鎖のシンデレラ
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『あいつ、自分が可愛いからって調子乗り過ぎ』
『分かる…しかも気遣ってさ…本当に面白くない』
『…てかあいつ、鎖骨に刺青あるけど、ヤクザかなんかじゃね?家庭環境ヤバそう〜』
「……………」
「…なちゃん…仁愛ちゃんっ!」
「あ、ええと…何の話だっけ?」
「……仁愛ちゃん、大丈夫?」
「うん…」
「やっぱり…例の噂のこと心配だよね…」
─霜月に行われた、大学の文化祭。
─同じ学科の皆と一緒にやった屋台にステージ発表、ミスコンなど楽しい思い出が沢山あった─。
─だが、私が納得出来ないものがあったのだ。
「…どうしようか…」
「うん……このまま噂広まったら、就活難しくなるよ…」
「そうだよね……仁愛ちゃんには何の罪もないのに…」
─そう。幼児未発達科学学科にて、鎖骨に刺青のある私にはヤクザが関係してるという噂が広まってるということだ。
─学園祭が行われる二週間前の出来事だった。
――――――――――
『クレープ……仁愛、材料費皆から徴収するね』
『うん…私は看板やるね』
『ありがとう…お願い』
『…ッチ…あの刺青女が何で一軍のうちらがいるのに仕切ってるわけ?』
『ほんとムカつく…』
─学科ごとの出し物を決め、その準備に取り掛かっていた。
─気付けば人前に立ち、材料費の徴収や当日のスケジュール作りを担っていた私が気に入らず、同じクラスのある女子二人は、私をターゲットにした。
─月日は流れ、文化祭当日まで一週間切っていた。
『おう…!さすが仁愛ちゃん…』
『胸キツいなぁ…でも夜海ちゃんのヘアセットと髪飾り、センス良い!ありがとう』
『松寺さん綺麗だなぁ…』
『なんか歳上の彼氏もいるらしいぞ……まあ松寺さん、読モもやってるしな』
─この日はミスコンに向けて、歩き方などを練習していたのだが、そこからある女子二人は、私に対する偽りの噂を広めたのだ。
『大変っ!仁愛ちゃんが…ヤクザと縁があるって噂が…』
『嘘…』
『ねぇ……事が大きくなる前に、何とかしよ?』
『ううん…ありがとう。ここは仁愛の責任だから』
─その噂が広められてから、私には嫌な視線が度々向けられていた。それに、隣を歩いてる夜海ちゃんに、本当のことを話すと大変な事になってしまうため─まだ話さなかった──。
『実は仁愛……ヤクザと暮らしてるの』
『えぇっ!ほ、ほんまなん…?』
『うん…実は仁愛ね…お母さんが借金残して蒸発してね…お父さんとお姉ちゃんが働いて返してた…でも仁愛も力になりたくて、未成年なのに水商売してた……ぐすっ』
『…仁愛ちゃん…』
『だから、仁愛がヤクザと暮らしてるのは事実だし、例の噂に関しては、何も言えないの』
『…………』
『(…まあヤクザと暮らしてるって…隠してたんだもん…友達辞められて当然か)』
─そして、文化祭前日─仁愛は皆に打ち明けた。─嫌な予感がして、もし離さないでいたら─この友人関係が終わると思ったから。
─打ち明ければあとは嫌われて構わないと思って、勇気を出して話したのだ。
『ぐす…よう頑張ったなぁ…友達辞めるわけない…やんかぁっ!』
『そうだよ…っ!仁愛ちゃんは…大切な友達なんだから』
『仁愛ちゃん…私も仁愛ちゃんに出会えて嬉しい。ずっと友達でいたいと思う……よく一人で抱えてきたね…辛かったよね』
『うん…ありがとう…ぐすっ』
『…………うちのスポーツ健康化学科でも一部だとその噂は広まってる…』
─でも、夢玖ちゃんも夜海ちゃんも凪優ちゃんも廉命さんも、仁愛の過去に顔色を変えなかった。
─刺青とピアスの理由─そして壮絶な過去を受け入れてもらい、学園祭当日を迎えた。
『えー…福島大学ミスコンテスト…優勝者は………エントリーナンバー七番、幼児未発達科学学科、松寺仁愛さんですっ!』
『(嗚呼……視線が痛い…っ)』
─ミスコンで私は優勝し、視界の学生からマイクを受け取り、一言を話す。観客席の方に目線をやると、例の女子生徒二人は笑っていた。
─一通り話し終えると、観客席にいた学生が、ステージに向かって、叫び出した。
『うい、ヤクザ娘の優勝だーっ!』
『ヤクザ…?あの子が…?』
『あの刺青…怪しいよね?』
『中学でキャバ嬢してたんだってなぁ!松寺お嬢様よぉっ!』
『え…嘘』
『大の男好きで、あの容姿で男誘ってんだよ』
『(……なん、で…?)』
─あっという間に会場内はザワザワと騒いできて、聞こえるのは私への誤解と、誹謗中傷の声だけだった。男好きだの、ヤクザ娘だの─どれも酷い発言だった。
─一気に敵の数が増え、私は腰を抜かしてしまった。
─しかし、隣にいた夢玖ちゃんだけは違った。
─彼女は視界の学生からマイクを奪い、話した。
『ちょっと落ち着いて下さいっ!』
『刺青があるだけで……彼女が何をしたと言うのでしょうかっ!』
『え…如月さん?』
『何あの子…オッドアイで怖い…』
『彼女の刺青は……彼女が愛した家族の……遺した証なんですっ!外見だけで…人としての価値は、決まるのでしょうか!』
『夢玖ちゃん……』
