家族というものは
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「よし、これでバッチリね!」
「ん…舞姫さん…張り切り過ぎてへん…?」
─夜海と仁愛との思い出を作った後の週末の話。
─この日は院長が、私が煌星家の仲間入りをしたお祝いとして、冰山の高級イタリアンを予約していた。
「よし…お化粧するから、目…閉じて?」
「……んにゃっ」
─夕方五時。生野さんは仕事中である。
─私は舞姫さんのミニワンピースを借りて着ていて、彼女が私の顔に化粧をし始めた。
─柔らかい毛やスポンジの感触を感じながら、自分の顔の仕上がりが気になっていた。
─なぜなら、「普通の女の子」なら私ぐらいの歳の女の子は、皆化粧品は必ず持っているのだから。
「(私…普通の女の子に、なれるんかな…)」
「うわぁ…夢玖ちゃん睫毛長い!お肌も真っ白だね」
「(肌白い…睫毛……女の子としての、ええところなんか?)」
─顔には沢山の液が塗られ、それをひたすら柔らかいスポンジで伸ばしたり、粉を目元や頬に塗ったり、筆で唇に塗ったりされた。
「……よし、夢玖ちゃん…目開けていいよ」
「ん…………はっ!」
─目を開けると、鏡には"女の子"になった私が映っていた。瞼に塗られた赤、頬にはバーガンディ、瞼には光ってるラメが塗られていた。
「うわぁ…鏡に映ってるん…ホンマに私なん?」
「そうだよ〜?夢玖ちゃん、本当に素材がいいからお化粧楽しかった!あ、凪優ちゃん?だっけ…?」
「はい。バイト先の友達やで。多分、もう少ししたら来ると思う。LINEも来とった」
「そう。よし…夢玖ちゃん、髪の毛も…変えてみよっか!」
─これが、化粧という魔法らしい。
─私が気にしてる肌の赤みや目元のくすみ、乾燥も全て解消されていて、何より"普通の女の子"になれていたことに心が踊った。
─化粧道具を片付けると、舞姫さんは何かのコンセントを繋ぎ、電源を入れていた。
「舞姫さん、その電源入れとるんは何や?」
「これはヘアアイロン、これはストレートアイロンで、髪をまっすぐにしたい時や前髪とか顔周り巻くのにも向いてるの」
「ストレート…アイロン?あ、服にシワ失くすやつか」
「そう!寝ぐせ直しにも使えるよ。希望君も寝ぐせ酷い時は使ってるの」
─ヘアアイロン。
─これは、熱を使って髪をスタイリングする美容家電のことらしい。
─他にも形状が違う種類もあり、ヘアスタイルを自由自在に変えられるのだとか。
「ひとまず全体をストレートにして…三つ編み〜。これでも凄い可愛い…私の妹って感じがする…!」
「義妹やろ?熱で通しても…この猫耳、頑固やんな…」
「うん…。本当に猫耳あると思っちゃうよ…」
─ストレートアイロンで髪全体をストレートにしたことで、寝ぐせやふんわりとした髪質は落ち着いた。そういえば─仁愛の髪は艶々で、私や夜海の髪はふんわりとしていることを思い出した。
「なぁ舞姫さん、仁愛ちゃん…髪艶々やねんけど、髪って…人によってちゃうん?」
「そうだよ〜。希望君も柔らかい髪質だからうねりやすいし、私やお姉ちゃんもパサつきやすいの。でも夢玖ちゃんは猫っ毛だよね!」
「猫………」
─なんと、髪質は人によって違うらしい。
─そういえば、この前生野さんと買い物してる時にシャンプーコーナーで色々書いてあったような─。
「うわぁ…もう可愛い〜!写真撮っていい?」
「かまへんけど…愛先生来たら…私のこと離さんやろうな…」
─髪も整い、荷物を整理してると、マンションのインターホンが鳴った。
「凪優やない…?出るで」
「ありがとう。私も行く〜!」
─玄関を開けると、ワンピースを着て雰囲気が変わった凪優がいた。
─私達は、彼女を中に入れ、少しお茶タイムにした。
「えっと……初めまして。紡木凪優です」
「こちらこそ、初めまして。夢玖ちゃんと希望君からお話聞いてるよ。私は煌星舞姫。希望君とお付き合いしてるの。ちなみに看護学生で…INFP。よろしくね」
