やっと自覚しました
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『夢玖さん…っ!しっかり…っ!』
『夢玖さんっ!』
「夢玖さんっ!」
「は…っ!朝……?ここは…マンション…?」
─目を覚ますと、私はマンションの部屋にいた。心配で顔を覗きに来た廉命さんに起こされ、起きた時はパニックになっていた。
「夢玖さん、大丈夫?今日の授業、一限は座学だから良かったけど…二限から器械体操、柔道、バスケ、バレーもある…無理しないでいいからね」
「………はい」
─どうやらあの後、私の熱射病は落ち着き、何とか熱も下がり、退院したのだとか。
─病み上がりというのもあり、私達は大学に行く準備をし、大学に向かった。この日は雨で車の渋滞が予想されることにより、私達は電車で登校した。
「さすが朝一の福島行き……人多過ぎだろ」
「まあ…大阪メトロもそんな感じやで」
「満員電車か…(夢玖さんと密着…心臓の音聞こえないでくれっ!)」
「(廉命さん…胸板厚ない…?どんだけ鍛えとるねん)」
─朝一の福島行きの東北本線に乗る。七時台とはいえ学生やサラリーマン、年配の方が多いため、満員電車である。私達は窓際により、立っていた。
─それにしても、この満員電車によって廉命さんの持つ紙袋が潰れてしまわないか不安だった。
「次は冰山〜冰山〜」
「夢玖さん、体調は大丈夫?」
「はい…」
「うぉ……やっぱり人多い…」
─冰山で乗り換えが必要な人も多かったため、更に電車内は満員になった。そのまま素宮も通過していくわけだが、私にある事故が起きた。
─後ろから知らない手が伸びて、私の太腿を摩ってきたのだ。廉命さんに助けを求めようとしたが──電車内の人口密度が高いため、声を出せずにいた。
「(嫌や…やめっ!)」
「…夢玖さん……どうしたの?」
「……なんか…んっ……後ろから手が…あんっ」
「なるほど……おい、そこのオッサン、次の駅で降りろ」
「はひっ?」
「いいから降りろ」
─日本松駅に到着した時、私達と先程脚を触ってきたであろう犯人は、一度降りた。その犯人は逃げようとしたが、廉命さんが追い掛けて取り押さえた。
─廉命さんはその紅い瞳で犯人を睨み付けた。
「おい…この子の脚、触ったよな?」
「いや…その…違うっ!たまたま手が当たっただけだ…っ!」
「ふーん?この子の脚、どんな感触だった?」
「そりゃあ…ムチムチしてると思ったら引き締まっ……あ」
「お巡りさん…このジジイ彼女の脚触りました。痴漢で逮捕して下さい」
「お、お嬢ちゃん…本当かね?脚、触られたんだってね?」
「はい…後ろから脚摩られてん…ほんまに嫌やった……」
「分かりました。では事務所までご同行を…」
─その後犯人は、痴漢で取り調べを受けたのだとか─。次の福島行きの電車に乗り、金矢川駅へと向かった。
─先ほどは廉命さんが壁に寄り掛かり、私が彼にしがみついてた感じだったので、今度は体勢を逆にした。
「…………」
「(………廉命さん、こうして見ると背高いな…あべのハルカスより高いんちゃう?)」
「(クソっ!あのジジイ…次会った時覚えてろ…っ!)」
「(……廉命さん、犬みたいに威嚇しとる…)」
─奉川駅を通過しようとした時、急な信号停止で電車は急停止をした。それにより多くの乗車客が戸惑って転びそうになったわけだが─廉命さんもその電車の揺れにより、壁に手を付き、私と更に近付いた。
「(これ……あれやんな?壁ドンってやつ…?)」
「ごめん……」
「いや、しゃーないですよ……んっ」
─廉命さんは、電車の揺れを利用して壁ドンをしてきたのだ。あまりの近さにドキドキしてるのに、廉命さんは構わず私の背を抱き締めてきた。
「…にゃ…何するねん」
「たまにはいいじゃん…これくらい」
「……さっきのおっちゃんにイラついとるんです?」
「それもあるけど……さっき、夢玖さんをいやらしい目で見てるのを感じてね、分からせてあげるんだよ……俺の"モノ"だって」
「〜!(う、今日の廉命さん意地悪…にゃんでやねんっ!)」
