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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第三章>誰にも分からない、俺と彼女だけの恋。〜希望と舞姫編〜
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初恋ってやつ

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

──病院のベッド。

──窓の外では、雨が細かく降り続けている。


「(……浴衣姿)」


──舞姫は浴衣姿で、そっと俺にゼリーを差し出していた。

──普段の制服姿とは全然違う。

──袖から見える細い手首、肩の線、短い脚─。


──思春期男子の体が、頭じゃなく胸の奥で反応する。


「(あぁ……なんでこんなに胸がざわつくんだ……)」


──心臓が跳ね、頭の中はなんだか熱くなる。

──顔は赤くなってるのに、言葉が出ない。


──指先が触れた瞬間、短いけど確かな衝撃が走った。

──ベッドの上で体がこそばゆく、悶えそうになる。


「(……や、やばい……舞姫……)」


──でも言えない。恥ずかしくて。


──目の前の舞姫は、何も知らないように笑っている。

──その笑顔が胸をえぐる。


──頭の中で、勝手に妄想が膨らむ。

──もし──付き合ったら──?

──夏祭りに行って、手を繋いで歩く。

──浴衣姿で笑う舞姫の肩にそっと頭を寄せる。

──そのあと、帰り道で、手を握りながら、なんて言うんだろう──


──想像するだけで、胸が苦しくなる。

──同時に、心が妙に温かくなる。


──その時、ドアが開いた。


「あなたが希望君……よね?」


──声は落ち着いた女性の声。

──振り返ると、舞姫の姉らしき女子生徒が立っていた。

──中学二年、生徒会役員。制服も整っていて、さっきまでの舞姫とは違う、大人びた雰囲気が漂う。


「ええと、はじめまして……ですか?」

「えぇ。初めましてね」


──まだ少し声が震える。

──希望君、思わず背筋がピンと伸びる。


「……あ、あぁ。俺、生野…希望です」


──中性的な顔立ちの俺が、少し慌てて答える。

──くせっ毛の黒髪、紫の瞳、色白で細身の俺が。

──彼女は舞姫より背も低いが、目付きは舞姫のそれとは違った。


「ふぅん……舞姫がそんなにお世話になってる子なのね」


──愛はじっと俺を見つめる。

──鋭い視線に胸が少し痛む。

──まるで、俺の全てを見透かされている気分になる。


「……あ、あの、よろしくお願いします」


──小さな声で返す。


「よろしくね。舞姫からよく聞いてるわ。私は煌星愛…菱袋中学校の次期生徒会長で、舞姫の姉よ。あの子、自分を犠牲にしてまで希望君のこと、心配してるのよ…ふふっ」

「…そう、ですか」


──その口調は女性的で、優しさもあるけれど、威圧感がないわけじゃない。

──緊張で胸の奥がぎゅっとなる。


──舞姫はベッドの端に座ったまま、少し俯いて、でも微笑んでいる。

──俺の妄想が、一気に現実に戻る。

──心臓はまだ跳ねて、顔も赤いまま。


「(あぁ……舞姫の姉か……怖いけど、何か優しいな……)」


──そんなことを思いながら、ベッドに座る自分を意識する。

──舞姫と向き合うだけで、心臓がぐらつく。


──まだ恋だとは自覚していない。

──でも、舞姫を意識して、体が反応してしまう自分。

──その胸のざわめきと熱が、少しずつ恋の始まりの予感だと、なんとなく理解している。


――――――――――


「ここの述語はー…修飾語は…」

「(はぁ…授業退屈だなぁ……にしても…)」