『私はそうは思いませんっ!彼女がこのミスコンで優勝出来たのは…彼女の容姿だけでなく、誰よりも心も美しかったからだと思いますっ!』
『(……夢玖ちゃん…なんで……?)』
『それに……彼女がヤクザと暮らしてるという噂を広めた犯人の事が、私は分かりますっ!』
─なんと、マイクに向かってアドリブのように演説を始めたのだ。
─当然夢玖ちゃんに対する誹謗中傷の言葉が矢のように降ってきた。それでも彼女は話し続けた。
─彼女の合図と共に、廉命さんと夜海ちゃん、凪優ちゃんがステージに現れ、その噂について説明を始めたのだ。
『彼女はヤクザの娘ではありませんっ!それに…彼女はずっと嫌がらせを受けてました…っ!スクリーンをご覧ください』
『え…嘘…松寺さんの教科書ボロボロに…』
『酷い……可哀想』
『仁愛ちゃんは……嫉妬により変な噂を広められ、とても辛い思いをした…友人として見過ごすことは出来ません』
『なので…私達がこの場を借りて…松寺仁愛に罪はないということを、証明します。彼女は今…恋人と同棲しており、毎日亡き家族にお線香を上げてます。それに彼女は…恋人一筋なので浮気はしません…だから、彼女に罪はありません』
『(……皆)』
─そして、私への嫉妬により噂を広めた例の女子二人はこの後、退学処分となり、ミスコンで私と夢玖ちゃんを誹謗中傷してた人達にも、それなりに重い処分が下された。
『……ねぇ夢玖ちゃん』
『んん〜?』
『なんで…あんなことしたの?』
『友達やから……助けるんは当たり前や。私な、生野さんに教えられてん…友達がこまってたら助けろって』
『……そっか』
─学園祭が終わり、片付けもひと段落。
─宿の窓から冬の夜空を見上げると、星が静かに瞬いていた。
『……ふぅ、やっと落ち着いたね』
『うん…仁愛ちゃん、今日のこと、本当に頑張ったな』
『ありがとう…でも、皆がいてくれたから、仁愛、大丈夫だった』
『それにしても…あの騒ぎのあとに、皆が謝りに来てくれたの、びっくりしたよね』
『うん…なんか、ほんとに救われた気がする』
─湯気の上がる大浴場にて、皆で肩までお湯に浸かる。
─温かい湯の中で、今日は緊張や不安で縮こまっていた心も、少しずつほどけていく。
『ねぇ、仁愛ちゃん』
『ん?』
『胸のハリ…お湯に浮いてる感じ、少し見せてもらってもええ?あれからまた大きなっとる…』
『えぇっ…は、恥ずかしいよ…ふふっ』
─ふざけ合いながらも、仲間との距離がぐっと近くなる。
─その夜、宴会場でご馳走を囲み、笑顔と笑い声に包まれる時間。
─福吉さんや頭たちが用意した美味しい料理を食べ、ブランマンジェの甘さにほっとする。
『仁愛ちゃん、髪下ろしてもめっちゃ美人やわ』
『浴衣も綺麗…でも仁愛ちゃんの魅力には勝てないね』
『ありがとう…皆と一緒にいて、やっと落ち着けた気がする』
─こうして、誤解や騒動のあった日も、友情と信頼に支えられ、温かく締めくくられた。
─そして、学園祭を終えた後の静かな夜は、彼女たちにとって小さな幸せの証となった。
――――――――――
「今日の授業も頑張ろ…ふわぁ」
「保育実習もあるもんね…」
「うん…子ども可愛いしね」
「松寺さんいるっ!」
─学園祭が終わり一月が経過した。
─冬休み前の大学にて、私達はいつもの大学生活を送っていた。すると見知らぬ多くの学生が、私の教室前に来た。
─当然驚いたが、夢玖ちゃんと廉命さんが来たことにより、察したのだ。
「松寺さん…本当にごめんなさいっ!俺達…松寺さんのこと誤解してた…」
「もういいの。分かってくれて嬉しい」
「松寺さん結構泣いてたって如月さんから聞いたから、その……俺達から!」
「これは…プルダック麺にハバネロペースト、デスソースに香辛料詰め合わせ…」
「日出に、松寺さんの好きな物を聞いたら、激辛の物だって…」
─なんと、スポーツ健康化学科の学生達が、私のところにわざわざ来て、誤解してたことを謝りに来たのだ。
─お詫びとして激辛のものを受け取ったのだ。どうやら夢玖ちゃんや廉命さんに、私の好きな物を聞いて選んだとのことらしい。
「てか、松寺さん身近で見たらめっちゃ美人じゃんっ!スタイル抜群っ!MBTI何?」
「ESFJ、だけど…」
「おおっ!松寺さんにピッタリ!てか目もぱっちりしてるし肌も凄い綺麗…脚長い…いいなぁ」
「影食さん、だっけ?如月さんにおつまみ好きって聞いたからこれ、どうぞ」
「うわぁ…ありがとう」
「おらお前ら…俺達次の授業バスケだぞ…仁愛ちゃん、うちの奴らが騒いでごめんな。夜海も」
「ううん…日出夫妻、授業遅れないようにね」
「夜海ちゃん…もう。仁愛ちゃん、もう大丈夫やから」
─シンデレラのように、辛かったあの時の魔法も解け、学園祭は楽しい思い出となった。
─来年で大学生活は終わる。その門出を出たら─福吉さんという王子様が、私を待っているのだから。
─鎖骨に掘られた鎖の刺青が、過去の自分と今の自分を繋ぐ証のように感じられた。
─辛い過去も、誤解や嫉妬も、今こうして仲間や恋人に支えられて笑える力になったのだと、静かに胸が温かくなる。
……To be continued
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