─彼の胸に埋もれながら、金矢川駅へ辿り着いた。改札を切り、駅を出て歩く。大学までは徒歩十分という距離だ。
「なぁ廉命さん、その紙袋に入っとるんは?」
「西日本での旅と、東日本のお土産。大学の皆にって買ってたじゃん」
「そうやった!高熱で忘れとった…」
「流石に量が多いと申し訳ないから、博多に鹿児島、広島に大阪、京都…あと金沢に横浜、札幌のお土産ね」
「大阪はタコパティ、京都は八つ橋…我ながらセンスあるなぁ」
「大阪、また行きたい…」
「あ、ほんならフニバ!フニバ行こか!」
「フニバ……FSJじゃないんだ…」
─日本列島での旅を終えてから、金矢川駅から大学までの道のりは、旅の思い出話と並行に進んでいく。金沢の海鮮が絶品だったとか、大阪の串カツが美味かったとか、別府温泉が最高だったとかの話が、私は好きだった。
─この手を握る、廉命さんの手─。私の三回りは大きいし、ゴツゴツしていて、ケロイドや縫合跡がある。でも────とても温い。二十歳になったら、本当に彼と付き合うのか─。あまり実感が湧かずにいた。
「日出ー!如月さん久しぶり!旅してきたんだって?」
「まあまあ…お土産あるから落ち着け」
「おお…日出先輩あざっす!」
「おおー!大阪じゃん!」
「大阪…京都のお土産も私が選んでてん…ほんまは午後一がええかと思っとったけど…」
「八つ橋…初めて生で見た!てか夢玖痩せたー?顔小さくなってるー!夏バテ?」
「実は熱出て…病み上がりなんよ……」
「大丈夫ー?もしもの時は、旦那さん傍にいるからねっ!」
「だ、だ……た…旦那っ!ま、まだそんなんや…ないで……ほんまに…」
─教室に行くと、クラスメイト達が廉命さんに声を掛けてきた。どうやら俺達が全国を巡っていたことは知っていたようで、私達は渋々お土産を出した。彼らは目をキラキラとしていた。
─すると同じクラスの女子から痩せたと心配されながら両手で頬を支えられた。最近高熱を出して病み上がりだと話すと、廉命さんのことでからかってきた。
「俺が……旦那…(いやいやいやっ!俺達まだ付き合ってないんだよっ!)」
「旦那とか……まだそんな関係…やないし…」
「照れてる!今日は体育の授業もあるから体調悪くなったら言ってね」
「おおきに……にゃふ」
─その後クラスメイト達に囲まれ、私達は生野さんと歩んだ旅路について話した。三人で見た景色、生野さんの講演の内容、そしてその場で食べた料理のことを。
─旅をしてから、人の暖かさを分からされ、視野が違っていた。もちろん、廉命さんに対する気持ちもだ。
「いやぁ…病み上がりはキツいなぁ…」
「……夢玖、なんか今日ずっと日出君のこと見てない?」
「うえっ!いやぁ…あんなんガタイええ人おったら見るやろ」
「違うなぁ…夢玖は、恋をしてるの」
「………恋、かぁ………あんまり考えたことないなぁ」
「一緒に住んでるし、旅で温泉も行ったんでしょ?甘酸っぱいよねぇ…ふふっ」
「う、べ……別にそんなん…や……(そういえば、廉命さんをこっそり見るようになったんはいつやっけ…?)」
─午後の授業。バスケの授業が始まり、準備運動やシュート練習までは良かったのだが、試合が始まる前に、危険を感じ、端っこで休んでいた時、クラスの女子が話し掛けてきた。
─そういえば、西日本を旅して以来、気付けば廉命さんのことをこっそり見てる気がする。
─それに綺麗になりたいと思ったり、ご飯が食べれなかったりしたのだ。
「夢玖、ちゃんとご飯食べてるー?」
「た、食うとるで……たこ焼き四個くらい」
「体育学生がそんな量で動けるわけないでしょ……夢玖、あんたは今恋の病に掛かってるんだよ」
─どうやら私は恋の病に掛かってしまったらしい。どおりで廉命さんがカッコよく見えたわけだ。元々彼の想いに応えようとしてたものの、今度は私が廉命さんに、恋をしてしまったらしい。
「日出ー、お前如月さんと同じ部屋で暮らしてるってまじ?」
「馬鹿!声がデカい」
「まじっ!うわいいなぁ…関西猫系美少女と同棲なんて…如月さんの部屋着姿にすっぴん姿……狡いぞ日出!」
