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普通を失った俺が、世に希望を与えるまで。  作者: 速府左 めろ
<第二章>地を踏む一歩が、希望な意図となる。〜日本列島出張編〜
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指輪

この度は閲覧頂きましてありがとうございます!

「如月…目を開けてみ」

「…………はい」

「うわぁっ!すっごく綺麗……」

「ほんとね…お父さん…見たら大号泣間違いなしね…」


─あれから一年が経過した。また春が来て、夏、秋、冬が来た。

─生野さんによる日本列島出張の旅、満員電車、大学と共に始まった二人暮らし、アルバイト、大学の授業─それらの全てが、私と彼の距離を縮めてくれた。

─私が二十歳になったら付き合う、という約束だったものの、気付けば成人式の今日まで、その言葉は聞かなかった。


「あ、夢玖」

「凪優!めちゃくちゃ綺麗やな〜!」

「夢玖もすっごく綺麗だよ…」

「何か、大人になる実感ないなぁ…夜海ちゃんもこんな気持ちやったんやなあ…」

「そうだね……うちらが二十歳になってから、一緒に呑むことも増えたよね」


─着付けが終わり、スタッフに撮影場所に案内される。すると既に着付けを終えた凪優と仁愛が、私に駆け寄った。二人の晴れ姿は、他の誰よりも美しかった。


「夢玖ちゃん綺麗!」

「そういう仁愛ちゃんもすっごく綺麗だよ…」

「ふふっ。仁愛も大人かぁ…実感ない」


─三人で談笑していると、ドレスを着た夜海が撮影場所に入ってきた。

─そう。私達は今日の成人式に参加しない代わりに、皆で前撮りをして、その後皆でご飯を食べに行くのだ。なので着付けのピークが落ち着いた時間帯に集まり、院長が写真スタジオを一部貸切にしたのだ。


「おー!皆すっごく綺麗ー!」

「夜海ちゃんのドレス…ほんま似合っとるで」

「ありがとう…生野さん達も来るからなるべく振袖崩さないようにね」

「はーい!夢玖ちゃんはグレーにオレンジ…桜柄。凪優ちゃんは蒼に羽柄、臙脂色…綺麗…」

「仁愛ちゃんも…白に藤柄、紺色ね。ちなみに廉命君、お腹痛いみたいだからトイレにいるみたい」

「おー、皆ビジュ良いじゃん!」


─次第に生野さん、盾澤兄弟、愛先生と舞姫さん、院長、加堂さんに福吉さん、そして釜淵さんも師茶鍋さんも来て、撮影の時間となった。まずは一人ずつの撮影で、次は三人揃って、もしくは夜海や愛先生、舞姫さんや生野さん、院長も一緒に写真に映った。

─家族として、姉妹として、友人として─とにかく掛け替えのない時間だった。撮影が終わっても廉命さんは現れず、着付けを解き、着替えて食事に行こうと思ったのだが──私の携帯に、廉命さんからのメッセージが届いてた。


「……ちょっと来て欲しい…か」

「ふふっ。行ってきなよ!」

「…ほな行ってくる」


─私は振袖のまま、廉命さんの元に行った。

─外に出ると、廉命さんが雪を見ていた。彼に声を掛けると、彼は私を見るなり顔を赤く染めた。


「や、やあ…夢玖さん(何だこの美女…夢玖さん、こんなに綺麗になったのかよ)」

「……廉命さん」

「…そうだったね。呼び出してアレなんだけど、二人で話したくて」

「………はい」


─二人で歩く写真スタジオ前─。廉命さんの目は相変わらず優しい紅だった。そういえば、廉命さんはまた背が伸びていた。多分、二メートルは超えただろう。

─二十歳になってから、廉命さんを見る目が変わった。彼の想いに応えたくて必死に努力した。バストケアやダイエット、大学の授業─。今日まで彼と過ごした時間に変化が起きようとしているのだ。


「夢玖さん」


─そういえば彼が私を下の名前で呼ぶようになったのは、私があの時札幌で高熱を出した時からだろうか─。今では懐かしいが、今は違う──。

─また名を呼ばれ、顔を見上げると、いきなり唇を重ねられた。


「ん……」

「…………ごめん」

「…唇…奪われてもうたな…関節キス結構したやんな」


─ちゅ、という粘膜音が耳に響き、心臓がドキッとした。

─そして、廉命さんは懐からある小さな箱を取り出した。恐る恐る開けてみると、指輪が入っていた。


「…遅くなってごめん……約束で話した、俺達の未来の証だよ」

「……これは……?」

「婚約指輪。これからは…正式に、夢玖さんには俺の恋人……そして将来は、俺の妻でいて欲しい」

「……はい」


─婚約指輪だった。私の胸はドキドキと高鳴る。手のひらから伝わる温もり、指輪の輝き、そして彼の真剣な眼差し──全てが夢のようだった。


「嵌めて欲しい」


─そう言われ、左手の薬指に指輪を嵌めた。

─雪が降る冬の空に、指輪が輝いていた。

─だが私は愛されてる一方だと気付き、二人並んでロビーに戻ろうとした際、お返しをした。


「……廉命さん」

「ん?」

「……ん……」


─私が彼に抱きついて、唇を重ねようとした。だが彼とは身長差が大き過ぎて、背伸びしても届かなかった。だが、廉命さんが私を片腕で抱き上げてくれたお陰で、廉命さんの頬に口付けが出来た。

