筆記試験の行方
エメリウスは深呼吸し、目の前の試験用紙を見つめた。試験会場には鉛筆の走る音だけが響き、誰もが真剣に問題へと向き合っている。
――錬金術の基本理論。
最初の問題は、錬金術の三大原則「分解・再構築・変質」についての説明だった。これは村での独学でも繰り返し学んだ内容だ。
(分解は物質の構成を理解することから始まり……再構築は、その理解を元に新たな形へと導く……変質は……)
エメリウスは自分の知識を整理しながら、落ち着いた手つきで筆を走らせた。確かな手応えを感じる。
次の問題に目を移すと、錬金術における触媒の種類とその役割について問われていた。
(触媒は錬金術の核……成功率を左右する重要な要素だ。)
彼の頭の中には、村で読んだ古い書物の一節がよみがえる。貴金属、草木、魔石……それぞれの特性と効果を思い出しながら、慎重に解答を埋めていった。
ふと隣を見ると、カインも集中した様子で筆を走らせている。彼の額にはうっすらと汗が浮かび、さすが予備講義を受けているだけあって、迷いなく書き進めているように見えた。
(俺も負けていられない……!)
エメリウスは気を引き締め、最後の問題に取り掛かった。
――「賢者の石」についての伝承と、その実在の可能性について述べよ。
その問いを見た瞬間、彼は驚いた。賢者の石――かつて彼の命を救った錬金術師が、ほんの一瞬だけ口にした言葉だった。
(確か、村の教会で……あの方が……)
記憶を辿りながら、彼は書き始めた。賢者の石は、理論上すべての物質を究極の形へと昇華させると言われる伝説の産物。しかし、その存在は長らく証明されておらず、真偽は不明だとされている。
エメリウスは、村で学んだ知識と、自身の直感を織り交ぜながら、答案を書き終えた。
「終了!」
試験官の声が響く。用紙を提出し、静かに席を立つエメリウス。胸の中は不安と期待でいっぱいだった。
「どうだった?」
カインが近づいてきた。エメリウスは小さく笑い、「なんとか……」と答える。