着飾る理由なんて
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─就活が落ち着き、秋になった。
─私も廉命さんも─学科のクラスの皆も大体内定を頂くことが出来て、私達は落ち着いていた。
そして秋──学園祭の時期がやってきた。そこでは高校同様にクラスごとに出し物を考えるわけだが───一つ、違うことがあった。
「ミスコン……?」
「うんっ!プロデュース担当と、ミスコン担当って感じで二人で出るの。クラス参加必須なの」
「…まじか」
「如月さん出なよ。旦那様に花嫁姿見せろよ」
「は……はにゃ嫁……もう」
「俺は……夢玖さんに任せるよ…」
「照れんなって……!」
─ミスコン─女性の美しさを競う美人コンクールのことらしい。それに、それはクラス参加必須なのだとか─。私は押されるままにスポーツ健康科学科代表として、ミスコンに出ることになったのだ。
「へぇ……ミスコンかぁ。仁愛も夜海ちゃんと出ることになったんだよー」
「ほんまかー……こりゃ優勝が決まっとるもんやねぇ…」
「…………ねぇ夢玖ちゃん。本気で悩み話していいかな?」
─昼休み。いつもの皆と食べる予定ではあるのだが、廉命さんや夜海、凪優が後で合流するとのことで、私は仁愛と話していた。彼女の顔は暗く、空色の瞳の奥に何かモヤが掛かっていた。
「かまへんで…何かやなこと言われたん?」
「まあそうなんだけどね………最近、幼児未発達学科の間で、仁愛の噂が広められてるの」
「……噂?」
「…うん。実は仁愛ね……ヤク「仁愛ちゃん」
「あ、夜海ちゃん……」
「………ここじゃあれだから、場所移ろうか」
「うん」
「(仁愛ちゃん……何かあったんやろうか…)」
─仁愛が話そうとすると、夜海達が来て、場所を移すことになった。人気のないところで、私達は話を進めた。
─どうやら、仁愛と夜海が在籍する幼児未発達学科にてある噂を広められてることらしい。
「……実は仁愛…ヤクザの娘って、幼児未発達学科の間で噂されてるの…もしかしたら大学全体に噂が広まるのも、時間の問題かなって……」
「鎖骨に刺青あるからね……」
「…でも、間違ってはないから仁愛としては何も言えないんだよね……」
「……どういうこと?」
─凪優は仁愛に聞いた。
─すると仁愛は、美しい瞳に涙を浮かべながらボソボソと話を進めた。
「……実は仁愛、ヤクザと暮らしてるの」
「えっ!」
「……今は皆引退して、粲坂温泉で働いてるけどね。それにこの刺青とピアスは、亡くなったお父さんとお姉ちゃんがくれた、大事な形見なの…」
「…嘘」
「嘘じゃなかったらこうして話してないよ……仁愛のお母さんが借金を残して消えた…それでお父さんとお姉ちゃんが働いて借金を返してた…でも仁愛も、中学生の時キャバクラにスカウトされた…」
─なんと、仁愛の身を纏う鎖の刺青や、派手なピアスの裏には─理由があったのだ。
─驚く間もなく、仁愛は話を続ける。
「…………」
「でも、お父さんもお姉ちゃんも亡くなって、更に酷い店に移された…でも借金が返せなくなって、ヤクザが押し掛けてきてね…どうしたらいいか分からなくなって……仁愛はヤクザに引き取られたってわけ…」
「………そうなのか…」
「本当はこうして話すべきじゃなかったのは…分かってる…就活も本格的になってて…皆に打ち明けるのが遅くなるほど…嫌われるんじゃないかって怖くて……その、黙っててごめん」
「…………」
「…ちなみに、愛先生は知ってたけど、敢えて私達には話さなかったみたいだよ」
─仁愛が一通り話し終え、私達に沈黙が募っていた。
─確かに、仁愛に壮絶な過去があったなんて思いもしなかったから。
─それでも私達の気持ちが変わることはなかった。刺青やピアス─外見的な差別や嫌がらせを受けても、仁愛は常に笑顔で、私と友達でいてくれたのだから。
「……そんなん話されたら…友達辞めるわけないやんか…ずっと一緒におるで」
「うん…仁愛ちゃん…今まで誤解してた……こんなに辛かったなんて…ごめん」
「……よく頑張ったね。俺達に話したってことは…福吉さんも受け入れてくれたんだな…」
「…仁愛ちゃん、よく一人で頑張ったね…皆、味方だから、安心して」
「………皆…っ!ぐすっ…!」
─私達は仁愛に抱き着き、彼女の気持ちが落ち着くまで泣いたり笑い合った。
「夢玖ちゃん…皆………仁愛を受け入れてくれて……ぐす…ありがとう」
「…うん」
─仁愛の胸に抱かれてしまった。
─彼女の胸に顔を埋めると、藤の花の香りが鼻腔を擽った。
─そして、お互いミスコンで頑張ろうと話をした。
――――――――――
「ステージ発表どうする?」
「そりゃ女子のダンス入れれば……」
「いいね!やろうっ!あとは…男子も何かやりなよ!ステージ発表二つあるんだから!」
─授業が終わり、また出し物の話題になった。
─ステージ発表は二つあるのだが、一つ目は女子のダンスに決まった。私を入れると学科の人数は八人なので、流行りのアイドルの曲を踊って歌ってということになった。
─二つ目は───
「うーん…よし、俺らはライブやるか!シンセサイザとかやったことあるし!」
「まじ!俺ドラム出来る!」
「俺エレキギター出来るー!そうだ日出はボーカルな」
「勝手に決めんなよ!」
─スポーツ健康科学科の男子でのライブになった。学園祭準備やアルバイト、勉強に忙しくなっていたら、学園祭当日が訪れた。
