青空亭の夜
エメリウスは王都の喧騒に圧倒されながらも、門番に教えられた宿「青空亭」へと向かった。石畳の道を歩き、賑やかな市場を抜けると、やがて見えてきたのは大きな木造の建物だった。入口には青い看板が掲げられ、そこには「青空亭」と力強く書かれている。
扉を開けると、温かい灯りに照らされた賑やかな光景が広がっていた。冒険者や商人、アカデミー生らしき若者たちがテーブルを囲み、活気のある話し声が飛び交っている。
「いらっしゃい!お泊まりかい?」
カウンターの奥から、恰幅のいい女将が笑顔で声をかけてきた。
「あ、はい。一部屋お願いしたいのですが……。」
エメリウスが緊張しながら答えると、女将は手慣れた様子で鍵を手渡してくれた。
「三階の奥の部屋だよ。アカデミーの新入生なら、明日早くから動くんだろう?今日はしっかり休むんだね。」
「ありがとうございます!」
部屋に向かう途中、廊下で同年代の青年とすれ違った。彼もまた、アカデミーの制服らしき服を着ており、エメリウスに気さくに声をかけた。
「君もアカデミー志望か?」
「ええ、そうです。」
「俺はカイン。君は?」
「エメリウスです。」
カインはにこやかに頷くと、少し得意げに言った。
「明日が入学試験の説明会だろう?俺はもう予備講義を受けてるんだ。遅れを取らないようにしろよ。」
エメリウスは焦りを感じながらも、礼を言い、部屋へと向かった。鍵を回し、部屋の扉を開けると、質素ながらも清潔なベッドと机が並んでいる。窓からは王都の灯が瞬いており、新たな生活が始まることを実感させた。
エメリウスは荷物を降ろし、ポケットからあの“石”を取り出した。かつて彼を救った錬金術師が残していったもの。その淡い光が、静かな決意を灯しているように感じる。
「絶対に……錬金術師になってみせる。」
呟いた言葉は、今までよりも力強かった。
王都の夜は静かに更けていく。明日からの新たな挑戦に向けて、エメリウスは静かに目を閉じた。