尻尾の振り方
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
─如月がここにきて、三週間ほど経ったある日の昼。俺達は職場で各担当してる売り場に立ち、品物を販売や接客をしていた。
「……あ、如月あいつ今日……五時からだな」
「っ!」
「…お前さ、如月って聞くと必ず反応するよね」
─平日はやはり客が少ない。シューズカウンターに立ち一人、経年品や出荷関連の書類を読む。ふと今日如月が来る時間を思い出し、口にすると─隣にいる廉命がビクッ!と大きな身体を反応させた。
─あの日以来、廉命は如月に対しての恋心を自覚したものの、中々進展がない。俺達から見て、廉命が中々行動に移せないのか、それとも如月が恋に異常に鈍感なのか分からない。俺的には前者の方だと思うのだが、加堂さんは後者だと考えてるらしい。
「ねぇ廉命」
「な、なんすか?」
「如月とはしたの?」
「はぁっ!してるわけないでしょっ!まだ」
「そういうのは、まずした方がいいぞ」
「いやいや、心の準備が……」
─如月と連絡先を交換したのかを廉命に聞くが、彼の返す答えと合っていない。確かに手を握ったことは大きいと思うが──
「さっきから何言ってんだよ…勘違いしてね?」
「それは…その……」
「よし。俺達の意図、照らしてみようぜ…せーのっ!」
「「セッ……/LINE交換っ!」」
「え……廉命。お前今…言った?」
─なんと、廉命の話す答えは想像を遥かに超えていた。連絡先交換でもない、デートでもない、夏祭りの誘いでもない─────セッ─いや、性行為だ。確かに、如月はまだ十七歳だから、犯したくなるのも無理はない─。するとトレーニングウェアの接客を終えた盾澤店長がこちらのシューズコーナーにやってきた。
「いや、その……やっ……」
「おー、なんか顔赤いけど、何かあったの?」
「あ、店長。実は廉命が如月と……」
「違うんすよ!せめてクビだけは……!」
「へー。廉命が如月さんと?」
「この二人は……」
─連絡先交換してないんです、と店長に伝える。ちなみにだが、廉命の如月に対する好意はほぼこの店の如月以外の従業員にバレている。すると店長はある試練を、廉命に与えた。それは─如月と連絡先を交換することだ。もちろん、自分一人の力でだ─。
「はぁっ!む、無理でしょ…」
「ちなみに、今度皆で飲みに行くんだけど、罰ゲームとして、奢ってもらうよぉ」
「ついでに廉命が如月で色々想像してるのもバラしちまうからね〜」
「まじかよ……」
「さぁ廉命。どうする!」
「………やります。絶対如月さんと連絡先交換して、デートに誘って……その……セッ「そうこなくっちゃ!」
「あ、そろそろ如月が来る時間だ」
─確かに、今度の終業後にこの店の皆で飲みに行く予定はあるので、もし如月と連絡先を交換出来なかったら──廉命が奢ることになる。談笑したり、後方での作業をしてると、夕方の五時になり、如月が売り場に来た。
─ふわぁ、と欠伸をする如月を見ては、廉命は顔を赤くしていた。そりゃそうだ─。好きな人との連絡先交換は─想像以上に難しいのだから。俺は彼らに後方での品出しをお願いしようとしていたが──
「なあ生野。如月ちゃん、一旦借りていい?」
「えー、べつに良いけど……出荷?」
「いや、バスケウェアの売変だよ。量多くてね…借りてくわ。如月ちゃん、行くぞ」
「あ、ちょっ……!」
─加堂さんがシューズコーナーにやってきて、如月にバスケシューズの売変を手伝ってもらおうと彼女にお願いしにきた。如月が加堂さんについていこうとする時に、廉命は少し寂しそうにしていた。整った顔立ちに目立つケロイドがあるには、犬のように、くうんと鳴くように寂しがる。如月が戻るまでに、俺達は商品整理をしたり、空いてる展示品を作っていた。
─次第に如月が戻ると、廉命の紅い瞳に光が灯り、凄く嬉しそうにしていた。飼い犬が仕事から帰ってきた飼い主と会う時に激しく振る尻尾のように─。もちろん、廉命が如月に対して激しく尻尾を振っているようにも見える。廉命が犬だとすれば、如月は飼い主─。つまり、廉命は如月が大好き過ぎる、ということになる。普段、俺達の前では狼のように。でも如月の前では犬のように、と。
「廉命って……分かりやすいよね」
「はぁっ?べ、別に……如月さんはガキだし…普通の、普通のガキっすよ!」
「ふーん?あ、廉命。如月に出荷のやり方、教えてあげてよ。俺は売り場でやらなきゃいけないことあるし」