─塗った口紅の色素が、廉命さんの顔に着いて、甘くキュンとしてしまった。


「廉命君見てたよー?」

「や、夜海っ!てか希望さん達も見てたのかよっ!」

「流石にあれから一年経ったんだ……見過ごすわけにゃいかねーべっ!」

「まあまあ…廉命、如月さん…おめでとう」

「……あざす」

「よし皆。飯に行くぞ!松寺君、紡木君、如月君……今日は遠慮なく飲めっ!」


─そして私達は、院長が予約してくれた店へと足を運んだ。そこは、舞姫さんの大学卒業祝いと生野さんの退院祝いで来た─冰山駅前のイタリアン居酒屋だった。

─二十歳になったものの、私と凪優、仁愛は弱い酒しか飲めない。だが、こうして大切な人と結ばれたので─これ以上嬉しいことはない。


「それじゃ…改めて如月君、松寺君、紡木君……成人おめでとうっ!そして日出君と如月君の婚約に乾杯っ!」


─この夜は大人になった自分が、大阪にいた頃からは想像出来ないくらい輝いていた。正式に成人という門出を通り、晴れて大人の仲間入りを果たしたのだ──。


「いやぁ…廉命さんは…お子さんの名前何とか決めてるん…ですか?」

「それはまだ……でも、男の子の方がいいのかな…女の子だと夢玖さんと子どもに対する愛のバランスが…」

「考え過ぎだ……って…如月…酒に酔って寝てんじゃん」

「すう……すう……(…今、私…めっちゃ幸せ)」

「まあまあ…朝早くから着付けしてたんだ……ここは寝かせてやろう。仁愛さん…煙草吸うけど、ついてく?」

「あー♡いきます…ヒック♡」


――――――――――


─冬が明け、冷たい風の中に春の匂いが混じり始めた頃。

私達は、成人式から少し経った大学の登校日を迎えた。


「うわ〜、キャンパス久々やなぁ……」

「寒いのに薄着だね、夢玖さん」

「せっかく可愛いワンピ買ったんやもん。見せびらかしたいんよ」


─久々の通学路。手には、あの日もらった婚約指輪。

通学バッグを持つとき、自然と光が反射して、思わず指を隠した。

誰かに見られると、恥ずかしいから。


「おーい!夢玖ー!」

「おはよ、元気やなぁ」

「……それ、キラってしてるやつ……指輪?」

「ば、ばれた……」

「うわぁ、ほんとに婚約したんだ……やば、夢玖大人すぎる〜!」


─クラスメイトの声は相変わらず大きくて、教室の皆が一斉にこっちを向いた。

男子も女子も「えっ婚約!」と騒ぎ出して、私は顔から火が出そうになった。


「うわ〜!如月さん婚約したのっ!」

「日出やっぱり本気だったんだな〜!」

「赤飯買ってこよっか!」

「いや、もうええって……!」


─周囲がざわつく中、廊下から紅い瞳が覗いた。

「おーい、夢玖さ──」

と呼びかけた瞬間、全員の視線が彼に集中した。


「廉命君!おめでとー!」

「幸せにしてやれよ!」

「……うん。もちろん」


─廉命さんは少し照れくさそうに笑って、私の頭を撫でた。

その一瞬でまた、教室中が「きゃーー!」と悲鳴の嵐になった。


「やめてやぁ……皆見とるやんか……」

「いいじゃん、婚約者なんだから」

「……にゃんでやねんっ!」


─でも、その"婚約者"って言葉が胸の奥であたたかく響いた。

恋人、彼氏、友達──どれでもない。"婚約者"という響きに、くすぐったくて、嬉しくて、顔がにやける。


──お昼休み。


「夢玖ちゃん、いつ結婚式するの〜?」

「は、はやっ!まだ大学生やで!」

「いいじゃん〜、体育学部カップル代表!」


─凪優や仁愛達に囲まれて、からかわれる。

でも、笑われるたびに、幸せが胸の奥に沁みていく。

─私は、廉命さんの机の上で指輪をくるくる回しながら呟いた。


「(……いつかほんまに、嫁になるんやろか)」


─窓の外は、春の陽射し。

─雪が溶けて、校庭に少しずつ緑が戻り始めていた。

─私達の未来も、少しずつ色を取り戻していくように感じた。


──放課後。


「帰ろっか」

「うん。今日は寄り道してええ?」

「もちろん」


─二人で大学を出て、駅までの道を歩く。

─途中で買った温かいココアを分け合いながら、

彼の隣を歩くだけで、世界が柔らかく見えた。


「夢玖さん」

「ん?」

「指輪……似合ってる」

「……ありがと。廉命さんのくれたもんやもん」

「大切にしてくれて嬉しい」

「当たり前や。これ、私の宝もんやから」


─その言葉に、廉命さんは少しだけ微笑んだ。

─手を繋いで歩く帰り道。

─大学の門の向こうには、淡い夕暮れが広がっていた。


「……これからも、よろしくな」

「……うん。ずっと一緒やで」


─その約束を胸に、私達の新しい春が始まった。







──to be continued──


閲覧頂きありがとうございました!

コメント、いいね、感想お待ちしております!

次回作もお楽しみに!では。

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