「えー、国語辞典で教科書に載ってる言葉の意味、調べてー…」


──翌週のある教室。

──窓の外では六月の柔らかい陽射しが、教室の机と椅子を照らしていた。

──授業中、ふと前方を見上げると、黒髪の少年──希望君が座っている。


──中性的で少し小柄な体つき、紫の瞳は窓から差し込む光に揺れる。

──二重寄りの一重まぶたが、真剣にノートに向かっている。

──くせっ毛の黒髪が、少しだけ額にかかっているのも気になる。


「(……ああ、なんでこんなに気になるんだろう……)」


──自分でも驚くほど、心がざわつく。

──目をそらそうとするのに、つい見てしまう。


──授業中の声が遠くなる。

──ノートをめくる音、先生の声、周囲の生徒の鉛筆の走る音。

──全部、希望君の存在に比べると薄れてしまう。


「(恋、特定の人物に強く惹かれ、「もっと知りたい」「近づきたい」と願う、切ない思慕の感情のことか……)」

「(……昨日の病院での顔、浴衣姿……)」


─教科書の開いたページに載ってないのに、国語辞典で恋の意味を調べる。

──胸の奥が熱くなる。

──でも、まだこの気持ちが何か分からない。

──恋、という言葉を使うには早すぎる。


――――――――――


──放課後。

──バスケ部の練習をしていた。

──私は部活に参加しているので、コートに入ると体が温まる。


──ちょうど、希望君がグラウンドの向こう側を通る。

──帰宅部なので、部活は見学らしい。


──雨上がりの光が差し込み、希望の姿が少し湿った黒髪に反射する。

──紫の瞳が、私をちらりと見た気がした。

──その瞬間、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。


「(……なんでこんなに気になるんだろう……)」


──思わず息を止めて、目を逸らす。

──でも、また見てしまう自分がいた。


──バスケ部の仲間たちはボールを追いかけ、声を上げている。

──私の視界は、希望君だけに集中していた。

──小柄な体、少食そうな様子、色白の肌───どうしても守ってあげたくなる衝動に、心がざわつく。


──まだ自覚していない恋心。

──ただ、希望君の存在が自分の胸を、確実に揺らしている。


──帰宅部の彼は、コートの端で小さく手を振る。

──私は、思わず手を振り返した。


「(……やっぱり、無視できない……)」


──心の中で、思わずつぶやく。

──恋かどうかはまだ分からない。

──でも、確かに、私の心は希望君に向かっていた。



――――――――――



「……え、希望君部活入ってないの?」

「うん…病気で運動も控えるよう言われてるからね…かといって文芸部とか希望君興味無いって…」

「………校則では、運動部文化部問わず、部活には引退まで在籍しないとならないって…話なのよ?」

「…それはそうだけど…お姉ちゃん、生徒会の枠は空いてないの?」

「空いてなくはないけど…生徒会も興味無いと思うわよ」


─部活が終わり、姉と歩きながら帰路に着く。

─希望君が帰宅部であるのだが、学校では引退まで部活動での所属が原則であるため、内申点に響くため、私達は悩んでいた。


「まぁ…あの担任の先生も、希望君のこと気に掛けてないしね…うーん…」

「あの子は可愛い顔立ちだけど、美術部とか文芸部とか…想像つかないわね………あ、そうだ」

「えっ?」


─確かに、彼には悪いが、希望君は文芸や美術はやりたがらないだろうと思い、余計に悩んだ。

─しかし、姉はあることを閃いたのだ。


「いい事思い付いたわ……実は顧問の先生が、女子バスケ部のマネージャーを募集するか迷ってるって……つまり、希望君を男子バスケ部の籍に置けば、彼の帰宅部問題を解決出来るわ!」

