子は出勤だ
家政婦も仕事を終えて帰った
この家には俺と玲だけだ
玲はリビングのソファで小説を読んでいる
懐かしいな
昔はよく家で小説を読んでいた
玲の集中力は常人ではない
完全に小説の世界に入り込む
こちらが話しかけても全く反応しない
「玲。」
試しに話しかけてみたが全く反応しなかった
昔に比べて人と話せるようになったと言っていたが
変わっていないように見える
玲は小説の世界で生きていて
現実世界で過ごす方がおまけ要素のようだ
玲が小説を読み始めたら読み終えるまで待たなければいけない
玲は読書家だから速読は得意のようで
1時間程待てば1冊は読み終える
俺は小説を読む玲の姿をコーヒーを飲みながら待つ
読み終えた瞬間に話しかけなければ次の小説を読み始めてしまう
そうなればまた1時間待たなければいけない
だから俺は読み終えたタイミングで必ず声がかけられるように
こうして玲を眺めながら待つ
昔は俺が目の前にいるのに
構ってくれないこの時間が大嫌いだった
1度だけ玲が小説を読んでいる時に
俺に構って欲しくてキスをしたことがある
玲はブチ切れて俺の頬に思いっきりビンタをして
“殺すぞ!!”
と叫び、再び小説を読み始めた
玲に初めてブチ切れられた俺は完全に萎縮した
玲が小説を読み終わったタイミングで先程キスをしたことを謝ると
“え?そんなこと言った?ごめんね。私、小説読んでると小説の世界に入り込んで現実世界の記憶あんまりないからさ…”
と言われた
俺にビンタをして殺すと言ったことを完全に記憶から消していたようだ
そんなことありえるのか?
本気でも嘘でもこわかった
俺はそれからもう2度と小説を読んでいる間は邪魔をしないようになった
懐かしいな
今は目の前に玲がいるだけで幸せだ
2度と会えないと思っていたのに
目の前でまた小説を読んで過ごす玲の姿に
感動して泣きそうになる
玲が本を閉じて読み終えたタイミングで
「玲。」
と俺は声をかける
玲はやっと現実世界に戻ってきたようで反応を返してくれた
「何ですか?拓人さん。」
「俺、今日休日なんだよ。一緒にデートしないか?」
「そうでしたか。でも残念。私は今絶賛炎上中なので外出禁止令が出されているんです。自宅待機しか出来ません。」
「酷い目に遭ったね。俺と恋人になれば玲がもう2度とこわい思いをしないと誓うよ。あんな奴ら近づけさせない。絶対。」
「人が多い場所に久しぶりに行ったので…自衛が甘かったですね。」
「俺が玲を守ってあげるよ。」
「自衛するので。お気持ちだけ有り難く受け取ります。」
「そう…」
俺は玲が心配すぎてこっそり玲のスマホにGPSアプリを入れた
玲は機械に疎いので全く気付かれていない
いつでも玲の居場所がわかるようになり
俺は安心して仕事をすることが出来ている
「じゃあお家デートをしよう。」
「セックスはしない。」
「セックスはしないよ。玲から求めてくれるまでね。今日は愛を育むことをしよう。玲は家で何がしたい?」
「小説読みたい。」
「…他には?」
「ときめきダイアリーのゲームかな。ヒナ君を攻略しなくちゃ。」
「たまには違うことをしてみないかい?」
「違うこと…?」
「待って!」
「何?」
玲に考え事をさせてはいけない
簡単に現実世界から離れて帰ってこなくなる
何がしたいか聞いて30分ぐらい放置されることなんてザラにあった
こちらから提案して会話をしないといけない
「えっと…映画とか?」
「私が映画苦手なこと知ってるくせに。」
「あはは…そうだけどたまにはと思って。」
「やだ。」
「玲は自分の小説が実写映画化された時も恥ずかしくて見れないって言ってたよね。」
「小説は1人で楽しむものなのよ。あんな大勢の前で自分の創作物を見世物にされて…死ぬほど恥ずかしかったわ。」
玲は典型的のアナログ人間だ
テレビドラマも映画もアニメもあまり好まない
活字の小説が1番好きなんだ
この時代、ほとんどがデジタル化されているのにも関わらず
玲は本にこだわりを持っている
スマホで小説を読むことはなく
本で読むことに意味があるようだ
だからときめきダイアリーというゲームにハマったと聞いた時はかなり驚いた
ゲームも好きじゃなさそうだったのに
「えっとじゃあ…ゲームでもするかい?」
「…私、対戦ゲームをやりたいと思っていたの。」
「じゃあ玲がやりたかったゲームをやろう。」
俺ははゲームを起動して、ゲームを購入しようとすると
「え。何これ。」
「何って…ゲーム購入画面だよ。玲のやりたいゲームはどれなの?」
「ここで買えるの?ゲーム屋さんでカセット買ったりしなくていいの!?」
「ネットで購入出来るんだよ。」
「すごーーーーい!!天才!!ネットでゲームを購入出来るなんて便利!!」
もう何年も前から出来るようになっていたのだけれど…
小説を読むか書くかしかしない玲は知らなかったようだ
「これが対戦ゲームのカテゴリーだけど…」
「あった!これ!!これやってみたかったの!」
俺は玲の指定したゲームを購入した
そして2人プレイでゲームをする
基本的な操作をチュートリアルで学んでから俺達は対戦をした
「なにこれ!どうやってガードするんだっけ!?技が出ない!!」
玲はコントロールのボタンをガチャガチャと押しまくってキャラクターを動かしているだけだった
俺は玲をボコボコにして勝利する
「強すぎる!このゲームやったことあるの!?」
「初めてだよ…玲が弱すぎるんだよ…」
「だって対戦ゲームなんて初めてするから…でも楽しかった。技の出し方とか練習してからまた対戦しよ。」
玲は夢中になり2時間ほど練習をした
その後に俺と対戦したが、俺が圧勝した
「ねぇ!強すぎる!!こっちは2時間練習したのに!!理不尽!!」
「俺は何でも要領がよく上手く出来ちゃうから。ごめんね。」
「有能な人間が憎い!この世は才能があるやつが得して生きている!」
玲なんて才能だけで生きているものなのに…
どうやらゲームは玲のお気に入りらしい
ゲームの練習中に話しかけても無反応だった
小説と同じように集中してのめり込んでいるようだ
集中してのめり込むわりに上達スピードは遅いけれど
愛を育むお家デートをしたかったのに
またしても俺は玲に放置されている
「ねぇ…他のゲームとかもやってみない?」
「何で?雑魚を相手にするのは面白くないの?」
「いや…そうじゃなくて…せっかく色々なゲームが自宅で買えるんだしもう2時間もやったんだから他のゲームもやってみたらいいんじゃないかなって…」
「まだ2時間しかしてないわよ。あと10時間は出来る。」
「…冗談だよね?」
「10時間後、拓人をボコボコにするぐらい強くなってみせるから。」
その後、玲はゲームに夢中になって俺のことは全く眼中になかった
さっきわざと負けていれば他のことが出来たかもしれないのに…
玲に負けるというかっこ悪いことはしたくないとプライドが邪魔してしまった
大失敗だ
愛を育むことには失敗したが
玲を喜ばすことには成功したので
今回はよしとしよう




