祝・初恋
この度は閲覧頂きましてありがとうございます!
「はーい。授業始めるわよ……stand up」
「先生っ!今日下着何色っ!」
「教師に向かってセクハラ発言なんていい度胸ね…生徒指導よっ!」
「愛先生放課後保健室で会おうね〜」
「………はぁ…最近の子ってませてるのね…まあいいわ。教科書開いて……この前の接続詞の復習するわよ。ここは今度の期末テストにも出すので覚えておくように」
「え〜、愛先生のことテストに出ないの〜?」
「pardon?」
「例えば愛先生のスリーサイズとか過去の恋愛とか!」
「………もう、生徒指導が必要ね……あなた達、私と生徒指導室に行くわよ…他の皆は自習しててね」
……ある日の学校。私達の担任である愛先生は英語を担当している。当然字が綺麗で板書の内容や説明も分かりやすく、分からないところは優しく教えてくれる。普段は叱ってばかりの愛先生の横顔を見る度、本当の美人はこういうことだと分からされるような気もする。もちろん発音の声も美しい…のだが、男子生徒からセクハラ発言をされることも多い。これは後で知ったのだが、本来愛先生はこのクラスの副担任になるつもりだったのだが、本来の担任の先生が退職してしまった為、代わりに愛先生が私達の担任になったらしい。
「ふう…戻ったわ……全く。失礼しちゃうわね」
「あ、愛先生…ちょっと分からへんことが…」
「あら夢玖ちゃん。ここの動詞はね…」
「……やっぱり愛先生の説明は分かりやすい。ありがとうございます」
「ふふっ。良いのよ……は〜、猫吸いたい」
「にゃ…」
「愛先生、普段厳しいのに猫好きとか……すっごい可愛い…」
「ありがと。急だけど、次の関係代名詞に移ります。教科書開いて……それじゃあ、影食さん読んでみて」
教師は基本激務で、残業だって珍しくはない。それに愛先生は新米教師で一つのクラスを受け持っているので、生徒の私達から見ても負担が大き過ぎると思う…。それに、実は愛先生が大の猫好きだと知ったのは彼女と出会って数日後のこと。
「うぅ…セクハラ発言、やっぱり辛い……」
「愛先生……流石に親呼んだ方が良くないですか?このままだと身体触られますよ?」
「……しかも仁愛この前、男子が愛先生のブラのホック外そうとしてるの見た…」
「本当に辛いわよ〜……」
「……愛先生?」
「にゃによ〜?」
「「何で夢玖ちゃん吸ってるんですか?」」
「猫吸いってあるでしょ?もうこの子本当に猫ちゃんみたい……希望君説得して連れて帰りたいわね」
「それじゃ先生捕まっちゃうじゃん……あ、それなら愛先生のお家でお泊まり会しない?」
「賛成!愛先生の私服姿見たいっ!」
「分かる!すっぴんとか私生活見たい!」
「私は……愛先生のお膝で寝たい…ふへへっ」
「そうね〜?今度家来てみる?」
「「やったー!」」
「にゃ…あ……愛先生、やり過ぎやで…」
先程の鬼の形相をしていたとは思えないほど、後ろから私を抱き締めては顔が少し蕩けている。毎日されてることなので流石に慣れてはいるが、教師に猫として可愛がられるとは…。すると仁愛や夜海が提案したことで今度愛先生の部屋でお泊まり会をすることになった。そしてその日の学校が終わり、アルバイト先に行き、働いてる時に…例の人が少し変だった。
「俺ちょっと裏で作業してくるから、廉命は如月にシューズの展示品の作り方教えてやってくれ」
「わ……分かりました」
「(何でそんなに小さくなっとるん…?全然小さくなってへんけど……注射怖がっとるわんちゃんみたい…)」
夕方十八時。如月さんが出勤して間もない頃、生野さんは数枚の書類を片手にバックヤードに行こうとし、俺は如月さんにシューズの展示品のか作り方を教えるよう言われた。彼がシューズコーナーを一度去ろうとする時にこっそりと耳打ちされた。
