第22話 唯一無二
玲と拓人がクラブバーから出て行った後、夜遊びする気分ではなかったので家へと帰った
お風呂に入って夜準備をしていると玲が走って帰ってきた
「あら。今日は帰って来ないと思ってたのに。」
「ハァ…ハァ…危うく愛人にされるところでしたよ…」
「まだ愛人になってないの?諦めて早くなればいいのに。しぶといわね。」
「ゴキブリみたいに言わないでくださいよ…。今日は疲れました…。明日から小説書かないと行けないし…お風呂入ったらすぐ寝ます…」
そう言いながら玲はお風呂に入り、自室へと入っていく
玲が自室に帰った後に、拓人が帰ってきた
「絶好のチャンスを作ってあげたのに。逃げられちゃったのね。残念。」
「チャンスなんか作らなくても俺達は両思いだから大丈夫だ。二度とこんな危険なことをするな。」
「悪い男に言い寄られて困ってる玲を颯爽と現れた拓人が助けてあげることでラブロマンスを生まれさせる予定だったの。少し予定が狂ったけれど盛り上がっていい感じになったでしょう?」
「そのまま玲が食われていたかもしれないんだぞ?夜遊びに連れて行くなんて二度とするなよ。」
「まさか玲がスタンガンぶっ放して気絶させるなんて思わなかったわよ。あんなことしたら出禁よ。出禁。」
「ふん。あんな場所玲には似合わない。好都合だよ。」
「玲に対して幻想抱きすぎじゃないの?玲は今日男を誘っていたの見たでしょう?全然清純派じゃないわよ。」
「美奈子が悪い遊びを教えたからだろう?純粋な玲はすぐに騙されてしまうんだ。」
「いや…殴りかかってきた男にスタンガンで気絶させた後に、他の男と遊ぼうとしてたけど…」
「可哀想な玲。怖かっただろうに…」
「恋は盲目ね。」
「明日から玲は執筆だろう?」
「そういえばそんなことは言ってたわね。」
「じゃあ明日から1週間は玲に会えないね。」
「え?夕食とかは一緒に食べられるでしょう?」
「玲は小説を書いている時は食事を取るのも難しいからね。」
「…朝食ぐらいなくても生きていけるとか言ってたわね。そういえば。」
「この1週間は小説しか書かないし、担当の南さんの言うことしか聞かないから。」
「そうなの?」
「玲の部屋に入るのは南さんだけだ。絶対に入らない方がいい。」
「仕事の邪魔をするつもりはないからわかったけど…拓人は入ったことがあるの?小説を書いている玲の部屋に。」
「一回だけ。」
「どうなったの?」
「…言いたくない。」
目を逸らし言い淀む
よっぽど酷い目に遭ったようだ
それから2日間玲の姿は見ていない
ピンポーンと呼び鈴が鳴り、玲の担当の南さんが尋ねてきた
「本当に引越しされたんですね迫田先生。」
「ええ。この部屋が玲の部屋よ。」
ガチャと扉を開いて南さんは玲の部屋に入る
わーわーと騒ぐ声が扉越しでも聞こえる
ガチャっと扉が開いた
玲は南さんに引き摺られて出てくる
「いやーーー!!まだ終わってないー!!」
「うるさい。休憩してから。お風呂と食事を終えてから。」
「今考えてることが忘れたらどうすんの!!早く!!書かないと!!」
「2日間ぶっ通しで眠らずに書いたんです。いい加減に休憩することを覚えてください。」
「せめてキリがいいところまでは!!」
「キリがいいところなんてありません。今すぐお風呂から入りますよ。」
「やだああああああああああああああああ!!」
引き摺られて玲はお風呂に連れていかれる
南さんは慣れた手つきで玲の服を脱がしていき
そのまま玲をむりやりお風呂に押し込んでシャワーを浴びさせていた
お風呂から出てきた玲は南さんにドライヤーで髪を乾かして貰っている間もパソコンで小説を書いている
その後、南さんは玲の口にご飯をあげて食べさせている
その間も玲はパソコンから離れることなく小説を書き続けていた
「いいですか?水分補給だけは絶対に自分で行ってくださいよ?あと今日は絶対に寝てください。わかりましたか?」
「うんうん。わかった。」
南さんは忙しいようで、嵐のように去って行った
南さんは2日に1回玲の部屋を訪ねて無理矢理世話をして帰っていく
1週間後、ようやく小説を書き終えたようで
玲は死んだように自室で寝ている
「凄いですね…玲はいつもこんな感じなんですか?」
私は南さんに話しかける
「そうなんです。もう少し余裕を持って書いて欲しいんですけどね…いつも締切ギリギリまで書かないし、書き始めたらゾーンに入って食事も睡眠もお風呂に入ることもしなくなるので私がいつも世話しているんです。」
「玲の担当は大変ですね…。早く担当変更して貰えるといいですね。」
「いえ。世話を焼くのは大変ですけど…それでも私は迫田先生の小説の大ファンですから。願わくば死ぬまで担当したいですね。」
「迫田先生が大好きなんですね。」
「はい。迫田先生の最大の魅力は小説です。色んなジャンルを幅広く無限に表現出来る。天才小説家です。迫田先生の支えになれることを誇りに思います。」
「羨ましい。」
「え?どこに羨ましい要素が…?」
「そこまで思って貰えている迫田先生が。」
誰かの特別になれる迫田玲が羨ましい
私は誰にも選ばれない
どれだけ努力しても
特別な存在になることなんてない
有象無象の社会の歯車の一つでしかない
迫田玲が羨ましい
唯一無二の存在で
迫田玲の代わりは誰も務まらない