─高校の時の文化祭とは一味違う、校内を回るだけでも、凪優のところは脳神経発達症を持つ子供達とのクレープ屋、夜海と仁愛のところはベビーカステラ屋など──とても楽しい思い出となった。
─ちなみに私のクラスの出し物では、プロテインスイーツ屋をやった。まさに私達が飲むプロテインで、スイーツを作るとは思いもしなかった。
――――――――――
「いよいよ本番だね……」
「緊張してる?」
「してる……でも、皆がいるし、廉命さんも見てくれてるし、大丈夫」
─ステージ発表も進み、ミスコンの時がやってきた。
─ステージ裏。私は胸の鼓動を落ち着けるように、深呼吸をした。
─目の前の鏡には、ミスコン用に整えられた自分。華やかなドレスに、控えめな化粧。
─普段のジャージ姿とはまるで違う。
─だけど、そんな彼女を見つめる視線は、どこか柔らかく、確かな愛情を帯びていた。
「……廉命さん」
「すごく似合ってるよ、夢玖。多分今日、誰よりも綺麗だ」
「……もう、そんなこと言わんで……照れるやんか」
「俺、今でも十分惚れてるけど、また惚れ直しそうだわ」
「バカ……」
─軽く拳で廉命さんの腕を小突きながら、私は笑う。
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
─恋をして、支え合って、ここまで来た──それだけで十分だった。
─既に結果は分かっているが、果たして仁愛はどのような美しい姿で出てくるのだろうか。
─ステージのライトが灯る。
─観客席には、クラスメイト、先生、そして地域の人たちの姿もある。
「次はスポーツ健康科学科──ミスコンエントリーナンバー六番、如月夢玖さんです!」
─呼ばれた瞬間、拍手と歓声が響いた。
─舞台袖から出ると、まぶしい光が一面に広がる。
─音楽が流れ、私は仲間たちと息を合わせてステップを踏む。
─笑顔を絶やさず、ただ"今"を楽しむように。
─ステージの最後、スポットライトが夢玖を照らす。
─客席の最前列、廉命が静かに見守っていた。
「(……見てくれとる)」
─その瞬間、夢玖の表情がふっと柔らいだ。
─観客から拍手が湧き上がった。ステージから姿を消そうと舞台袖にいると、仁愛が私を待っていた。
「夢玖ちゃん、仁愛も行ってくるね」
「うん…めっちゃ綺麗やで。いつもの倍以上に」
「ありがとう」
─そして、仁愛が私と入れ違いで、ステージの中心に立った。
─予想以上に歓声が大きかった。
「うぉぉっ!何だあの子…凄く綺麗だ…」
「続きまして、ミスコンエントリーナンバー七番、幼児未発達学科────松寺仁愛さんです!」
「うぉぉぉぉぉぉっ!めちゃくちゃ綺麗っ!」
「松寺さーん!俺と付き合ってー!」
「(……こうして人前に立つの、やっぱり怖い……でも、楽しい…っ!)」
「きゃあああっ!すっごく可愛いー!」
――――――――――
「それではっ!福島大学学園祭…結果発表します。今年のミスコンテスト優勝者は………」
─ミスコンもスムーズに進み、結果発表となった。私と彼女を入れて、二十人ぐらいだっただろうか─。
─響くドラムの音が─結果発表を待ち遠しくさせる。
「っ!幼児未発達学科一年……松寺仁愛さんですっ!」
「うおおおおぉっ!」
「きゃあああっ!」
「ふーっ!」
「(やっぱり……幾ら着飾っても、仁愛ちゃんには勝てへんな…でも、嬉しそうや)」
「次に、ミスコンテスト準優勝者は………スポーツ健康科学科一年、如月夢玖さんですっ!」
─優勝者は仁愛だった。白いドレスに身を包み、─鎖骨の刺青と豊満なデコルテが、仁愛にしかない個性と色っぽさを引き立たせている。
─すると司会役の学生が、仁愛にマイクを差し出した。
「えーでは松寺さん……何か一言、お願いします」
「はい…。実を話すと言われるまま出たミスコンでしたが、プロデュースしてくれた親友、そしてミスコンに当たって大切な友人との仲が更に深まりました……優勝出来たのは、皆さんのお陰です……ありがとうございました」
─そして、私達のミスコンは終わった。
――――――――――
──数分後。
─会場が暗転し、ギターの音が響く。
「それでは──“RAYBREAK”のライブ、スタート!」
─廉命の歌声が響いた。
─普段の落ち着いた声とは違い、熱がこもっていた。
─夢玖は客席の隅で、そっと胸に手を当てる。
─彼の横顔を見て、胸の奥で言葉にならない想いが溢れた。
「(……あぁ、やっぱり好きだなぁ)」
─照明の中で歌う彼は、どこまでも眩しかった。
――――――――――
ライブが終わる頃、学園祭は夜に差し掛かっていた。
打ち上げの準備が始まり、キャンパスには人の笑い声と音楽が溶けていた。
─私は、校舎の裏で廉命を見つけた。
─ギターケースを抱え、夕暮れの風に吹かれている。
「……お疲れさま。めっちゃかっこよかったよ」
「ありがと……夢玖も、すごかった。正直、見惚れた」
「……ほんまに?」
「うん。あんなに綺麗な笑顔、初めて見た」
─二人は、自然と寄り添った。
─お互いの肩に頭を預け、何も言わずに風の音を聞いていた。
どちらからともなく、手を繋ぐ。
「……廉命さん」
「ん?」
「これからも、どんな時も隣におってな」
「当たり前だろ。……もう離れねぇよ」
─秋風が私達の髪を撫でて、オレンジ色の空が、少しずつ夜に変わっていった。
……To be continued
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