「如月と二人きり…頑張れよ」
「はぁっ!別に…何で俺が……如月さんなんか…どうせただのガキっすよ」
「本当は違う癖によぉ〜?それじゃ頼んだよ」
「ちょっ……き、如月さん…シューズの展示品の作り方教えるね……」
俺が彼を引き止めようとすると、生野さんは既にシューズコーナーから去っていた。俺の恋心はそんなに分かりやすいものなのか…。だが、これはいい機会なのかもしれない……何故なら今のシューズコーナーには俺と如月さんしかいないのだから。その事実だけでも舞い上がりたい気持ちでいっぱいだが、ここは先輩として仕事を教えねば…。展示品が欠けている品番のシューズを取り出し、実践しながら彼女に説明をした。
「展示品は左足だけ出して……タグとかはショートピンで括りつける」
「はい……」
「あとは在庫があるとこに合わせて置けば大丈夫。そんなに難しいことじゃない…如月さんもやってみようか」
「はいっ!」
俺はもう一品番のシューズを箱ごと彼女に渡し、如月さんを後ろから見守っていた。
「中のあんこを除いて……タグをショートピンで括って……あとは…元の箱に展示中のタグを付けて……痛ッ!」
「如月さん…大丈夫…?」
「大丈…夫…です。血出ちゃった……」
「絆創膏無いな……とりあえずティッシュで血拭いてて」
「はい……ん…指に深く刺さったから血止まらへん…」
「(可哀想なはずなのに……なんかゾクゾクする)」
すると如月さんは、展示品のタグを箱に付ける際に必要なバノックの針を指に刺してしまい、彼女の指から血が流れ出てしまった。彼女は急いでティッシュで止血するが、深く刺さった為血は止まるどころか溢れていた。必死に止血する如月さんの横顔を見て、何かいやらしい事を想像してしまった。それと同時に…その流れ出る血をこの舌で舐め取りたいと思った。その時には客はほぼ来ていなかったので、俺は如月さんを休憩室に連れた。
「まずは傷口を水で洗い流そうか」
「痛いの嫌やぁ……」
「子どもじゃないんだから、バイ菌が入ったらどうするんだ。手を出しなさい」
「いやッ!」
「とりあえず……っ」
「い、痛い……!」
「ほらおしまい。消毒して絆創膏貼るよ」
「消毒も痛い………」
「しかし何でこんなに血が止まらないんだ?」
休憩室の棚から消毒液と絆創膏を取り出し、まずは如月さんの血が出てる指を水で洗い流した。咄嗟に彼女の手首や指を掴んだわけだが、これがいけなかった…。水で傷口を洗い流す時に眉を顰めては苦悶の表情を浮かべた。が、洗い流せば血で水が紅く染まっているだけ…。俺がその正体に頭を悩ませていると、喫煙所から福吉さんが出てきた。
「何してるんだ?折角のタバコ休憩が…」
「それどころじゃないんすよ…如月さん、血が止まらないんです!バノックで指を深く刺してしまって」
「よしそれなら俺に任せて。まずはガーゼとか……俺のハンカチで止血して…傷口は心臓より高い位置に保たせて……ほら止まった」
「ほんとだ……」
「あとは消毒して…包帯で傷口を保護して…ほら」
「わぁ〜!流石福吉さん!ありがとうございますっ!」
「お安い御用さ。ちょうどそのハンカチも使わないからね」
「福吉さん自身で買ったものじゃないんすか?」
「あー、これね……元カノからのプレゼントなんだよ……最後に役に立って良かった。暫く滲むかもしれないけど、舞姫ちゃん傍にいるから大丈夫だよね」
「「(なんかごめん……っ!)」」
