似た者同士
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─ユークパークでダブルデートを終え、俺達は煌星家の自宅に来ていた。
─どっさりと食材を買い込み、四人で調理に取り掛かった。
─煌星家─つまり舞姫と愛さんの実家はとても広く、キッチンも広いわけだが、大人四人が入ると狭く感じる─でも、それが心地良かった。
「お姉ちゃん、今日お父さん帰ってくるんだっけ?」
「えぇ。最近お父さんお疲れ様だし、私達がご飯作って労いましょう」
「お父さん…生活が荒れつつあるし、多忙でご飯食べれてないからね…」
─俺達が買ったのは、鰻や赤身の肉など、疲労回復に効果がある食材だった。
─愛さんが器用に包丁裁きをし、雷磨が切られた食材に下味を付ける─。その二人の左の薬指に光る指輪が、彼らの愛を輝かせていた。
「えぇ…赤身のお肉にレバー…これで精を付けて欲しいものね…あとケーキ」
「院長って…普段何食べてるんですか?」
「お父さんね……三食甘いものなの…ホールケーキとか食べてるし、飲み物はいちごオレとかよ?それでお腹以外太らないのよ」
「……福吉さんよりマシかもしれないですね…それ」
「いやいや福吉さんの一日に煙草五箱と院長の三食ホールケーキは同じぐらいヤバいだろ…」
「…僕もいずれあんな風になるのかな…」
─食材をパックから出しながら、雷磨が愛さんに院長の普段の食生活について語るが、絶句した。
─そりゃあ、院長は三食をホールケーキで済ませ、更に飲み物は一リットルのいちごオレなのだから。
「大丈夫よ。私がご飯作って、雷磨さんの健康守るわ」
「愛さん……嬉しいです」
「よし、お姉ちゃん、この赤身肉はどうするの?」
「そうね…赤身肉でガーリックステーキライスにして、鰻で蒲焼きにしようと思ってるの。あとお父さん皺が増えてる気もするから、嫌でもミネストローネ作って食べさせるわよ」
「もう…お父さん、四十七歳かぁ…あれ、四十八歳になるんだっけ?」
─喋りながら調理は進み、盛り付けをしようとしたタイミングで院長が帰宅した。
「帰ったぞ……何だ皆して」
「お帰り。お父さん今日早帰りだから、皆でご飯作って労おうとしてるの」
「ほう…っ!何とありがたいんだ…飯は出来てるのか?」
「はい。疲労回復に効果のある食材を使ってご飯作りました。院長、座って座って」
─クタクタで、白衣やスーツが着崩れていて、目の下にクマがあった。
─院長は着替えて、席に着いたことで、俺達は食卓を彩り、食事は始まった。
「院長、ビール飲みますか?」
「ありがとう。にしても、娘二人がもうすぐ結婚とはな……これ以上幸せなことはないだろう」
「気が早いよ…会場は決めたけど、プランはまだ決まってないんだから」
「実はな…最近仕事で手が空く度に、お前達の結婚式のスピーチの構文考えてるんだ…それとご祝儀に十万は包みたい」
「嬉しいけど、無理し過ぎよ…お父さん、来年で四十八歳なんだから」
─こうして楽しく食事会は盛り上がった。
─結婚式の話や将来の家庭の話にもなり、少し歯がゆかった。
─それでも、舞姫が傍にいるから自信が持てた。
「ケーキ。雷磨さんはモンブラン、舞姫がチョコレートケーキ、希望君はチーズケーキ、お父さんはショートケーキ…私がフルーツタルトね……舞姫、コーヒー淹れましょう」
「うん!希望君、お父さんも先にケーキ食べちゃダメだからね!」
「わかってるよ」
─飯を食べ終わり、舞姫と愛さんが食後のコーヒーを淹れに台所に行く。
─その間に、俺と雷磨、院長の男三人になる。
─何と話したらいいのか俺も雷磨も分からなったものの、院長が察して話してくれた。
「雷磨君…希望君。ありがとう…そして、これからも娘をよろしく頼む」
「院長…こちらこそ、よろしくお願いします。その…お義父さん」
「俺も…よろしくお願いします。お義父さん」
「はっはっは…まさか、二人に"お義父さん"と呼ばれる日が来るとは……しかし、愛達とは血が繋がってないにも関わらず、本当の親子みたいだな」
「それは……愛さんが、"血縁なんて関係ない…家族は心で繋がってる"って言ってくれたからでしょう」
「そうだな……娘達に嫌われる覚悟で…ぐすっ!話したことだからな……二十年間二人を育てた…やっと肩の荷がおりたみたいだ…」
─今の院長は、"医師"としてではなく、"父"として話をしていた。彼には幼い頃から世話になっているが、こうして見ると目付きも違う。
─でも、誰よりも愛さんや舞姫─そして如月や俺に、家族の愛を与え続けている。
─俺達は、手を交わし合い、誓った。
─必ず────二人を幸せにすると─。
「もう…お父さん泣き過ぎよ……何か歳取って涙脆くなったわね…」
「これじゃあ…私達に子どもが出来たら、孫に甘々なお爺ちゃんになるね」
「ぐすっ…!愛…舞姫…し、幸せ、に…なぁっ!」
「ふふっ」
─この日はケーキとコーヒーを囲み、未来や子どもの話をして更に盛り上がった。
「すう……すう……」
