第5話:LAMP ※あとがきにAI画像有
俺は距離を保ちながら、その老婆と子供の動きに最大限の注意を向ける。
「・・・・」
「・・・・」
少しの間のあと、老婆が言う。
「・・・ふむ。まあ、そんな警戒しなさんな。なにもしやせんよ。」
「それよりもーーー」
老婆が隣の子供に指をさして何かを伝えている。
子供が小さく頷くと、子供は小走りで俺の近くに向かってきた。
子供、フードを被っているので性別などはわからないが…、背丈から察するに、おそらく同い年程度と思う。
子供は俺の近くに来てある物を拾ったあと、老婆のもとに戻っていった。
アレは・・・、俺がさっき出したリンゴだった。
老婆はそれをしばらく注意深く見たり、俺がかじった部分などを指で触ったりしていた・・・が。
シュッ
「・・・ほう。」
老婆の手元からリンゴがシュッと煙を出しながら消えた。
それと同時に、リンゴの絵を描いていた紙も燃えるようにして消えた。
「コレはお前さんが消したのか?」
俺は少し戸惑った。
が、素直に首を横に振った。
俺のスキルは消耗品なのだ。アートの再利用はできない。
今回は物質を取り出したが、俺の手から離れてしまったので時間経過とともに消滅したのだ。
消滅を防ぐ方法もある。
消える前に再度触れば消滅までの時間は延長される。
しかし、違う絵を描いてソレを取り出した場合、前に取り出したものは消える。つまり現状取り出せるのは一度に1つまでだ。
コレも前世で俺がこのスキルで金儲けに使えなかった理由だ。
「・・・なるほどね。しかし小僧、お前さん見たところまだ12かそこらだろう。スキルに目醒めたばかり程度で、なぜここまで自分のスキルを詳細に知っておる?」
「・・・。」
俺は答えない。
正直、面識もないさっき会ったばっかのこの老婆にそこまで話す義理もない。
「・・・ふむ。まあ、いいさ。ワシ等は通りかかっただけだしね。邪魔したね。」
「・・・さっ、行くよ。」
そう言って老婆が子供を連れて立ち去ろうとした。
・・・が、
何やら子供が老婆に話している。
そして、子どもの話を聞いたあとに老婆が俺を遠目から見つめている。
老婆がしばらく考えたあと
「・・・ま、いいじゃろ。行っといで。」
そう、その言葉を聞いた途端、子供が俺の方に向かって駆け出してきた。
俺はその様子をとりあえず冷静に見ていた。
会話の内容は全くわからなかったが、
確かに相手には敵意がない事をなんとなく感じていた。
「小僧、名前は。」
「・・・モドー」
「そうかい。・・・じゃ、モドー。後で迎えに来るからその子を頼んだよ。」
・・・俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。
「ーーーーは?」
俺は眼の前の子供をみる。
フード越しでもわかるくらい、めっちゃ笑顔だ。
・・・え、コレ?
「ちょ、ばb・・・おばあさん!」
文句を言おうとしたが、
時すでにババア。そこには誰もいなかった。
俺は目を細めながら、頭を空っぽにして
昼下がりの明るい空と、そして同じくらい明るい眼の前の笑顔を見ながら、突如知らない老婆に任された子供のお守りを体験することになったのだった。
ーーー
ーー
ー
ーーーそれが、すべての始まりだった。
何で俺は、あの日、川に行ったんだろう。
前の人生では
俺は川には行かず、自分の部屋で
一体、自分にはどんなスキルが目覚めたんだろう。って、ワクワクしながら魔法を撃つ素振りをしたり、全身に力をこめてみたり、木の枝を振ってみたり、母さんに、この世にはどんなスキルが有るのかって聞いてみたり。本を読んでみたり、とにかく自分のことに夢中だった。
だけど、今度は違う。
川で絵を描いた。
・・・こんな、こんなことで??
何で、こんな事になったんだ?俺が…悪いのか?俺?俺のせい…なの、か…?俺の…俺…
ーーー
ーー
ー
「モド!ね、モドー!聞いてる??」
子供のお守りを強制的に任されてから、その子と時おり遊ぶようになった。
その子は最初はとてもオドオドして、すごい人見知りだったが、次第に社交的になり、明るくなっていき、いつしか村の他の子供とも遊ぶようになっていった。
そして、
あっという間に4年が過ぎた。
この頃になると、
俺はもうすでに、自分が死の間際に夢を見続けているんじゃなくて、本当に昔に戻ったんだ。とそう実感していた。
「モードー!」
4年前は人見知りをしていた子供が、いまの俺の前で脹れっ面を晒している。
「・・・ああ。ごめんごめん。ちゃんと聞いてるよ。冒険だっけ?」
「うん!ケイルに誘われたの!ボク回復出来るでしょ?だからついてきて欲しいって!」
「ふぅん・・・。」
冒険か・・・。
確かにこの島の外がどうなってるのかとか、全く知らないんだよなぁ。
「だから!モドも一緒にいこ!」
キラキラした目で言ってくる。
その目を見たあとで心苦しいが・・・。
「・・・いあ、俺はいいよ。」
俺はすでに、十分二度目の人生を満喫している。
それに、コイツに関わった時点で俺が本来過ごした未来からだいぶ変わってしまっている。コレ以上のアクションはよくない。そう思っていた。
・・・それに俺呼ばれてないし。
「そっかー・・・、じゃあボクもやめよっかな」
「いやいやいや、、、俺に構わなくていいよ。行ってくるといい。」
可愛い子には旅をさせよ。昔の人は言った。
まあ、誰が言ったかは知らん。
俺は中身が老衰したジジイなので、コイツのことを孫かなんかのような気持ちで一歩引いたところで見ている。
「・・・モドはボクが他の男と一緒に旅に出ても平気なの?」
「っ!・・・ふぅ。」
これは・・・ちゃうねん。
アレだ。孫としての可愛いだから。
うん、そう。断じてそう。
ああ!今日も空が青い!いい天気!
「モドってよく空見てるよね」
「・・・。」
ーーーそんなやり取りをしていると、
ついに孫(仮)が旅にでる日がきた。
「・・・本っっ当に一緒に来ないんだね!?」
顔を膨れさせながら、孫(仮)が言う。
「ああ。行って来い。頑張ってな。じいちゃん家で応援してるから」
俺はハンケチで涙を拭うふりをしながら答えた。
「ーー!ーーー!!!」
言葉にならない言葉を発しながら、
ツンと先の尖った耳の先端を赤くしながら、もーもーと膨れ怒っている。
「ケイルも、家の子を頼んだぞ。」
おう!と良い笑顔と声量で返された。
じゃあ!と手を振るケイルと、コチラを全く見ないでプンプンと怒りながら、さっさと先に歩いていく二人を、俺は姿が見えなくなるまで見送った。
ーーー
ーー
ー
それから俺は自室に戻り、絵を描いていた。
ああ、やっぱり俺も行けばよかったかな?とか
まさか本当にあの二人、くっつかないよな・・・?とか
そんな事を考えながら、
俺はしばらく絵を描いていた。
血まみれになって戻ってきた
ヨルの姿を見るまでは。
ーーー第6話につづく。