彼は如月さんの指を見てすぐに気付き、ハンカチと包帯、消毒液を使い、如月さんの指を手当てした。流石元研修医…。すぐに血が止まり、如月さんも一安心していたが、男を見せようとした場面を奪われてしまった……。俺の表情で察した福吉さんは休憩から戻る振りをして俺に耳打ちしてきた。
「廉命……好きな女の子の手当てぐらい、出来るようになった方がいいよ」
「……なっ!」
「は〜、あ、そういえばさっき眼鏡のパーツの問い合わせの電話来てたんだったなぁ…行かないと」
俺達がシューズコーナーに戻ると、生野さんが戻っていた。
「如月、さっき休憩室から聞こえてたけど、指大丈夫?」
「大丈夫です……福吉さんのお陰で血止まりました」
「流石福吉さんだなぁ……廉命、どんまい」
「はぁっ!そ、それは…この如月さんが…ぶ、不器用だから…っ!」
「そう言って…思いっきり如月の手首掴んでた癖に…」
どうやら先程の会話は聞こえてたらしく、生野さんの耳打ちに顔がボンッ!と赤く染まった。確かに俺は……如月さんの手当てが出来ていなかった。それに……別に如月さんのことなんか…好きとか、そんな風に思ってないのに…。すると、如月さんは先ほどの作業に戻り、終えた。彼女の小さな手元を見る。確かにさっき握った時に感じた柔らかさと冷たさ、華奢さ…皆で粉ものチェーン店で見た、気持ちで変わる瞳の色…。いや、俺は如月さんの事を…別に恋愛的に見ていない…。でも、彼女のことを考えるだけで心臓がドキドキうるさい。嫌だ……この気持ち、知りたくない。すると閉店が近付く時になる音楽が館内中に響いた。
「お…もうこんな時間か」
「だなぁ……いやぁ見てるだけで甘酸っぱいわ」
「なッ…!」
そしてスポーツ用具店は閉店し、この日の仕事は終わった。打刻して荷物チェックも終え、店から出ようとしたら……加堂さんに捕まった。何かと思うと、如月さんのことだった。
「な……なんか?」
「お前……如月ちゃんのこと好きだろ?」
「はぁっ!あ、あれは……後輩としてっ…!べ、別に如月さんのことなんか…」
「生野………やっぱこいつクロだわ……」
「クロねぇ……如月のどこを好きになったんだよ?」
「え、ええと………瞳と…全部です」
「結局全部じゃねぇか。自分に素直になれ」
「こう見えて加堂さん、恋愛相談のプロだから!」
やっぱり、加堂さんも同じことを言ってきた。俺が如月夢玖のことを好きだと言うことを…。確かに如月さんのことを考えるだけで心臓がドキドキとうるさくなる…。なんならあの日から四六時中如月さんのことばかり考えている。あの時見た、緑とオレンジの瞳とは違う……蒼と空色の瞳と…好きなものを目にした時の…緑と桃色の瞳…それを目にした俺には、守ってやりたいという思いが芽生えていた。
「確かに、夜海ちゃんや仁愛ちゃん、凪優ちゃんのお陰で如月は少しずつだけど明るくなったよね」
「あぁ。それで、廉命…どうなの?」
「………確かに如月さんは…可愛いし、その…悪くはない…っす」
「こいつ認めたぞ……よし、赤飯!今夜は赤飯だな!」
「なんで赤飯……?」
「廉命の初恋祝いっ!二年前の廉命は……紅い瞳が死んでいた。でも今は……如月の姿が紅い瞳に映っている」
「赤飯ねぇ……お前めちゃくちゃ食うから六合とかで足りるか?」
「じゃあ俺追加で四号の赤飯持ってくるわ」
「マジか……」
認めたくなかったが、俺は自分の恋心を認めた。如月さんの全てに魅了され、生まれて初めて好きな人が出来た…。後日、本当に生野さんや加堂さんが大量の赤飯を持ってきて、食べ切るのに凄い苦労した。
……To be continued
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次回作もお楽しみに!では。