「それって……」
─広いバックヤードで、如月と二人きりに。ということになる。見掛けによらず、犬が飼い主に威嚇するように歯を噛み締め、頬を赤らめながら廉命は、行くよ、と如月をバックヤードに連れた。
─ある日のアルバイト。俺は生野さんの指示で、如月さんに出荷の仕方を教えるように言われた。この広い後方で二人きりになれるのは最高なのだが、連絡先を交換する試練は─乗り越えられなさそうだ。でも、それを突破しない限り進展が望めないのは分かっている。
「出荷はね、本社からの指示で抜いた商品の在庫を他の店舗に送るんだけど、まずはこの指示書を見て、在庫を抜く。そしてこの機械を操作して…梱包するんだ」
「なるほど……」
「そう。い、一緒にやってみようか」
─まずは基本的に多いパターンの出荷だ。基本的には本社から指示されたものを送るのだが、時には店舗判断や客注による出荷もある。初めて出荷の作業をする如月さんに、色々教えた。すると、盾澤店長が後方に来て、何をしてるかを聞いてきた。
「なるほどね。出荷か……基本的には本社から指示されたものを送るパターンが多いんだけど、値書きの商品や在庫調整、滅多にないけど客注とかで出荷する時もある─」
「なるほど……」
「最終的には運送会社用のワゴン車に置かれてるダンボール箱みたいになるんだけど、送り先や到着して欲しい日付けによって、利用する運送会社は変わるんだよ」
「へぇ……なるほど」
「てか思ってたんだけど、如月さん身長幾つ?」
「……百五十センチくらいですかね…?」
「どおりでその制服、少し大きいと思ってたわ…ダボダボでしょ」
「まあ……でもこれ…生野さんの制服…」
「そりゃ大きいべ……あ、そうだ」
─補足として、盾澤店長が出荷について詳しく説明をする。如月さんは必死にメモを取り、その姿だけで見惚れてる自分がいた。すると盾澤店長は如月さんに身長を聞くと、休憩室からシーズン用のエプロンを取り出し、彼女の体に当ててみた。
「店長……な、何を…っ!」
「じゃーん。シーズン用のエプロン。如月さんには大きいかもしれないけど、似合ってるよ」
「エプロン……デカい……」
「俺もシーズン担当する時あるけど、エプロンは付けてないかなぁ……ね、廉命?如月さん似合ってるよね?」
「〜っ!」
─これがいけなかった。如月さんのエプロン姿を想像してしまい、色んな妄想をしてしまった。もし彼女と結婚したら、毎日その姿が見れる─。無意識なのか、その姿に顔を背けてしまう。そもそも体格差も大きいせいで、こんなにも可愛い如月さんと目を合わせられない─。ていうか、さっきから思ってたが近過ぎる─当然、如月さんのいい匂いが俺の鼻を刺激して脳内が大変なことになりそうでもある。犬の嗅覚は人間の約千倍から一億倍優れてるとも言われていて、俺のそれは如月さん限定だと思う。でも、後からバックヤードに入ってきた加堂さんが、俺にこっそり耳打ちをしてきたが、更にそれがいけなかった。
「おい…さすがにそのエプロンはデカ過ぎるぞ」
「ワンピースみたいで良いよね〜廉命も顔真っ赤だし」
「ふーん?お前まさか……裸エプロンとか想像してねぇよな?」
「っ!」
─裸エプロン─。確かに如月さんのエプロン姿に見惚れてたしその想像はなかった。エプロンの下が衣服や下着ではなく、裸────。生まれたままの姿の上にエプロン─と妄想を広げようとしていたところに、加堂さんの膝蹴りが俺の腹部を一瞬だけ破壊させた。
「ぐはっ!けホッ……けホッ!」
「廉命…さん」
「やっぱり考えてたな……この絶倫野郎っ!」
「ちょっ…やり過ぎだよ……廉命、大丈夫?」
「けホッ!かはあっ!」
─流石元有名なアメフト選手。アキレス腱が断裂しても蹴りの威力は凄まじく、みぞおちを強く蹴られ、俺は腹を抱えて床を転びまくった。あまりの息苦しさに俺は意識を失ってしまった。次に目が覚めた頃には時計の針が夜の九時近くを示していた。
「…………ん」
「目が覚めました?生野さん…廉命さん、起きました」
「まじか。廉命、大丈夫?」
「廉命、悪ぃ」
「加堂さん………」
「目が覚めて良かったです……加堂さんの暴力に耐えれるのは兄貴だけですから……」
「……皆」
「とりあえず廉命が目を覚まして安心だ。それじゃ明日も早いし、帰るとしよう」
「よし、如月帰るぞ……今夜はうどんだとよ……」
「やった!舞姫さんのうどん、めちゃくちゃ好きやねんよぉ!しかも関西風にしてくれてん…」