「私はINTPです。その…舞姫さんのお父さんが、夢玖を養子で引き取ったと聞いて…」
「うん。最初は希望君がこの子を連れてきてね、お姉ちゃんとお父さんにも相談したの。それで、お父さんが養子にしたいってね…」
─新しいカモミールティーを淹れ、お供にはチョコサンドクッキー。
「それで、舞姫さんと夢玖は義理の姉妹ってことか……」
「うん…私にはお姉ちゃんもいるから、義理の三姉妹って感じかな」
「舞姫さんのお姉ちゃん…どんな人なんですか?」
「お姉ちゃんはね…英語教師をしててね、夢玖ちゃんの担任でもあるんだよ。でも怒ると閻魔大王並に怖いから、生徒指導担当でもあるんだ。お姉ちゃん、可愛いし、怒ると生徒指導担当なのに、ピーマンや辛いもの…特にわさびが苦手なの…」
─カモミールティーの暖かさと、チョコサンドクッキーの甘さに、私は心が落ち着いた。
─多分、煌星家が揃ったのは焼肉の時以来で緊張してるからか、それとも初めての高級イタリアンだからこそ緊張してるからだろうか。
「夢玖ちゃん、大丈夫。イタリアンってね、すっごく美味しいの!ピザとかパスタとか…夢玖ちゃんはたこ焼きとかお好み焼きの方が好きだよね…でも、食べたら頬っぺ落ちると思う!」
「ピザ…パスタ……ジュるっ。たこ焼きとはまたちゃう粉物やな…」
「夢玖…イタリアン初めてなんですか?」
「せや。アクドとかシスド、フタバとか今まで行ってことなかってん…オッドアイで…出禁にされてんから…」
─その後三人でお茶を堪能し、私達は待ち合わせ場所へ向かった。
「でねでね、この舞台が…」
「凪優…こういうのでも、舞台の話なんやな…でも、よう見ると一人おらんだけでこんなにちゃうんやなぁ…!」
「(良かった…仲良しで……そういえば、お姉ちゃんも…夜海ちゃんに仁愛ちゃん、お父さんも乗せて待ち合わせするって言ってたよね)」
─舞姫さんが運転し、冰山駅前で車を停めた。
─車から降りると、隣に愛先生の車が停車して、夜海や仁愛、院長や愛先生とも合流した。
「あらっ!夢玖ちゃん……なんて可愛いのよ…天使?あなたは天使?You are Angle?」
「愛先生…落ち着いてにゃ…」
「うわぁ、この人…先生の妹さん?」
「そうよ〜?舞姫っていうの。看護学生で、今年看護師になるのよ?料理上手で可愛くて…自慢の妹なの!」
─そういえば、仁愛と夜海は、舞姫さんと初対面で、凪優と愛先生、院長が初対面だったことを忘れていた。
「初めまして…お姉ちゃんがお世話に……お姉ちゃん、怖いよね?」
「はい!もう愛先生が怒ると学校全体がピリピリするくらい…」
「大袈裟よ…凪優ちゃん、初めまして。夢玖ちゃんから話は聞いてるわ。よろしくね」
「うわぁ…愛先生…舞姫さん……美人…!」
「うんうんっ!それに…二人とも…すんごいたわわ…」
─だが、すぐに打ち解け、私達は院長の案内により予約してたイタリアンに向かった。
─そこは冰山駅前のホテル内にあるレストランだった。梅田のそれより規模は小さいが、場所を目の前にすると、緊張感が高まった。
「夢玖ちゃん…イカ耳になってない?」
「イカ…!」
「如月君は海鮮が好みだから、ペスカトーレも出るからな。私が色々考えたんだ」
「院長…おおきに」
「そうそう。帰りに、希望君にもお土産買ってこようよ!」
「まあ、飯を食いに行くんだ。緊張することはないぞ」
─院長が受付を済ませると、店員に席を案内された。
─席に座ると、私達の卓に次々と料理が運ばれた。
「よし…まずは……如月夢が煌星家に仲間入りした記念に…乾杯っ!」
─ピザや海鮮がたっぷり乗ったパスタ、生ハムのサラダなどが卓に出されていた。
─チーズや海鮮、トマトの匂いが鼻腔をそそり、まるでご馳走そのものだった。
─みんなで乾杯し、まずは一口食べてみた。
「ん〜!チーズめっちゃ伸びるやん!うんみゃ〜!」