「あれは彼女の親父から頼まれたんだよっ!まあ…悪い気はしないけど」
「なんだなんだ〜?もしかして…ちょっとイイことシた?」
「馬鹿っ!夢玖さんが二十歳になったら付き合うし、婚約もするっ!大学卒業したら彼女との子ども作って、家庭を築くんだっ!」
「おお〜。熱いですな〜若旦那っ!」
「おいっ!」
「旦那さん本気過ぎる…ねえ夢玖……って…顔真っ赤じゃん!」
「(にゃ、な……何言うとるねんっ!恥ずかし過ぎて…顔見れへんやんか〜っ!)」
─しかも今、男子がバスケをしてる時に、廉命さんが大声で私との未来を話してしまった。体育館中に響き渡り、私は恥ずかしくなり、頭を抱えてしまった。
─それと同時に何故か───下腹部が反応してしまった。
――――――――――
「凪優…聞いてや……」
「今日ずっとそんな感じだけど…廉命さんと何かあった?」
「うん……私、あかん病に掛かったみたい」
「ぶふっ!」
─学校が終わり、アルバイト。この日は廉命さんが休みだったが、どうしてもこのモヤモヤが晴れなく、休憩中に凪優に話してみた。
─予想以上の発言だったのか、凪優は飲み物を吹き出してしまい、こちらに掛かった。
「けほっ!けほ……ごめん…」
「気にせんでや…いきなり話されたら困るやんな……でも、廉命さんの顔見るの出来ひん…恥ずかし過ぎて…」
「お、如月ちゃんに凪優ちゃん……二人してどうしたんだ?」
「実は夢玖…恋の病に掛かったみたいで」
「何だと…っ!こりゃ赤飯買わんとな…それで、如月ちゃんはどうしたいんだ?」
─飲み物に滴った髪や顔を拭いていると、休憩室に加堂さんも入ってきて、私達の話に加わった。凪優が話すと、彼は明確なアドバイスをくれた。
「どうしたいって…そりゃあ廉命さんの想いに応えたいです」
「なるほど。それならもう少し綺麗になってから、告白だな」
「告白…?」
「……廉命はずっと如月ちゃんに好きと言ってるんだ。だから、今度は如月ちゃんから好きって言え」
「…………はい。ところで加堂さん」
「…あ?」
「夜海ちゃんとはどないなっとるんです?」
「……お前らガキには関係ない話だよっ!おら、これでも食っとけ!」
─彼のアドバイスを機に決意をした。もう少し綺麗になって、廉命さんに告白しようと─。そのついでに、気になることがあり、聞いた。夜海とはどうなのかを。すると彼は顔を赤くして、私達にお菓子を渡して休憩室を出た。
─その後も何とかアルバイトを終え、帰宅した。
「お疲れ様」
「おおきに」
「寒かったでしょ?暖かい飲み物買ってきた…あと、飯も作ってあるから」
「……おおきに」
─廉命さんが車で迎えに来てくれ、彼と会うと、授業の時と同じように下腹部が反応してしまった。さっきからこのキュンキュンとしてるのは何だろう─。
─夜、アルバイトを終えて帰宅した私を、廉命さんが迎えてくれた。
─温かい食卓と静かな夜。私は、胸の奥のざわめきが何なのか分からず、凪優に言われた"恋の病"という言葉を思い出す。
「……私、ほんまに、廉命さんのこと……好きなんかな」
「ん? 何か言った?」
「ううん……なんでもないっ」
─洗い物を終えると、廉命が背後から軽く肩を抱く。
「無理はするなよ。まだ身体、完全に治ってないだろ?」
「……うん。おおきに」
─彼の掌の温かさが伝わる。
─それは、恋人のようで、家族のようで。
─けれど――胸の奥で、確かに"恋"の灯がともった。
─私は思った。
「(私、もっと綺麗になりたい……そんでもっと、ちゃんと"好き"って言いたい」
─紅い瞳で穏やかに笑う廉命を見上げ、彼女の中で静かに決意が芽生える。
「次は、私の番や」
─そしてその夜、夢玖はノートを開き、加堂の言葉を思い出しながら、小さな計画を書き始めた。
「廉命さんに、"好き"って言うタイミングを探す」
─窓の外では、春の雨が静かに降り続いていた。
──To be continued──
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