「ぐう……すう…」
「すう…すう……」
「希望君、希望君…」
─その夜、俺達は煌星家に泊まり、客用布団で寝ていた時、俺を雷磨が起こしてきた。
「ん…何だよ……ふわぁ」
「…ちょっと二人で…話しません?」
─眠い目を擦りながら、俺達はリビングのソファに座り、暖かい飲み物を淹れた。
─俺は紅茶ラテ、雷磨はカフェインレスのカフェオレだった。
「らしくないぞー?どうしたんだよ?」
「いやぁ…何となく思ったことがあって、話したくなったんです」
「思ったこと……?」
─暖かい飲み物を一口含む。雷磨がマグカップを置くと、ようやく話したいことを話した。
「…僕達、似た者同士だなって」
「似た者同士……?」
「えぇ。あなたには、亡くなったお兄さんもいるわけでしょう?僕達は次男…それにあの病院で僕らは出会った…それに僕らの恋人は、院長の娘……」
「確かにな」
「何より…一度は絶望の底に堕とされたけど、愛さんと舞姫さんがあの時いてくれたから、こうして僕らは生きていけてる……こんなに共通点多かったら、似た者同士だなって思って…」
「そういえば、俺達の仲って…あの南北北病院から始まったんですよね」
「だな……もうあれから十年ぐらい経ったのか…懐かしいなぁ」
─雷磨が言いたいことは一つ、僕達は似た者同士だということ。
─次男、初めて出会った場所、恋人、絶望してた時期─それらが彼と似ていた。確かに今思うと、俺達の仲は、南北北病院から始まっていたのだ。
─その夜は、懐かしい過去の話をした。話が尽きる頃には深夜四時になっていて、暖かかったはずの飲み物はとっくに冷めていた─。
――――――――――
「ただいまぁ…疲れた…」
「舞姫、おかえり…飯作ってあるし弁当箱洗っとくから、シャワー浴びてこい」
「うん…ありがと」
─ダブルデートからまた一週間が経過した。
─舞姫が日勤から帰ってきた日、その日は俺は休日で、家事やゲームをしていた。
─必ず舞姫の好きな茄子料理を作ることが、俺の休日ルーティンの一つである。
「ん〜!おいひ〜♡」
「良かった。麻婆茄子の辛さ加減どう?」
「麻婆豆腐ならアウトだけど、麻婆茄子なら幾ら辛くても大丈夫だよ…ふふっ」
「茄子限定なのか……」
「……こうして、私達の間に子どもが出来たら、更に幸せになれてるかな」
「当たり前だべ……俺は舞姫となら、どんなに辛い壁でも乗り越えれる自信しかないぞ」
「…ありがとう」
─そして、俺が作った茄子料理を食べて頬を緩ませた舞姫の笑顔も見るのも、俺の休日ルーティンの一つである。
─リスのように料理を頬に詰め、美味そうに飯を食う姿は、どこの誰よりも愛しいのだ。
─舞姫となら、どんなに辛い壁でも乗り越えられると話すと、彼女は笑顔で返し、ボソッと話してきた。
「…ねぇ希望君」
「なしたー?」
「……お姉ちゃんと話したんだけど、私達、似た者同士だなって思ったの」
「奇遇だな…俺も雷ちゃんとその事話してた」
「私、お姉ちゃんとは性格や好きな物とか正反対だけど、血が繋がってることとか、どうしたら希望君や雷磨さんを幸せに出来るかとか…お父さんに例のこと話されて思った事とか似ててさ…」
─何と、彼女も愛さんと話して、自分も似た者同士だと思ったらしい。
─やっぱり俺達の仲は、南北北病院から始まっていて、俺と雷磨は一度絶望していた過去があったものの、愛さんと舞姫と出会ってから、人生が変わったこと。そして─院長に恩返しをする夢を叶えたいのも事実だったのだ───。
「希望君ー!ウエディングドレスどうかな?」
「おおー…めちゃくちゃ綺麗だぞ…」
「ふふっ。嬉しい…希望君の好みで選んだの!」
「色々あるのねぇ…雷磨さん、どう?変じゃないかしら…?」
「凄く似合ってますよ…花嫁さん」
「もうっ!でも…ありがとう」
─そしてまた別の日、俺達はウエディングドレスの試着の付き添いをした。
─式場のスタッフと共に、ウエディングドレスを試着しては、幼い姉妹のように燥ぐ愛さんと舞姫さん──。もしかしたら、昔の院長は、一秒一秒愛さんや舞姫さんとの時間を噛み締めながら、過ごしていたのだろうか。
「……院長、昔はこんな感じで愛さんのことを常に見守ってたんですかね」
「かもな……俺達、本当に似た者同士だな」
「えぇ…」
─ダブルデートの日、俺達の結婚式は合同で行うことが決まった。
挙式がいつかはまだ未定だが、院長には当日、誰よりも幸せでいて欲しいものだ。
「……なぁ舞姫」
「なに?」
「これからもさ…笑って、泣いて、喧嘩しても、ずっと一緒に生きていこうな」
「うん……希望君となら、どんな未来でも大丈夫」
─そう言って笑った彼女の横顔が、初めて出会ったあの日と重なった。
─きっと、あの日から俺達の物語は始まっていたのだ。
─そして、これから続く未来のページには、まだ見ぬ幸せが待っている。
……To be continued
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