「そうだろそうだろ。タバスコで味変するのも美味いぞ」
「あ、仁愛タバスコ掛けよ…って、院長お酒…飲んでますよね?」
「安心しなさい。今日は早番で、明日は有給取ってるからな。娘達との時間の余韻に浸りたくてな…」
─今まで、生まれ持ったオッドアイが原因て、ほとんどの飲食店を出禁にされていた。
─だから、イタリアンも初めて食べた。
─今までは、たこ焼きやお好み焼き以外美味しい料理を知らなかった私が、異国の料理にも魅了されるとは思ってもいなかった。
「そうそう。このペスカトーレね…タコが入ってたから夢玖ちゃん絶対気にいると思ってお父さんに提案したの!今度お家で作ってみようかな…希望君も食べれるし」
「トマトと海鮮…お肌にもいいから最高よね」
「うんうん…仁愛、タバスコと鷹の爪を大量に掛けて食べるの好きー♡」
「ほう…松寺君…そんなに辛いものを摂取して、腹は痛くならないのか?」
─色んな料理に夢中になって、腹も胸も満たされていった。
─普通を知らない私を生野さんが見つけてくれ、世の中の普通を教えてくれた。
─そして、家族という存在も、友達という存在もくれた。彼には感謝してもしきれない。
「茄子のラザニアも美味しー!夢玖ちゃん、あーん…」
「ゆ……んにゃあ〜!」
「舞姫ずるい!私も…夢玖ちゃん、季節のフルーツのカプレーゼよ…あーん…」
「フィガートも美味しい!」
「紡木君はレバー食えるのか…」
「はい。レバー大好きなんです!」
「渋いな…影食君は酒の摘みのようなものを…」
─初めてのイタリアン、そして普通の家族─。更には友達も傍にいる。
─私は、嬉しかった。
「私、こう見えて酒豪なんですよ…二日酔いとかなったことないんです」
「ほう…だが飲み過ぎには注意だ。医師として、肝臓が心配だ」
「お父さん…お父さんもお酒飲んでるから、説得力ゼロだよ?」
─そして、デザートにはティラミスやジェラートが運ばれ、私達は心もお腹も満たされた。
「美味しかった〜!」
「院長、本当にありがとうございました!」
「娘に友人が出来たら呼びたくなるに決まってる。礼はいらん。それに如月君…」
「はい?」
「これからも…何か困ってることがあればすぐに相談しなさい。私達は、君の味方だからな」
「……はいっ!」
─余韻に浸りながら、皆で冰山駅内を歩く。
─最後に生野さんへお土産を買って解散した。
─後で、愛先生からLINEで送られた写真には、すっかり煌星家の一員になった私が映っていた。
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「ただいま」
「お帰り。如月…たらふく食ってきたか〜?」
「はい。たこ焼きやお好み焼き以外にも美味しいもんあるんやとびっくりでした」
「それは良かった……でもお前は、たこ焼きやお好み焼き以外にも美味いもんが沢山あると知った方がいいぞ。まあ持病で色々食えない俺が言うのもだけど」
─マンションに帰ると、生野さんが出迎えてくれた。
─事前に私達がご飯会に行くと話してたので、彼は加堂さんや福吉さん、盾澤兄弟と仕事終わりにラーメンを食べに行ったのだとか。
「希望君これお土産!たまたまたまたま見つけて、希望君好きそうだったから買ってきたの!夢玖ちゃんと見つけたんだよ?」
「お、ありがとう!キウイの香りのスクラブ欲しかったんだけど、中々見つかんなかったんだよ!ありがとなぁ二人とも!」
「ううん。あ、今日食べた料理が凄く美味しかったから、今度再現してみるね!」
「おー!めちゃくちゃ楽しみだな」
「(もし…生野さんと出会えてなかったら…家族っていうものが、分からへんままでおったな…)」
─お好み焼きやたこ焼きが一番美味しいが、それら以外の味も知りたいと思った。
……To be continued
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