「確かにっ!明日、話してみようよ」

「そうね…最終的には、希望君次第になるけどね。一か八か、相談してみましょう」


─なんと、希望君を男子バスケ部に籍を置き、女子バスケ部のマネージャーをやってもらおうという話。

─ちょうどバスケ部の顧問の先生が、女子バスケ部のマネージャーを募集するという話を聞いていたのでタイミングが良かったのだ。


「バスケ部のマネージャーにしたい人がいる…?」

「はい。彼は持病で私達のように激しく動くことは出来ません…ですが、女子バスケ部が強くなってきてる以上、彼の力が必要だと思います」

「それはそうと煌星姉……彼も大会に連れていくとなると、食事制限を踏まえた弁当の手配、移動手段の考慮、緊急時…面倒なことが増えるだけだ」

「そんな…っ!」


─しかし、現実は甘くなかった。

─なんと、バスケ部の顧問の先生も、希望君の病気に理解がなく、面倒だと突き返してきたのだ。

─それにしても、何だろうか─この気持ちは。

─希望君のことをまともに知らないくせに、希望君のことを否定されて、一番怒りを感じている自分がいる。


「大体な…煌星妹…お前がバスケ部からいなくなればいいんじゃないか?最近練習中よそ見ばっかだし…そいつがいるせいで動きが鈍くなってる」

「「えっ?」」

「妹に何を…っ!あなた…それでも教師なんですかっ!」

「…ヒック…ぐすっ!」


─更に、私のことまで否定された。

─一方で姉は顧問と対立している。

─私も姉みたいに強い人だったら、こんなことで泣くはずがない。

─でも、それ以前に希望君のことを否定されて、何も言い返せなくて悔しかった。


「それに煌星姉…お前は次期生徒会長だろ?あとバスケ部の主将…それに学級委員長……ついに責任重くて頭おかしくなったか?」

「………えっ?」

「お前を尊敬する人は誰一人いないっ!お前達は俺の奴隷なんだから従「いますよ」

「「えっ?」」

「(希望君……なんで?)」


─職員室内の雰囲気が最悪になり、見ている生徒もざわつき始めた。

─また嫌な目で見られる。

─そう思っていた時に、凄く知ってる声がした。


「…希望君。なんで…?」

「いやぁ…俺日直なんで職員室に用事に…てか先生…二人に謝って下さい」

「お前…どこのどいつだ?さてはこの姉妹とグルなのか?」


─希望君だったのだ。

─体を引きづるように一歩一歩が重く、そして、顔色も少し悪かった。

─顧問の先生は目線を姉から希望君に変えた。


「俺が…この二人にマネージャー推薦されてるやつっすよ」

「てめぇがそうか……面倒事増やしやがって…」

「分かりました。それでは、希望君の補助は私達でやります。それで構いませんよね?」

「俺こいつ嫌い…マネージャーのこと、お前らに相談したのがいけなかったな」

「ぐすっ!ヒック…っ!」

「…黙って聞いてりゃ舞姫と愛さんのことをボロクソに言いやがって…二人はバスケ部の為に、誰よりもすぐに問題を解決しようとしてくれてる…何とも思わないんすか?」


─私が泣いていても、どれだけ理不尽なことを言われても、希望君は顧問の先生とひたすら立ち向かっている。

─二人が私の代わりに言葉を放ってくれてる─私も一歩踏み出さねばと思った。


「…あ、あの…」

「あ…まだいたのか煌星妹…お前はすぐ泣くからダメなんだよっ!」

「………二人のこと、悪く言わないで…ぐすっ!希望君の体調とか、私達で補助するから、それで文句ないでしょっ!」

「舞姫……先生、あなたが発言した内容は全て…職員室にいる全員が聞いてます。もし次舞姫を泣かせたら…校長に話しますが…どうですか?」

「なんだよ急に…脅しには引っかからんぞ」

「それなら、この前の合宿で、先生が生徒の保護者とホテルに入るのを見た写真…校長に見せていいんですよね?」


─さすが姉。一つ年が違うだけで、とてもじゃないが強い。控えめに言って、強い。

─まもなくして顧問の先生が折れ、希望君が正式に女子バスケ部のマネージャーになることが決まったのだ。

─ちなみに後で顧問の先生は、校長先生に自宅謹慎の処分が下されたらしい。

─当然だ。私だけなら良いが、姉や希望君のことまで踏みにじったのだから。



――――――――――


「ごめんね。本当は顧問の先生に理解もらってから希望君に話そうと思ったの」

「あれは仕方ないよ…舞姫があのジジイに悪く言われてムカついたくらいだし」

「…………そう。でも、本当に女子バスケ部のマネージャーになってくれるの?」


─その日のある休み時間、私はまた話した。

─なんと、昨日の帰り道、希望君は姉との会話を聞いていたとのことだった。

─それでも、彼を巻き込んでしまったことに変わりがないので、私は希望君に謝った。


「あぁ…もちろんだべ」

「……何で?」

「……そ、そりゃ…ま、舞姫をより近くで見れるから。応援したいと思うのは、当たり前だし……」

「ふふっ。顔真っ赤………私もね、さっき希望君が悪く言われてイライラしたの…おあいこだね」


─しかし彼は、女子バスケ部のマネージャーになることを承諾してくれた。

─その理由を聞くと、彼は耳まで顔を赤く染め上げていて、その顔が子供っぽくて可愛かった。

─窓からさす夏の日光に、彼の白い肌と紫の瞳が、透き通るように映し出してくれた。


「(………私、恋しちゃったんだ…希望君に)」


─その夏の日光と雲一つもない青空が、私達の初恋を表してるかのようだった──。





……To be continued

閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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