「よし、加堂。今日はお前の奢りでラーメンね」
─俺は会議室にマットが敷かれてたところに寝かされてたようだ。目が覚めると如月さんが顔を覗き込んでいて、後から聞いた話ではあるが、店長が俺をここまで運んでくれたらしい。さすが、元伝説のアスリート。すると皆、俺の意識が戻り次第に続々と帰っていった。
─如月さんも生野さんと帰ろうとしていたところに、店を出ようとする如月さんの手首を掴んだ。今日という機会を逃せば、次がないと同じ─。その手首は相変わらず細く、白かった。廉命さん?と、如月さんは振り返り、俺の顔を見上げた。すると生野さんは俺達の状況を読み、既に外に出た雷磨さんと喋りに行った。これをチャンスだと思い俺は、彼女に連絡先交換を申し込んだ。
「あのね、如月さん……」
「れ、廉命さん…?」
「その……連絡先交換しない?」
「………え?」
「いや、その………ダメ、かなぁ?」
─初めて好きな人に連絡先交換を申し込んだ。こんなに人を好きになったのは、彼女が初めてだから─彼女を大切にしたいから──俺は勇気を出した。確かに同じバイト仲間というだけで、深い関係は築けるのだろうか。
─如月さんは頭にはてなマークを浮かべているので、余計に話す理由がなくなった。
「へ………っ?」
「あ、あのさ……その……夜海や生野さんには相談出来ないことだってあると思うんだよ…」
「相談……出来ひんこと?」
「うん…その………生野さんの余命とか」
「っ!」
─それでも俺は、話しながら考える。確かに、生野さんの余命とかは─夜海や生野さん本人に出来る相談ではない─。それに、俺と如月さん以外の人間には見えない、何かしらの"意図"があるのだから。彼女もそのような反応もしたからそうだと思う─のだが。
─如月さんは、瞬きをし、瞳の色を蒼い瞳に変えた。瞳の色を変え、携帯を差し出した。メッセージアプリを開き、友達追加のところを押して、俺が彼女のLINEのQRコードを読み取る。
「……ありがとう」
「…私、毎晩悪い夢見てばかりで、それがどれも生野さんに関連する内容なんです」
「……まじか。今度、詳しく聞かせて」
「…はい」
「いきなり呼び止めてごめんね。お疲れ様」
「おら如月〜!早く帰るぞ〜!」
「はっ…!それじゃ廉命さん、また明後日」
─ちょ──。まだ話していたかったのに、彼女は生野さんに呼ばれ、帰ってしまった。でも───連絡先を交換出来て、拳を握り締めた。やった。好きな人と連絡先を交換出来た─。達成感を感じたのはいつ以来だろうか。よっしゃ、と拳を握っていると、加堂さんが後ろから驚かしてきた。
「よっ。良かったじゃねぇか」
「か、加堂さん……」
「俺も見てたよ…車乗る前に煙草吸えて良かった」
「福吉さん…煙草は程々にと約束しましたよね?」
「福吉さん…雷磨さんまで……」
「本当にすまなかった。そうもしないと、自分から行動しようとしなさそうだし…」
「本当に〜?ほら、廉命もラーメン行くよ。加堂の奢りだし」
─なんと、福吉さんも雷磨さんも隠れて見ていたらしい。肩にパンチされ、加堂さんは良かったな、と言わんばかりでこの進展を誰よりも祝っていた。近くのラーメン屋に四人で入り、加堂さんの奢りで大盛りのラーメンを四杯ぐらい平らげた。そんなに食べても問題ない──。明日は如月さんとは会わないから─。
<へ〜?それで連絡先交換出来たんだ?>
「そうなんだよ……」
<あれだけ人に興味無かった廉命君がねぇ?良かったじゃん>
「お前な……」
<とりあえずLINEはしてみたの?>
「あぁ。なんか、うどんの写真送られてきた」
<あー、舞姫さん料理は上手いからね。料理は>
「確かにな……」
<デートとか…誘ったの?>
─帰宅して二十二時。俺はいちごオレを片手に夜海と電話をしていた。彼女も俺の如月さんに対する恋心を察していたようで、彼女から電話が来たのだ。早速俺は連絡先を交換出来たことを彼女に話すと、夜海は次のことについて聞いてきた。そう─。連絡先交換の次は───デートの誘いだ。─当然デートには誘ってないし、そもそも出会ってひと月も経過していないのだから、いきなりデートに誘うのは違うだろう。
「誘ってねぇよ……」
<夢玖ちゃんとLINE交換もして……デートの次は…告白だろうねー?>
「はぁっ!こ、告白……」
<それとも………告白の前にあれかぁ……その、しちゃいたいよね?>
「〜!」
<とりあえず、自信持ちなよ>
