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1.日常、やがて異常

0.


 僕は神さまが嫌いだ。神さまが差し伸べてくれるという救いの手なんて、ありはしなかったからだ。

 僕は悪魔が嫌いだ。僕の両親を殺したからだ。

 僕は僕が嫌いだ。神さまになんて力を借りずに何かを護れる力が、自分にはなかったからだ。


1.


 久々にあの夢をみた。『あの日』の夢。

 目覚めの悪い朝を迎えた倉橋(くらはし) (てる)は、体を起こして部屋を出た。

「照くんおはよう。少し青ざめてるじゃないか。顔を洗っておいで、朝食を出すよ。」

 彼は大原 隆之(たかゆき)。父の叔父で小さい頃から面倒を見てもらっている。今となっては父の代わりのような存在だ。

 顔を洗って食卓につくと、いつものサラダとベーコンエッグ、トーストが用意されていた。

「いつもありがとう、叔父さん。いただきます」

「あぁ。そんなことより、今朝はどうしたんだい?」

「今朝は…ちょっとあの時のことが夢に…」

「そうか…あまり思い詰め過ぎないようにね」

 あの時のこと。それはあまにりも残虐で、憎たらしいものだった。


「行ってきます」

 いつも通りの道。いつも通りの電車。今日も何気ない日常が始まる。


「てーるー、おっはよーっ」

「兄さま、電車が来ますよ。大人しくしてくださいね」

「わかってるよ、ユキ。友との再会を喜んでいただけじゃないか」

 彼らは二条 ハル と 二条 ユキ。幼馴染で双子の兄妹だ。普段、あまり人との関わりたがらない照からしてみれば、数少ない親友と言えるだろう。


「どうしたんだ、照。今日はやけに冷たいじゃないか」

「いつもの兄さまの絡みに辟易したのでは?照さん、おはようございます。少しお疲れでしたか?」

「あぁ、おはよう、ユキ。大丈夫さ」

「なあ、なんで俺には返してくれないんだい?」

 幼馴染と電車で高校へと向かう。昨日と変わらない今日が照を安心させる。ただ、一人欠けているが。

「待ってーーー!あたしを置いていかないでーーー!!!」

 今電車へと滑り込んできたのは、もう一人の幼馴染 水無瀬(みなせ) 凛々亜(りりあ)。この3人といることこそが、照の変わりない日常だった。


「どうしたんだ、凛々亜。いつも以上に慌てて」

「それがさ、なんかちょっと変な人に絡まれちゃって」

「それは災難だったね。大丈夫だったかい?」

「まあ、走って巻いてきたからね」

「凛々亜さんは相変わらずですね。もう少し早く来たらいいのでは」

「うぅ、今日も今日とてユキちゃんが冷たいよー。どうなってるのーお兄さん?」

「ユキは照には甘いんだけどね。まあ、その照も今日は元気がないみたいで」

「そっか、照大丈夫?」

「あぁ、心配はいらないよ」


 幼馴染、数少ない親友。守りたい日常(きょう)が今はここにある。それだけで照は充分だった。

 今の平穏を脅かす者がいるなら、僕はーーー


ーーードゴンッ!


 突如起きた前方からの衝撃、そして横転する電車。崖崩れも起きたのか、車内には土砂も入ってきていた。土砂を掻き分け外へと出ると、そこには少女と異形。

 いつもとは違う雰囲気を纏うユキと、あの憎たらしい悪魔がいた。


3.


 ユキと対峙していた悪魔は、11年前の照の記憶を呼び起こした。それは、目の前で両親が悪魔に殺された記憶。神への祈りは届くことがなかった記憶。そして、自身の無力さを憎んだ記憶ーーー


「あぶない!」

 気づけばユキの腕の中にいた。彼女は背中を切られ、吐血をもしていた。

「ご無事…でしたか?」

 また守られた。また守れなかった。もう、これ以上は失いたくない。今度こそは…

「照さん!ダメ!行かないで!」


 目の前の悪魔は、童話の挿絵のような姿をしていた。羊のような角に悪魔の翼。そして、真っ黒な全身に纏う黒い瘴気は、昔を彷彿とさせる。

(立ち向かうのはいいが、どう倒せば…)

 途端、悪魔が電車の先頭に飛び出した。車体の裏に隠れたかと思うと、すぐにまた姿を見せた。手に、首のない運転手らしき人が刺さった状態で。

「お、お前ぇーーーー!!!」

 なりふり構わず飛び込んだ。しかし、右手で軽くいなされる。背中から強く崖に叩きつけられた。頭も打ったためか、目の焦点が合わない。ただ、近づいてくることだけがわかる。自分を殺しに。


 猶予がない。策もない。ただ、倒したい。倒す力が欲しい。もう無力な自分は嫌だ。守られるだけの自分は嫌だ。何か、目の前の敵を倒せる力を…!


(名前を…呼んで…私の…)


 頭に直接囁かれた言葉は、照の本能よりも奥深くに根付いた意識が反応する。そして、脳が理解するよりも早く“名”を口にした。


『アマテラス』


 祈りに応じたように現れたのは、太陽の輝きを放つ巫女の少女だった。

「さあ照、行こう」

 自身の体を見てみると、巫女の少女のような暖かな輝きを纏っている。傷も癒えて、心底から湧き出る力を感じる。今なら、行ける。

 照は、再び悪魔に向かって飛び込んだ。

「二度は効かない」

 悪魔の放った右手を受け止める。明らかに先程よりも力があるのを感じる。

 そのまま間髪入れずに殴り続ける。今までの恨み、悔しさを乗せて。

「これで終わりだ」

 最後に放った渾身の一撃は悪魔の体を貫き、一筋の光を描いた。そして悪魔の体は霧散し、照の目の前からは消え去った。


「やっと…守れた…かな…」


 巫女の少女は消え、そこには父の形見の剣だけが残っていた。

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