─おやすみ、と夜海は電話を切った。それと同時に、電話の相手が如月さんだったら─と考えてしまう。本当に俺は、如月さんのことを好きになってしまった。はぁ、とベッドに横になり、気付けば目を閉じて、夢の中だった。
『オマエラミンナ…イラナイ。ステル』
『………へ?』
『コノセカイゴトステル』
『…お前、誰だよ』
『ステラレルセカイ、コワシテヤル』
「………はっ!」
「朝か……クソ。嫌な夢見ちまった……ってあれ、如月さんからLINE……そういえば昨日疲れてメッセージ送ってなかったな」
<昨晩、何の動物か分からない何かが、ひたすら捨てられる世界を壊すとか言ってる夢を見ました>
「……如月さんもか…」
─気付けば翌朝の八時。決まった時間にセットしたアラームに起こされ、身を勢いよく起こす。少しスマホを操作してると、如月さんからLINEが来ていることが分かった。なんと、如月さんも同じ夢を見たらしい。これが、俺達以外の人間には見えない、俺と如月さんだけの意図なのだろう。
─スマホを操作し、俺もそれを見たと返信する。今日はアルバイトが休みで、日用品や食料の買い出し、部屋の掃除をして過ごしていたのだが──
「冷凍のいちごとブルーベリー、あと肉と…」
『廉命さん』
「(……如月さんと一緒に住んだら…どうなっちまうんだ…)」
「兄ちゃん、お兄ちゃん……ちょっと!」
「は、え………あ」
「はぁ……あと一歩出てたら万引きしてるところだっよ……お兄ちゃん、何か悩み事でもあるのかい…」
─アルバイト先に近いスーパーで買い物に来ていて、冷凍食品コーナーから冷凍のいちごとブルーベリー、何種類かの肉をカゴを乗せたカートを片手に、もし如月さんと一緒に住んだら─と妄想してしまっていた。カートを動かしてるうちに、このスーパーのパートの中年女性に足止めされ、俺は間違って万引きしそうになった─。
─どうやら俺の如月さんに対する想いは、そこまで来ているらしい。話して間もないのに、もし如月さんと一緒に住んだら、と妄想してしまう。子どもみたいに、お菓子買ってと強請るのだろうか。もし俺達の間に子どもが出来たら─とか、ついつい考えてしまう。
─すると、パートの中年女性が何か悩んでるのかと聞いてきて、俺は勇気を出して話してみた。付き合ってないのに、好きな人と─如月さんと一緒に住むようになったらの話を─。
「お兄ちゃん若いからねぇ……そうかい。バイト先の女子高生に片想いしてるんだねぇ」
「ちょっ……声デカいっす」
「兄ちゃん、だいぶイケメンだし、ガタイも良いしね……子どもとか一緒に住む妄想までしちゃって…青春してるね。お兄ちゃん、大学生?」
「いえ……フリーターっす。でもやりたい事の為に大学行って、彼女を守れる男になりたいんすよ」
「まぁ!甘酸っぱいこと」
─その後、少しパートの中年女性と談笑してから会計してスーパーを後にした。レジ袋を提げて、外を歩いていると──ある人物と遭遇してしまった。そう──その正体は、彼女が如月さんだった。こちらの存在に気付いた俺は咄嗟にカート入れに隠れたつもりだったが、すぐにバレてしまった。
「なんで隠れたん?」
「いやだってその……俺、あの後ラーメン大盛りを四杯ぐらい平らげたんだよ?臭い気にならない?」
「大丈夫です……てか、その体格で隠れようなんて不可やと思いますけど…てか尻尾ブンブン振ってますけど……」
「わんっ!まじか……てか、如月さんは何か買いに来たの?」
「はい!生野さんからお使い頼まれて……」
「あー、だからか。ミルクティーとキウイと玉ねぎ買ってきてってLINE来てたのか……誤送信…」
─まさかの休日に、知り合いと遭遇するとは─しかもよりによって如月さんだなんて─。バイト時の制服姿も、見慣れない制服姿も可愛い─と言いたいところだが、変態扱いされないだろうか。しかも心が思ってなくても体は正直で、好きな人を目の前《如月さん》にすると尻尾をブンブンと振ってるようにも見えるそうだと如月さんが言う。
─確かに、今朝生野さんからLINEが来ていて、その内容が本来如月さんに送るものだったのだが、誤って彼が誤送信していたそうだ。少しでも彼女と一緒にいたい─と思い、俺は買い忘れたものがあるという理由で、彼女の買い物に付き添ったのだった。
……To be continued
閲覧頂きありがとうございました!
コメント、いいね、感想お待ちしております!
次回作もお楽しみに!では。